『食堂』
どちらかと言うと広めのキッチン。水浸しになった。
奥にはシステムキッチンとカウンターがある。ガスも水道も電気も通っていない。
カウンター奥に「箱」のついた扉があるが、曇り空の見える階段があるだけ。
『記録[
(中庭から見える天気が少し変わった……)
「………………」
手を動かす。掃除をする。
泣き言を言わないように、ただ身体を動かし始めた。
ずっしりと胸にかかる重みを、ただ悼みながら。
「昨日……おとといもちょっとかな」
「スピーカーの調子が、悪くなっちゃったみたいで」
「……」
「アナウンス以外の声も、一瞬だけ、聞こえたんですけど」
それを頼りにするには、心許なすぎる。
「……いってらっしゃい、ダリアさん」
去り行く姿を恋しそうに見つめ、見送って。
「手伝ってくれるんですか?
ありがとうございます……!」
手伝いの申し出に、掃除用具を渡すんだろうな。
その手は震えていたことだろう。
「………………」
落下……?
思わず固まった。
落下って、なんだ。
「………………」
聞こえた名前に、止まる。
昨日、ゲームをした人のはずだ。
「………………」
そうか。亡くなられてしまったのか。
「……伝えておきますね。
ロビーで一人亡くなりました。
タチヤマさんと呼ばれてた方です」
「直前まで、元気に話してたのに……」
また放送が流れ始めた……
『空間安定値に異常を検知』
『『命綱』プロトコルを直ちに適用してください』
『「落下」の可能性があります。担当者は速やかに実行してください』
「場所しらねェわけねェだろ」
「お前やっぱ変だな。昨日から。」
もっと前からだったのかもな。
まぁいいよ、とりあえずは運ぶのが先。
「ちゃんと身を守れて偉いな嬢ちゃん」
「わりィけど放送聞いといてくれ」
移動したら聞き取りづれぇんだ。後で教えてくれな。
資源争奪戦。間に合わなかった。
さて。食堂の死体に友人はいないが。
「…………あたし、他のとこ、見てくるわ」
気に掛けている友人が、いるから。
「……わかりました」
「では、また後程」
ひとつ。抱えたままのクセに、嫌に整ったカーテシー。
そしてメイドは、【霊安室】へと消えていくのだ。
『資源生産用原料不足による不具合12件により、緊急プロトコルが実行できません』
『担当者は速やかに確認してください』
『死者を検知。緊急プロトコルが実行できませんでした。』
「……見えませんでした」
しかし、自分を襲う者はいた。その事実に身体が震える。
「……私は清掃を担当しますね」
なんとか身体の震えを抑えて。
掃除用具へと歩を進ませるのだった。
「そうですか」「場所は御存じですね?」
メイドは、その申し出は断らない。
何か聞こえて来るな。
「では、私はこちらを。スベリ、貴女はどうしますか」
コックを肩に担ぎあげ、視線。
「……」
またいきなり、三十時間に。
やはりあまり信用できない。適当に聞き流す。
「望まれたように、身を守りました」
「襲われてもいないとは思いますけど」
なにもなかった。少なくとも、自分からすれば。
『バイタルサインに異常を検知。緊急プロトコルを起動します……』
ザザ、ザ……
ザザザザ……
『死者を確認、資源の追加生産を行います』
『……』