『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
『こ資源供給システムに追加の不具合を確認しました』
『資源供給システムに三件の不具合を感知。担当者は速やかに確認してください』
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
『資源供給システムの不具合を確認してください』
「それならよかった」とか。
「うん。すごーく勿体ない」とか。
言っていたのだろうな。
そんないつも通りの笑みは、停電の前も、後も、変わっていない。
「三日後って、なんだか。一気に減ったなぁ」
『資源・バイタルサインのスキャンを完了しました。』
『以降、モニタリング結果を出力します』
『管理システムに一件の不具合を確認しました。』
『資源・バイタルサインの表示切替は少量の資源を用いてください』
『こちらは自動放送です。』
ザザ、ザ……
『あ、予報が短くなりましたね!』
『そりゃ予報だからな。推定だし。』
『長くなることもあれば、短くなることもある。』
『まあ、そんなもんですよねぇ』
『また晴れてくれることを願うばかりだな。』
『さ、とっとと管理部屋の確認行くぞ』
ザザ、ザ……
『次の[快晴]は推定約三日後です』
「ありがとう、今は…もう、だいぶ落ち着いてるよ」
一応、解決はしたことだ。
楽しい話でもないから、わざわざ掘り下げられなければ話すこともない。今はね。
「えっ」
「もったいないことした、かな」
立ち上がってしまったあとだから、そのまま座り直しはしなかった。
また次の機会を…そんな機会があればだが。
「ちわ〜」
挨拶の向かう先が自分であるなら手を振り返すくらいはした筈だ。
知り合いも来たようだし、男は邪魔をせぬよう一人そのまま立っていたのだろう。
そろそろを感じ取り、さくさく移動に戻ります。
やまない雨はないらしいんですが、ここはどうだかね。
ナイフの雨が降らないだけまだマシなのかもしれませんね。
では。
「そっか。雨足、弱まってくれるといいね」
淡々と。他人事、みたいな言葉を掛けるしか、少女に出来ることもなければ、しようともしないけれど。
話を聞こうとするぐらいの、多少の心遣いはみせていた。
「傘、入れてあげようと思ったのに」
立ち上がったのを見て、そんなことを零す。
傍に立って、ちょっと傾けるぐらいのつもりだったから、きっと体の端しか入れなかっただろうけど。
「昨日は…ひどい、雨だったね」
少なくとも、自分からしたら。
外の雨よりもずっとね。
歩み寄ってくれたなら、立ち上がっていただろうね。
座ったまま話すのも行儀悪い。
藍くんにも手を振っている。馴染みの顔が揃ってきた。
「あんまり眠れてないの?」
「それもそうか。立って寝るわけにもいかないもんね」
知っている顔が増えたな。ゆるく雑談に乗ろうかと。
「玲依くん」
名前を呼ばれれば、同じように呼んで。
そちらを向いて、ちょっと歩み寄ろうかな。
「今日も雨だね」
「昨日は、どうだった?」
「こんにちは」
そう、声だけ掛けたかな。
話しかけられないのなら、少女はあなたから少し離れた、窓の近くに立って。
廊下の先を、何ともなしに眺めているだろうか。
床には絨毯、窓の外は雨。
だから廊下に誰かの姿が増えても、すぐには気付けなかった。
何をするでもなく、ただぼんやりと。
耳のピアスを指先で弄って壁に凭れているだろう。
どこかしらから戻ってきた。
停電を迎えるならここがいい。
その暗闇が、ほんの短い時間だとしても。
雨音が一番よく聞こえる場所に居たかった。
すぐそばで雨音がしているように思えるくらいじゃないと、
自分がどこにいるのか、わからなくなってしまいそうで。
「あと六日………」
昨晩よりも幾分か憔悴した様子で廊下を進んでいく。
よく眠れていないらしく目の下には薄っすらと隈。
くぅ、と小さく鳴った腹を掌で覆って押さえて、今日もまた窓の外を見ていた。
・・・。
(……本当にずっと降ってんだな……)
(……こんなときじゃなけりゃあ、ありがたいんだが……)
(こんなときじゃなけりゃ……)
(……人が襲われて、殺されて……そもそもよくわかんねえ場所に連れて来られてるってのに、こんなときでも腹は減るんだよな……)
(これまで生きてきて、本当に、死ぬほど腹が減ったことって、無いんだよな)
(ガキん頃だって、いつでもばあちゃんが……)
(……わかってる、恵まれてたんだよ)
「……まぶしいなあ」
名は体を表すとか何とか。
死人が出てるのはちょっとでもないし、笑い事でもないけれども。
毛布を引き摺るのを見送り、その場に座り込んだ。
「ん?まあねー笑」
「不便も楽しんだもの勝ちじゃね?笑」
「キャンプとかそんな感じじゃん笑」
「まあちょい死人とか出てるケド……笑」
「それにこんなどんよりお天気なのにアタシまで沈んでたらほんとに太陽なくなっちゃうじゃん笑」
「ひとりくらいこーゆーのがいてもいいかなって笑」
「玲依くんおとなし系だしうざかったらごめ笑」
「……」
文句を躊躇なく口にする割には……
「……いつも、楽しそうだよね」
「こんな場所でも、笑ってられるの……いいことだとは、思うんだけど」
すごいなあって。素直にそう思ったりして。
「ねー!笑」
「床で寝るしかないのありえんすぎ笑」
「ロビーのソファーがまだマシくらいカモ笑」
「着替えとお風呂ないのが一番許せん笑」
「女子には死活問題だっての笑」
「さっき服洗ってさー、まだちょい濡れてるからガチ寒い笑」
「呼んだなら、まともな寝床くらいは欲しかったな……」
「お風呂とかもさ……」
冷たいシャワーって。プールって。
キッチンは使い物にならないし……
「衣なんか存在してすらないよ……着替え、欲しかったな…」
しかし何もかもを交換するには、資源の余裕がないのが現実だ。
苦しい………
「資源出せばわりと要望通るぽい笑」
「あと歯ブラシも買ったし!笑」
「衣食住の住がギリってほんとヤバくない?笑」
「アタシたち人権なさすぎてウケる笑」
「基本的人権尊重しろし笑」