『食堂』
どちらかと言うと広めのキッチン。水浸しになった。
奥にはシステムキッチンとカウンターがある。ガスも水道も電気も通っていない。
カウンター奥に「箱」のついた扉があるが、曇り空の見える階段があるだけ。
『記録[
「生まれた日にも時刻にも体重にも4が入ってたから、
じゃあ……と名付けられた気がしますね」
種を明かすとなんとも。気に入ってなくはない。
「木枯さんの本を楽しみに生きるのは、
まだちょっと生への活力が足りない気がする」
「…………聞いたことない名前ばかりだ」
名前を聞いたところで、自身の記憶の手がかりになるものは、ない。
「夢の中の世界……夢の中の世界、なぁ…………」
知らない方が幸せなこともある。黙っておくことにした。
「ごめん、聞いたこと無い。帰ったら本屋で調べてみるね。
木枯さんって呼べばいいかな」
「ヨンコ…聞いた事ない名前ね。一子は聞いた事あるけど、
その後ろの名前って聞いた事ないや。」
「ギャルはどうせ有名な文豪とかも知らねぇだろ……探せ探せェ〜」
「まぁこの世界って俺の夢の中の世界だからな……
ある種作品と言える……」
この男はここを自分の夢で見てる世界だと誤認してる。
明日くらいにようやく現実だと気づくだろう……
「ご明察。……私が特別4に縁があるだけで、
他のきょうだいはイチロウでもミカでもないですが」
「そして、木枯先生と。
……こうしてみるとやっぱり皆個性豊かですね」
「それこそ作品みたい」
「ヨンちゃんみたいなおとなしそーな子が黒幕なの、めっちゃよくない?笑」
「へー!小説全然読まないから聞いたことな笑」
「今度探してみるねー笑」
「おじさんの名前は木枯 芥子(こがらし からし)だぞ〜」
「本名もペンネームもそう。聞いたことある?ない?ないか……」
余程コアなミステリーファンとかじゃないとな……
「私ですか?……」
「ヨンコです。四の子だから、ヨンコ」
黒幕呼ばわりを平然と受け入れたものの、
これもこれで時によってはややこしくなりそうだったな。
「あだ名が思いつけば好きに呼んでもらって大丈夫です」
「なんかさすがに別話として書いた方が良いかもな……」
「レイラ探偵の事件簿とかにしとくか……黒幕の嬢ちゃんの名前はなんだっけ?」
さすがにここを題材にしてうさぎ争奪戦が始まったら、ここのことを知ってる人に顰蹙を買ってしまうかもしれない。
「お話も変な方向に向かってしまっています」
「というか、このままでは私が黒幕にされてしまいますね」
それはそれでちょっと面白そうだな。
「レイラちゃん名前も主人公向き!笑」
「てゆかあの暗号みたいなギャル文字今頃のJK書かん笑」
「アタシが見ても全然暗号だしアレ笑」
「ハムゲーム、ジャンハムだったら本気出すし!笑」
「どうしてそんな発想を……???」
ここに来て一番の動揺をしてしまった。
「どちらかといえば……
……苦渋ながらウサギにしたいですね、そういうときは」
「あっそれは僕も仮定で考えてました。
この中に黒幕がいるという線。
まだ日も浅いですし、いるかもわかりませんし
もう少し情報が欲しいところ」
「レイラね、また外国人かァ〜?多いなァ」
「ギャル文字のダイイングメッセージとか普通に暗号だろ……」
「えっ……ハムスターを……?食料ってこと……?」
結構怖いこと考えるんだな……ソバカスの嬢ちゃん……
「人の事信じられなく……確かに、
ちょっと浅慮でしたね、今の発言は」
フィクションに照らして物を考えるのは楽しいけど、
作品ほど劇的な展開なんて、長生きの為にはいらないな。
「でも、一度ぐらいはゲームマスターになってみたいかも」
「今から皆さんには……ハムスターを取り合ってもらいます」
「有難う。期待してる。私はレイラよ」
「それよくあるパターンよね。身近で状況を眺めたいから自分も参加して紛れ込んでるっていう。」
「じゃあギャルは決定的な証拠をみつけて
『えてかこれ黒幕あいつじゃね笑マジウケる笑』ってセリフと共に
殺される役に配置するかな……」
「被害者の中に犯人がってのはまぁよくあるけどなァ〜
でもあんまそういうの考えない方がいいかもな今は」
「人のこと信じられなくなっちゃうだろ」
こいつが犯人かもって思うとさ。
「死にそうと軽く口に出せるぐらいならまだ余裕がありますね」
キッチンの見聞を終えて、
抱えていた傘をこんと床につける。
「やっぱりお話としては、巻き込まれた人の中に、
黒幕もいるものだと思っていますけど……実際どうなんでしょうね」