『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
「そういえば、ひざしさん……良く笑うギャルの子」
「あの子の持ってる毛布……箱で交換したって、言ってた」
資源を消費するという点で、天秤に掛ける人も多そうだが。
最悪何もなくなったら、それに頼るのもいいのかもな……と思っている。
「お兄ちゃんは何でも…ううん、誰の物でもないものは、自分の物にしたいのかな」
だからって絨毯を切り取るのはどうなんだろう。
そういう発想は少女からは出て来なかったらしく。
「絨毯って結構重いでしょ。持ち運ぶの大変そう。
…敷いて寝床にするってこと?」
「はい、その通りです」
一通り包帯とか替えたら、また再開。
几帳面に同じサイズの正方形で切り取ります。
50センチ四方、くらいでしょうか。多め。
「この先ああいう──特殊な化け物達が癇癪を起こすかもしれません」
「その時に共有の資産が汚されていくのなら、汚れない内に自分のものにします」
「人が踏んだ絨毯でも、硬い椅子や机に転がるより柔らかいすからね」
「絨毯が毒が汚れる前に切り取っておこうとしてるの?」
そこまでの話は分かった。でも絨毯を切り取る話には繋がらなくて、少女には理解出来なかった様で。
確かに他人が慌てても傷は治らない。あなたの場合はそれを見て、気が休まったりする事もないのでしょう。
これには医療品を押し付けることしか出来ない。
もうしたし、無事に替えられたのでよかった……んだろう、そう思いたい。
まあ、少ししたら落ち着くでしょう。何にもならないのはそうなので。
「……うーん」
「入ったのって、誰だったんだろう…」
聞けば納得するような人物だろうかな。
とはいえ、こんな場所で知ってて入るようなのは……確かに、死にたがりにも見えるか。
他人が慌てても何にもなりませんが?
「そうすね。そうかも」
近くにいるだけ。触れるだけで危ない、かも。
それも彼女の過去にあったでしょうね。
だから今、何?て話なんですけど。
「さあ?何で入るんすかね」
「あのプール水が循環してるかも分かんないすから。そもそも触んない方が良い事だけは確かです」
早く死にたかったんじゃないんでしょうか。
それなら、資源置いてって欲しいですよね。
「毒が混ざってるって知ってて何で入るの…? 私も分かんない。
プールは冷たそうだから、入って無かった」
事情は何にも分からない。入った人は、早く死にたかったんだろうか。
あるじゃないですか、怖いもの見たさでつい目を向けてしまうこと。
今それ。
怪我を負っている本人よりもあたふたしています。
落ち着きがまるでない………
「プ、プールもそう、だけど」
「体内で作れるなら、近くにいるだけでも危ないんじゃ……」
触られたりしたら、どうなるんだろう……
考えただけで恐ろしい。
「その方が良いと思いますよ」
「つーか入る奴の気が知れないんで」
例えそれが毒女を慰める為だとしても。
共有の物が癇癪で汚されたのは事実ですし。
「そうなんだ…。お兄ちゃん、教えてくれて有難う。」
「毒が混ざったプールには入りたくない…。皮膚が被れちゃう。」
それで済めばよいが。
押し付けられてますね。
せっかくだからガーゼとか変えようかな。
絵面はグロテスクですが……。
「はい、毒です」
知らないひとにも分かるように説明してあげましょう。
「どうやら毒を体内で生成できる人がいまして」
「それが何か癇癪起こして、毒をプールに混ぜたんですよね」
「超ヒスってました。入んない方が良いと思います」
「入ってる人いたけど」
安全かは分かりません。
分かんないから、やめた方が良いでしょう。
「ど、毒なんて…こんな場所に…?」
いや、顔の傷は?何でそんな平然と…
医療品持っていくって言ってたのに、もう必要なさそうだし……いや、いい事ではあるんだけど…
わーってなりながら、とりあえず交換してきていた医療品を押し付けていた。
「結局循環、とか…し、してないんだっけ…」
「じゃああんまり、使わない方がいいね…」
入っとけばよかったな、一回くらい…
「はい、毒っすね」
慌ててますね。
情報量が多い、かもしれません。
こちらはいつも通りなんですけど。
「非常用にとっておきたかったんですけどね。プール」
「泳いでる人もいましたけど、気分良くないっすよね」
「こんにち」
「え"っっっっ」
包帯を見てギョッとした顔。
治療は済んでいそうなのに血の気がさあっと引いていく。
あわあわ、あわわわわ……
「傷、それどうし えっ毒!?」
忙しい忙しい!!
「玲衣くんこんにちは」
顔面半分包帯男です。
床もこんにちはって言ってます。
「プールに毒混ぜる女がいたんで……ここも時間の問題かなって」
ギコ……
ついに絨毯が手にかけられている……
食堂から出てきて、目にした光景がそれだった。
ああ、一部床がこんにちはする廊下になってしまう…
「廊下はあんまり人、居ないみたいだね。」
中庭の止まない雨を見て…ぼうっと考え事をする。
今更ながらに解けてしまった包帯に気付いて、たどたどしい手付きで結び直している。