『食堂』
どちらかと言うと広めのキッチン。水浸しになった。
奥にはシステムキッチンとカウンターがある。ガスも水道も電気も通っていない。
カウンター奥に「箱」のついた扉があるが、曇り空の見える階段があるだけ。
『記録[
メイド達が退勤するならおつかれさん、を重ねることになる。
もう寝るくらいの時間だもんな。
おじさんもちょっとだらついたら部屋に帰ります。
アイコンタクト、頷き返し。
「と言うわけで、本日はこれにて退勤とさせていただきまーす」
「皆様、明日もまたよろしくお願いしまーす」
またひとつ、カーテシーを送り。
なにもなければ、しつれいいたしました。
緩やかな足取りで"堂"を後にするんだろうかな。
たしかに、おかえりなさいませはメイドにとっての出迎えの挨拶だが、一見さんに対しても言うだろうか?
なんて疑問は生じたけれど、そのままにするんだろうな。
丁寧なカーテシーを返した。
立ち去る人にも手を振り返して見送る。
『よかった』
『ここ、病院も何もないから……』
「!」
『ポイント増えた』
やった~。
スケッチブックを両手で持ち上げてくるくるしている。
枯れ葉マークをいただきました。
「なるほど。そういうものなんだね」
疑問に答えてもらえたなら、少女も当然のように受け入れた。
「なんて言うんだっけ、こういうの。アットホーム?」
「ん、"おかえりなさいませ"はメイドにとってお出迎えの挨拶でーす」
雨傘の少女へと、さも当然のように口に出し。
「それが一見さんでも、その挨拶は変わりないものだしね」
「棚バトラーヒシミさんもいってらっしゃいませ。
よき一日をお過ごしできますように」
言いつつ、カーテシーはしっかりと。
「お~メイドどもも。お前らいると食堂に来たなって感じするわァ~」
「おつかれさん」
毎日頑張ってんね、と労い一つ。
紫リボンのメイドの方は……いつも通りに戻ってんな。
「あら、傘の嬢ちゃんもいるじゃん。今日は知った顔ばっかだなァ~」
フードのガキが心配してんな。
今日は確かにいつもより長めのシャワーだった。
「大丈夫だぞガキンチョ~、おじさんこう見えても風邪とかあんま引かないからね」
「おじさんを心配してくれて偉いので、ポイント1点追加」
ちょいクレヨン貸して、と示して。
貸してくれたならスケッチブックに枯れ葉のマークを一つかいておこう…
「や〜、棚の余韻にも浸ったことだし、俺も別の場所行こっかな〜」
「じゃーな、ここのマブ達!」
手を振ってここから離れよう
「はーい」って返事して、食堂を出ていく彼を片手振って見送るだろう。
両手で傘を握り直して、思案顔。自分はどこへ行こうか、それとも留まろうか。
そういえば堂ってなんだろう。
来た時に掛けられた言葉を思い返して。そっちは別に口には出さないけれど、もう一つ浮かんだ疑問の方は、素直に尋ねてみることにした。
「さっき、おかえりなさいって言ってくれたよね」
「私、ここに来るの、初めてだと思うんだけど」
「お2人とも、おかえりなさいませー」
カーテシー、カーテシー。ヘマは見せぬよう、意識し直し。
「もう終わりも終わりでーす。"悪魔的遊戯堂"は元の"堂"へと姿を戻したのでした…」
あ。やさしいお兄さんだ。
長いシャワーのうちに離席してしまったから、そう言えば見届けていなかったな。
『風邪、引かなかった?』
元気そうに見えるけれど、皆が悲鳴を上げる冷水だもの。
一応心配の言葉を描いた。
「やほ~、なんかゲームしてたんだって?もう終わった?」
シャワー帰り。悪魔が宣伝しに来てたらしい。
その時丁度シャワー浴びてたから聞こえてなかったなァ、残念。
ひょこ。用事が済んだので、改めて悪魔さんにお礼を言いに来た。
のだけれど、すれ違ってしまったみたい。
今いる人たちに丁寧な一礼をするだろう。
「も、って事はやっぱラオヤもなんだねー。
ま、私のはただの軽いお遊びみたいなもんだよ」
「おかキャンだったか……」
残念。またのお越しをお待ちしております。
「こっちは改めて、いってらっしゃいませー」
カーテシー、カーテシー。気を取り直すかのように。
「このくらいでいいよ」
ある程度のやり取りを見てやって。
十分交換できたのを確認したら、それらを手に一度食堂を後にする。
ここは、あまり馴染みの場所ではないものだからさ。
去り際に玲依さんとすれ違うだろうか。
名前は知らないけど…傘の人も一緒みたいなのでこっちも確認の手間が省けた。
連れ立って来たのなら何か用事があるのだろうと察して、
こっちの2人組も元気そうな様子に安堵し、声は掛けずに立ち去る。