『食堂』
どちらかと言うと広めのキッチン。水浸しになった。
奥にはシステムキッチンとカウンターがある。ガスも水道も電気も通っていない。
カウンター奥に「箱」のついた扉があるが、曇り空の見える階段があるだけ。
『記録[
「煙草吸いに行くのすら考えなくちゃいけなくなったなぁ」
それは、なんともわざとらしい呟き。
……だって、考えてる事はきっと同じことだったから。
こんな所で、超常現象の産物に祈りでも捧げなくちゃいけなくなるとはな。
「おはようございますー、かな?」
「現在は"堂"は静かなるもの。閑散具合は過去一を更新しておりまぁす」
「お外へお出かけの際には足元にお気をつけくださいませ」
「もちろん、ダリアさんも、ですよ……?」
仕事の時がくれば別れて行動することになる。
その際に貴女が行方不明にでもなったとしたら……。
考えたくもなかった。
「お気をつけて、いってらっしゃいませ」
カーテシー。緩やかに、されど丁寧に見送って。
「……。…スベリも、気を付けた方がいいねぇ」
そうだと分かってても、"仕事"の時が来たら……
……あぁ、嫌だな。ソレだけは、絶対に。
「あ、ありがとうございます、ダリアさん、スベリさん。」
条件が分からないが『2人組』が関係するなら絶対に伝えておかなければいけない事だと思ったし、
少し前にスベリの方とも会話してたからそこは猶更。
片割れが消えた方の動揺は自分が嫌う人外でも痛々しかった、だから同じ思いをして欲しくないし、
自分だってしたくない。
「お二人も…お気を付けて…。」
2人の名前を聞いてしっかりと覚えて、それからお辞儀して足早に食堂を後にする。
「……そんなことが」
怖い、なんて口にしようものならその感情に押しつぶされそうで。
「その伝言、承りました。
貴女様も、くれぐれもお気をつけくださいませ」
なんて、平静を装ってカーテシーをするのであった。
「真白い子が来たら『乃々』って子が個室に戻っておくように、だね」
「"堂"のメイド、"ダリア"とスベリが承ったよ」
ひとつ、静かにカーテシーを執り行い。
「キミの方こそ気を付けて。微力ながら、無事を祈っておくからさ」
ついでに背中をさすって貰って呼吸は落ち着いたようで、
伝言したかった事も普段の小さい声より幾分か大きな声で伝えれただろうか。
こくこくと頷き、文字通り何の前触れも無く、影も形も無くなったのだから。
「き、気を付けてどうにかなるのか分からないけど、とりあえず……伝えるだけ伝えておこうと…。
私、またの人にも注意喚起に行くつもりですが、もしここに真っ白な子が来たら、『乃々』が
個室に戻っておくように言ってたって伝えて貰って良いですか?」
きっと相手を見ればすぐ分かるはずなので、大事な相手の為に伝言を頼もうと。
「ひとまず、スベリの通り私達は無事だよ」
「というのも、殆ど2人一緒に動いてるし。この時間帯は大半"堂"に居るから、かな」
「……。出歩くだけでも危険が伴うようになってきたのかなぁ」
「どーうどう、まずは深呼吸深呼吸」
断られなければ、そのまま背中を擦り……
「天使……あぁ、8番目の子かな」
「目の前で"消えた"。2人組の片方………」
記憶を手繰る。再生する。……………。
「落下」の可能性があります。
「………。…なぁるほど、ねぇ…」
「……落ちた?」
あの通信機の音声が関係あるのだろうか?
「……心配していただきありがとうございます。
私とダリアさんは今のところ無事です」
「……観測不能」
その単語に、不安げに片割れの顔を見るのであった。
「はぁっ、はぁ……よかった…、両方居た…。」
息を切らしつつ、一旦深呼吸し、
「ひ、人…というか、天使だけどまぁ一旦人って事にして、バンケットで…目に前で消えてしまって、
2人組の片方だったから、メイドさん達も大丈夫かなって…確認に、けほっけほっ。」
ロビーのモニターで『観測不能』の文字を見てそのまま走ってきたから咳き込みつつ、
『2人組』の片方というのが気になったのもあって、二人にありのままを伝える。
「ふふっ、いいですね……!」
その日が来るならきっと、貴女が帰れるときだと信じて疑わない。
「そうですね……予報をどれだけ信じるかにもよると思いますし」
それでも、無事開催したいな、なんて想うのだ。
「そーそー」
「どうせ最後なら、資源だって意味ないっしょ?
ならその分、思いっきり使っちゃう感じでさ」
それは、脱出の目途がついたか。それともその逆か。
どちらでもいいんだ。此処に居る人が、貴女が笑ってくれるなら。
「ま、日時はしっかり考えとかなきゃだね」
「なるほど……たしかに。
それなら、そこまで心配しなくてもいいのかもしれませんね……」
ホッと胸を撫で下ろし。
「パーティ……そうですね! 開いちゃうのもいいかもしれません! 現時点でも色々起こってますけど、最後に笑えるなら……!」
少女の笑顔が華やぐ。
「余所で起きてたらその分こっちに掛けて来る人もいるかなーって」
中々にヤブかもしれません。
「……。それこそ、例の時間が0になったら開いちゃう?パーティ」
「……」
そう。今は仕事中だ。
だから、しっかりしないと。
「……そうですね。
そうだったなら、盛大なパーティも、出来たかもしれません」
なんて、いつもの笑みを見せるのだ。