『食堂』
どちらかと言うと広めのキッチン。水浸しになった。
奥にはシステムキッチンとカウンターがある。ガスも水道も電気も通っていない。
カウンター奥に「箱」のついた扉があるが、曇り空の見える階段があるだけ。
『記録[
「………蘇生代、な〜」
たしかにあの言葉、あの思い出、そしてそれを語る姿は凄かった、凄かったけれども。
それ以上に
「あんまし心配かけらんないからな〜、どうやっても死んだら終わりだろうよ。
ああいうのはピリオドで良いだろ〜ってね」
資源は入れる様子がない
「もし、公平に全員を蘇生出来ないのであれば、私めも皆様も死者を抱えて戒めることで終わりにいたしましょう。
長引いてもあれですので、今から10分で締め切らせていただきます」
「無理」
即答だった。
「いくらかかると思ってんの、その蘇生代。4人で資源3200でしょ?集まるわけない。
集まった端数を葬儀主が持っちゃうパターンでしょ。無理無理」
「蘇生薬というものが箱で売られております。効能はいかほどか実証できておりませんが、値段は800です。
死者4人を蘇らせるには3200必要というワケですね。私めは600しか資源を持ち合わせていないので、
残り2600を……10人いれば260で足りるのです。今までの辛気臭い話も喜劇になるのでございます。
260枚を出せる、といった方が10人手を挙げてくだされば、私めは資源を託します。私めが独占する形も、なにかよからぬでしょうから」
傍聴者の察しの通り──この男の語る弔辞とは、まったくのでたらめだ。
太字で書かれた事実は、存在しない。
それどころか──親しかった事実も存在しない。初対面限りが1人、一切知らない者が3人いる。
今最後の弔辞として一礼を行ったこの男は、ドブのような精神性を持ち合わせた嘘つきだ。
故に。
「長くなってしまいましたので、この場の数少ない人間で出しあえるかは分かりませんが……蘇生代募金を行います。」
「忘れない、文脈か〜」
つっても自分は生き急いでる自覚あるしな
「んー、そうだな。覚えられるだけ覚えとくか。感情ってのはそーいうもんだしな。
知るって多分そういう事か、とも思ったし」
「結局、長々となってしまいましたね。私めも吐露ができておかげで感情の整理をすることが出来ました。ありがとうございました。
ああ、結局辛気臭くしてしまいましたね。体調の優れない方も出てきた。しかし、ここまで聞いてくださった方もいる。
ありがとうございます。できることなら彼らを忘れず、文脈を紡いで生きて持ち帰ることが出来るようになれば幸いでございます」
「……よくも、まあ」
「死人語りができたものだ。
あれだけの時間でそこまで内部の事情を
話せる人はそうはいないだろうに」
死人に口なし、とはいったか。
「その時踏みとどまった理由が、他人が叫んでいる様子だったんです。それで冷静になってしまったというか。
そこで私めとサワラ様が会話していた場所は吸音性のある絨毯が敷かれた廊下で人気がなかったので、私めはもう、叫びました。
わあっと、叫んだのでございます。この度の停電から10時間ほど前の出来事でしたので、今でも鮮明でございますね。
失礼。(ここで目元を抑える)私めは、死にたいと一時は思っても、起死回生があるってことを教えるべきだった。安らかに」
「…………申し訳ないが、僕も一旦離席させて貰おうか」
「ユウガオさんの体調が優れないようだし、放ってはおけない」
彼の後についていくように去って行った。
「…いーや、いいと思うぜ、俺的にはな」
「体調悪いなら無理はすんなよ〜、それは多分誰も望んじゃいね〜からな」
と、出る人達に手を振ったか
「……ごめん、なさい。葬儀の途中で席を立つなど……。」
続く、良くはないと思うのですが、と呟く声は小さい。
しかし、このまま耐え続けることが出来なかったのだろう。
ふら、と覚束ない足取りでつとめて静かに歩き出す。
「申し訳ございません……申し訳ございません……。」
そのままそっと、食堂から消えていく。
「最後にサワラ様の話をいたしましょう。彼は生前、かなり心労がございました。それはもう、誰にも話せないほどに追い込まれていたそうです。
正直、私めが一方的に気にかけて、見ていただけでしたが一応あちらも認知してくれたようで、それが接触の機会となりました。
彼は死に対して幻想を抱いており、ここで果てたほうがなにもかもを捨てて逃げれるのでは、とも口走っていました。
正直……気分のいい話ではないですが、私めも自分があの時死んでしまえばと思ったことがございまして……」
「…ん?おいおーい?そこのにーちゃん?大丈夫か?
……辛いんなら途中で抜けたり、休んでても問題ね〜と思うぜ…?」
気分が良くなさそうな人に静かに近寄りつつ
「でも彼女は役者志望だったようです。人を喜ばせる形で、国に貢献したいとも仰っておりました。
エージェントの仕事は、どこか自分が欠落していく、嘘が嘘であることを当たり前にしてしまう。
彼女はそう愚痴をこぼしていましたね。……死ぬ前に寄り添ってあげればよかったのですが、きっと会えないのでしょう。
安らかに、国に縛られずに旅立ちますように。」
一礼。
「…………。」
少しずつ、少しずつ、白い肌はより白く冷めていく。
何処かの言葉でも引っかかったか、それとも、
生きていた頃の話を聞くのは堪え難いのか。
なんにせよ、あまり気分は、良くなさそうであった。
また一礼をして、次の話に。
「──A様は、もう言ってしまいますがどこかの国のエージェントでございました。だから、モニターに表示される名前も『A』なのだと。
どこかは言ってくださいませんでしたね。私めとの仲でも、一線は存在していました。印象は薄く、人目を気にしますが彼女の語る仕事の話は、映画の話のようでございましたね。やっぱりあれって機密だったんですかね」
「まあでも食堂には全然なかったらしく、これでは料理できないと喚いておりましたね!私めが今まで食堂に行かなかったのは、その情報を知っていたからにございます。彼はナイフの用途を、最初の停電後に殺傷に使おうか悩んでおりました。彼の職業は鍛冶屋であり、自分で拵えたナイフでもないのに人を刺すなんて、といった変な考えも持ち合わせておりました。危険だと思いつつも面白かったのでそのまま受け入れましたが。
彼が今日、注意深く自衛していればまた話せたと思うと胸が寂しくなります。どうか安らかに」
……ああ、これは全く…… 悲しい話だ。
微笑を口元にたたえて見守るが、時々欠伸をこらえる所作が見られる。
この後静かになったならば、隅の方で転がって寝ているのだろう。