『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
てるてる坊主。雨上がりの願掛け。
気休めになるだろうか。誰かの希望には、なるのだろうか。
価値は、人それぞれかもな、と思った。から、資源を使う人の価値観に委ねられるべきだな。
「そっか。それは確かに、間に合うかわからないかも」
「一日でも早く、って晴れを待つことしか出来ないのも、落ち着かないだろうな」
だからそんなに焦っているのか、と。合点がいったように頷く。
出来ることなんて、てるてる坊主を作るぐらいしかないのが現状なのだ。
どうしても帰る理由のある人は、そうもなろう。
暫く窓の外を眺めた後、入れ替わりで現れる人達や先に居た人達に会釈してから一旦個室に戻る。
ほんの少しだけ抜け出してきただけなのもあって、起きた時に一人だと不安にさせそうだったので廊下に出た時よりも気持ち足早に。
「おっ やほー!笑」
「ねーねー、てるてる坊主の材料全然見つからんかった!笑」
顔色の悪い彼女に対し、全く正反対の明るい表情で声をかけた。
「お金出せば布もらえるぽいけどさー、てるてる坊主にそんだけの価値あると思う?ど?笑」
昨日の白髪のお姉さん…雨音さんに会釈して。
今は話し掛け無い方がよいのかと思って自分も耳を傾ける。
雨の音と話し声だけが木霊する。
「何か、大事な用事でもあった?」
「間に合うといいね。七日過ぎても、大丈夫なものかはわからないけど」
当然の心配、を口にしただけで。特段、刺激するつもりもないのだけど。
若干、不安を煽ってしまったかもな、と。言ってから思うようじゃ、ちょっと遅かったかも。
去る人の背中を、静かに見送った。
「………………」
問いかけに応える術はなかった。
理由も、原因も、方法も。
困ったように首を傾げてから、丁寧な一礼をして踵を返した。立ち去る。
ぽつぽつと耳に入る言葉を拾い、何となく何の話をしてたか予想が付いて状況を察する。
昨日も似たような話をした記憶もある、もっとも結論は出なかったけど。
昨日自己紹介をしそびれてしまった傘の人の反応をちょっと嬉しく思いつつ、窓際によって中庭を見る。
相変わらず外は雨だし、窓は開かない。
「連れてこられた……そうですよね。
普通はそう、そうじゃないとおかしいのに……」
彼女の中に"そうならないといけない"理由があるのだろうか。
今の状況はおかしいと言う。
「…うん、帰らないと…帰らないと…私。」
「今更?間に合うの?わたしは……」
顔色が悪い。
首を横に振ってから、頷いた。
訪れた人には一礼をして、窓の方へと視線を戻す。
足音が聞こえないここでは、人の声と雨音ばかりが目立つ気がした。
「みんな、そうだと思うな。ここに来たくて来たような人は、多分、いないだろうし」
どうかな。もしかしたらいるのかも。いないのかも。
「帰りたい、じゃなくて。帰らなきゃいけない、なんだね」
そんな、言葉尻を掬い上げる。
個室から出てきた子には、ひらりと片手を振ってみせた。
「……お?」
地味だな〜と窓を眺めてたらいつの間にか話し声が聞こえるな、向いてみるか
「おーおー、居る理由の話か〜?俺的には分かんね〜けど、めちゃ謎だよな〜?」
ててて…と歩いて来る。
「こんにちは。何でここにいるかの理由?
私は連れて来られたんだと思うけど、よく分からない。何かのツアーに予約した覚えも無いし…」
「……ごめんなさい、なんか変な事話してしまって。」
「でも……私は今頃、こんな所に居る筈じゃ無かった。」
この建物内に居る人達に聞いたって、どうしようも無い事は分かっている。
皆、訳も分からずここに居るらしいから。
「帰らなきゃ、いけないのに……」
「どうして、か。難しい問いだね」
「何か理由があるのかもしれないし。別に、そんなものはないのかもしれないし」
「確かなのは、どうしてかここにいるってことだけ」
雨模様にまた視線を戻して、答えになっているようで全然なっていないようなことを返した。
どうだっていいのかもしれない。少女にとっては。
「そう、ですか……」
開かないらしい。
それでも、冷たい窓に手を当て押したりしてみる。
「どうして私は、こんな所に居るんでしょう。
どうして皆さんは、ここに居るんでしょう……」
夜空の君に声を掛けられたら、同じようにおはようと返していただろうな。
なかなか疲れが取れずいるからか、今日もぼんやり廊下に居座っている。
「開けようとしている人は何回か見たけど」
「開いているところは見たことないかな」
人の気配が増えたのを感じて、窓から視線を外し。
くるり、意味もなく傘が回った。