『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
「停電の、後、怪我した私の側。
手当の物資をくれたのは、他の人」
意識をもたせる。記憶の中をかき回す。
「撫でてくれたの……私のこと、撫でて……そしたら。突然」
何度も思い返した光景、脳裏に焼き付いた光景。
あなたに繋がるなら、何度でも言葉にする。
少女は天使が落ちた時の状況を知らない。
食堂で落ちた人と、何か共通点があるはず。
食堂の方の人は話して…10秒後くらい…に、すとんと落ちていた。
資源の量、ナイフの所持の有無、話した言葉。
あの人も、あんぱんさんも多分『移動しようとして』
落ちた訳じゃないのかなって思うけど…どうなんだろう。
全部憶測に過ぎない。正しい事は何も分からない。
「…………。」
「ごめんなさい、ね」
受容と抵抗を行ったり来たり。
いざ死を目前にすると変わり続けるもの。
終わりの終わりまで、目覚めたての不安定な自我。
視線で見送って、視線で会釈して。
「…そう、ですか…。……私も、もう少し、方法を探してみます。……」
何か進展があれば、また伝えに来ます、と告げて。
そのまま、廊下を離れてしまう、のかも、しれない。
この女は、プライバシーは守る主義だった。
ててて…と駆けて来て状況確認。
昨日のお姉ちゃんが息絶え絶えになっているみたい。
「…………。」
私に出来ること、何かあるかな。
落ちる方法は自分で探して試す訳にはいかないし。
「…………。」
「試した、試し続けるしかない……。」
命尽きるまで、心折れぬ限り。
死に果て魂になっても
欲しいものを求めて、願い続ける。
でも……意識が……
「、っ」
「…………」
何とも切実な声に、何か、どうにか、してあげたくて。
「…何か…なにか、何かないの…」
今までの情報をフル活用して、頭の中で考えて、考えて、考える。
2人とも、同じ場所にいて…そのまま時間が経って…
同じ…場所…に居続けて…?
「最期に、同じ場所に、居続けることを、選ぶ…?」
これ以上は、医者には、分からなかった。
「……すみません…。とにかく、私も、最後まで探します。…」
医者から言えることは、これぐらいしかなかった。
「まだ、アンを探したい……それだけ、それだけなの。
だけど、いつ力尽きるか分からないから……!」
喉の奥が切れて、紅が流れた。
「……大丈夫、ですか?……貴女は…どう、したい、ですか…?」
ここに居たいのか、まだ行きたいところがあるのか。
医者は、聞いています。貴女の声を。
「はるきさん……」
もう足が動かないみたい。
「ええ、後は、届くのを、祈るだけ……。
最期はここがいいのに、みっともなく、すがりたくなっちゃう」
ぷつぷつと、言葉を絞り出す。
一瞬、こちらの様子を見にきた。椅子は…よかった、挟まったままみたい。
「…えと、まゆこさん、大丈夫、ですか?」
部屋の中は見ずに、外から声をかけてみる。
「ええ、ごゆっくりどうぞ」
邪魔するつもりもありませんし。
あくまで猫たちは手伝いに来ただけですから
「ん、そうしましょう」
「しずくさんが起きたのかもしれません」
今度は猫が先導してロビーへと戻っていくことでしょう。
「じゃあ、自分たちは一旦これで。またしばらくしたら見にきますので。」
椅子は適当に拝借してきたらしい。食堂の椅子の方が手軽そうだったらそっちに行ったかも。
何やら、ロビーの方で声が少しした。起きたかな〜、一旦見に帰ろうかな。とか、呑気に考えていた。
「一旦、ロビーに戻ろうか。物音がしたし…誰か起きたかも」
「ありがとう。アンが戻って来た時の為に、
ここに言葉を残しておけるわ。
後は、二人の時間にさせてもらうわね」
『天羽の間』と名付けたその部屋に一人、着席した。
あなた達が行くのを見送るつもり。
「わかりました。じゃあ、そうしましょう。」
開いた部屋に、そのまま貴方を連れて。部屋の中の椅子にでも座らせたのかも。
提案にはじゃあ、と適当な部屋からガーっと椅子だけ持って…………きた。(早い)
「隣の部屋から椅子でも持ってきて挟んでおきましょ。
万一私が戻らなかったらこの部屋に閉じ込められてるから、
その時はまたお願いするわね」
「お任せあれ、というやつです」
合言葉やらはあるのでしょうか
ないのならそのまま開けて中へ通すでしょうし
あるのならそれを尋ねることでしょう。
「ここ…ですね。…じゃあ、お願い、赤猫さん…」
「扉は、…開けられないなら、きっちりは閉めない方が…いいですよね。」
かちゃりと言わないようにしておこうか、という。
扉を開けてもらえるまで、ここで待ちます。
「ここよ」
何の変哲もない個室の一つ。
この数日開けられていない扉。
二人だけが知る部屋。
数度の夜を二人の温もりで超えた思い出。
「お付き合いありがとう。後はこの扉を開けてもらえたら……」
「そこは……任せます」
撫での優しさより
誰に撫でられているかの方が、猫にとっては大事なのでした。
「そうしましょうか」
それに続くように、猫も歩いていくのでしょう。
「…そ、っか…。いい、のかな…。……まあ、でも…謝罪ぐらいは…した方がいい、かな…。」
撫でる手は、初め見たあれとは比べものにならないくらい、ちゃんと、やさしい撫でになっていて。
「……じゃあ、…戻ろう、かな。」
ここで、皆が知らない間に下に落ちるのも、申し訳ないですし。
慰めの声をかけてくれた人達にも、お礼と、謝罪をしなければ、と思って。
ゆっくり、立ち上がって、歩き始めるのかも。