『食堂』
どちらかと言うと広めのキッチン。水浸しになった。
奥にはシステムキッチンとカウンターがある。ガスも水道も電気も通っていない。
カウンター奥に「箱」のついた扉があるが、曇り空の見える階段があるだけ。
『記録[
「……」
「あまりない」
「ということに……させてください」
含みのある言い回し。
もしもの備えが多くて、自分の使う分が少ない、そんな感じ。
「食べるには食べます、勿論、少しは」
「何すかこの不審者」
無い眼球がぴりぴりしてます。
大声が好きじゃないのは右に同じ。
「いえ、普通に資源欲しいすね……」
はい。あなたが死ぬならって話ですね。
薄情者なので。
みんなの食堂で真面目な話なんざするもんじゃない、という話ではある。
「腹減ってないにしても一旦飯食うかな」
「トゲガキはそんなに資源あるなら飯配給されただろ」
「ソバカスの嬢ちゃんはあるかァ~?」
メイドやら隅の子供やら、そこらへんも…大丈夫そうか?今日のとこは
「離れようかな……」
鬱屈とした気持ちは払しょくされたけど、
それはそれとして大声も若干苦手。
「どのみち」
「今日も警戒するかは分からないけど」
「生きるのには。もう少し前向きになろう、かな」
「藍くんの言葉を纏めると、
『あんま意味ね~から生きとけや』な気がするし」
すとんと腑に落とす。結論はきっと、そこだろう。
心の余裕は、そうですね。
ドリーミングジジイと、自分が1番あるかもです。
四子と、メイドと。やっぱ女の子だからですかね。
可哀想に見えました。
それだけなんですけど。
「でも、死ぬ人は減りますよ」
「四子ちゃんの分が割られますからねー。あと3日ですし」
「まあ差し伸べようって殊勝なひとは、四子ちゃんが何もしなくてもこの先減ると思いますよ」
「まぁお前はカスだからね……」
激しく同意。
誰の血で汚れるかっつう違いだろな。
他人の血、自分の血、友達治療すりゃその血もつく。
度の地が一番受け入れやすいかっつうのはまぁ、人によるだろ。
なんか疑われてるカモ……まぁ、まぁだ。
「偉いもんだね」
出した答えにはそう告げる。
水の中で息ができないけど潜り続けましょうって、そういう話だもんな。
「もしそうするなら」
「藍くんではないな」
「木枯先生でもない」
「……他の知らぬ誰かでも、ない」
選り好みをする元気はあった。まだ。
「死んだら」
「手を差し伸べる人も、代わりになる人も減る」
「それぐらいは、私も、分かる」
平気、という言葉も。
藍くんにはそこまで気に留めることはないけど、
木枯先生には、少しだけ。じっと見つめるような視線を向けて。
また床に戻す。今は多分、
自分が一番心に余裕がない。ということにしたい。
「優しくは、ないので」
「関心を寄せてもらえるなら、それは有意義です」
なんて。冗談の、三分の一程度。
「四子ちゃんが俺みたいだったら誰も四子ちゃんの話聞いてないでしょ」
真理。
ひとの血が着いてるおじさんより、自分の血が染み付いた服着てる。
誰の血も着いてないひとも、きっといますね。
「じゃあ、誰かに資源渡して死んじゃったら?」
それも良いかもですよ。
この先、耐えられないんなら。
「それでも、総数が減らないとしても……」
「……私、結局、誰かにその負債を渡してばかり」
「……意味がないとしても、納得ができなくて」
「誰かが死ぬのを後目に、
生きていたい理由なんて、何も無いのに」
「お前はお前より周りの奴らが耐えられなさそ~」
「愛されてんのに仕方ねぇやつだよマジで」
「俺も平気。お前と違ってきれいな体だから。」
いえ~い、って言うけど死体運んだから服には血がついてるな。
死体運んでるから服に血が付いてるのは当たり前。
「みんなそう思ってるわな」
「でもお前は周りに気を使いすぎるから」
「あんま代わりにはされないだろなぁ」
トゲガキくらい我儘ならな
「四子ちゃんが代わりになっても、」
「怪我と血の総数は減らないし、喪われる資源も減らないし、しんどい思いも減らないですよ」
「右から左に回るだけなんで」
「意味ないと思います」
「……」
「知ってる人が皆、生きてたらいいと思う」
床を見ながらつぶやく。そう願うだけでも、
状況はずっと苦しくて、ままならない。
雑談しようと思っても、あまり浮かばない。
「……考えてはいけないことだと分かってても」
「私が代わりになれたら、って、ずっと思ってしまう」
それが、警戒しているようでしていなかった理由。
心のどこかに。まだ、擲つ部分がある。
「折れちゃうのもしょうがないっすよね」
ここまで来るとね。
進行形で資源長者っぽいので、他人事じゃあないんですけど。
他人事みたいでさ。
「まあ俺は耐えられるんで、平気すけど。ドリーミングジジイも平気そー」
「いよいよ以て、気楽にお話~ってわけにもいかなくなるかもなァ」
「これ以上はもう、耐えられないやつが大勢出るだろ」
隅の子供に目をやって。
これまでだって耐えられてただけ奇跡だけどな。
人間は長い間耐久できるようには作られちゃいない。体も心も。
「資源が多いやつ、狙われそ~」
「はい。良くはならないと思います」
手渡しで貰ってるレベルなんですけどね。
こうも傷だらけで手が遅いと乗り遅れちゃうので。
貰えるものは貰わないとね。
死体は増えるし血も増えるし。
無事は減るし余裕も減っていくでしょうね。
「3日後にどうなってるか、乞うご期待っすね」
「……………………。」
何でみんな死体を見ても平気なんだろう。
傷を負っても平気そうな顔をしているんだろう。
強がっているのか、本当は平気じゃ無いのか分からないけど。
ここでは自分が異常なのかな。
そんな風に考えて、部屋の隅で膝を抱えて蹲った。
左腕の包帯がはらりと解けた。
「いいけど……」
置いたものだし。よく取れるな。
「切羽詰まってるかどうかが見えるようになると」
「ちょっと……あんまりいいことがおきないだろうな」
藍は資源を R1 持ち出した