『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
今日も見かけた2人は相変わらずの様子だった。
とはいえ、1日見た限りの情報ではあるが。
「……おはよう?」
時間を見ていない。もしかしたらこんにちはの時間かもな…
男の子なんで見るなら百合の方が趣味良いと思います。
ちょうど棘も無いし。死に様も可憐に飾れておすすめですよ。
「……」
「繊維が口に入りそうなんで嫌です。味のする床より味のする手袋より味のする掌より、味のするクッキーが良いんですけど」
百合よか薔薇のが乙女心に刺さるのよ。
突き刺さるとじんじん痛んで面白いの。
玩具目の当たりにして機嫌損ねる程捻くれてもないし。
「坊っちゃん、手袋が舐めたいの?」
「注文の多い子ね。趣味の悪い子だわ」
都合の良い耳で端だけ聞き齧って相槌を打つ。
透明な包みからもう一枚ビスケット取り出し、
ちいちゃくて可愛い口で早々に平らげる。
「これで良い?」
屑の付いた手を蹲る男の目前に放り出した。
だって、ねえ。味ないの可哀想なんだもん。
恋愛模様に仕立てあげられる気がしてきましたね。
まあ好きにしたら良いんじゃないかしら。
乙女の趣味は関係ないんでね。
「はあ、すいません顔が可愛くって」
不機嫌な瞬間無さそうですよね。
幸せそうで良い事だと思います。
「嫌ですよ。それならつゆちゃんの手袋舐めた方がマシです。絵面が」
床を舐める男より手を舐める男の方がマシ。
しかしそんな屑舐めて腹の何を満たそうって言うんだか。
あなたの退屈くらいはしのげそう。
浅学なものですから、耽美な趣味とかの持ち合わせはないけれど、
恋愛模様にロマンチックとか言うのは受けが良いもので、
この歳頃の娘にとっても例には漏れず。
「やあね。意地張って可愛いんだ」
性悪だなんて甚だ不服な評価だわ。
いじけちゃう。めそめそ泣けていけないね。
だのに、くつくつと機嫌良さそに微笑んだ。
「お腹空いてんじゃないの?食べたら良いよ」
「マッチ売りみたいなさもしい真似したかないでしょ」
黒手袋に付いた汚れを叩いて払う。
ほら、またおやつが増えたね。
やめろ。こっちだってそういうのは気持ち悪い。
青い唸り声が上がると、思います。多分。
「見えますけど……」
見えますけど?
寧ろ昨日のアレで性悪に思われないとでも思っているんだろうか。
その方が随分頭お天気って感じだな。
「それはたあんたの落としたカスです」
ほら!!
淑やかな娘捕まえて猿呼ばわりだなんて失礼千万だね。
露は露だもの。梅雨じゃないの。梅雨に産まれたけど。
「男色って気色悪いからさ」
「一緒に寝てるとか言い出したら黄色い声上げてた」
悲鳴じゃなくて歓声なのだそう。
すらりと伸びた手足は一瞬ばかり目に留まりはすれ、
一秒に満たない一瞬なのでした。
「あたしってそんな性悪に見える?」
「ほら、あげるって」
リノリウム張りの床に向け細い指を差す。
ご想像通りに。口元からこぼれ落ちた屑が落っこちてた。
ゴリラでもゲリラでもお似合いでしょ。
絶対梅雨なんかじゃない。
「あー、玲衣くんですか?別に一緒じゃないですよ。一緒に寝てもないし」
「俺はあんまりですね。つゆちゃんや玲衣くんより、部屋狭いんで」
ほら、無駄に手足が長いから……と見せつけるように足を伸ばした。
なーんか食べくずが落ちてきそうですね。
「勿論と言いたいとこですが、つゆちゃんて代わりに難癖つけてきそうなんすよね」
ゲリラだか、ゴリラだか、
知ったこっちゃございませんから、
唸る腹ごと箸で突き回してやる訳なのです。
「ええ。もう、すっきり」
「れいら……れい、あ?お前はどうなの?あの粗末なので寝られた?」
名前、何だっけ。
一方でこちら、能天気にも買い物帰りなものでして、
タオル抱えながらに長方形の袋に包まれたビスケットなんて優雅に齧っている。
「……」
「ちょっと分けたげようか?」
つつくな。やっぱゲリラ豪雨に改名すべきでは?
「どうもつゆちゃん。良く眠れました?」
しゃがみ込んでぶつぶつしてる男。
確かに不審かもしれませんね。腹鳴ってるし。
「腹空いてくるくるぱぁになりそうです。困っちゃいました」
俯きがちに屈み込んでる人間を発見。
何やらぶつくさ途方に暮れてる御様子ですから、
据え膳箸で突いてあげなくちゃ決まりが悪いね。
「何してんのお?」
「くるくるぱぁになったの?」
「スマホもあったらなあ〜〜……」
悔やまれます。日頃の携帯しなさに。
「やっぱこういうのって失ってから気づくもんなんだ……クソ……」
「こんな事なら日頃からめちゃくちゃ食べておくべきだった」
スマホも然り。
手を伸ばせば届く所にあると思うと、どうして甘えちゃうんでしょうね。
今にあの食べかけの菓子パンだとかが愛おしく思えた。
「飯ってどんくらい貰えるんだろ。水は最悪シャワーもありますけど……」
「人間て水だけでどんくらい生きるんだったか……」
はて。
自室から出て、廊下を歩く。
どこに行こうか。出口を見つけなければいけないけれど。
宛てがあるわけでもなく、しゃがんでいる人の前を通り過ぎていった。
「………臭い、って………どんぐらいでとれるんだろ………」
またそこから5分ぐらいうろうろしていましたが………意を決したのかさっさとロビーの方へ戻っていきました。
さっさと、白衣を着ていない女が喫煙所に入っていくが………5分ぐらいしてさっさと出てきた。………嫌煙家が多いのか、ロビーに戻るのを躊躇っている。
「〜♪」
呑気な鼻歌と共に、『喫煙所』と紙が貼られた部屋を出る。
扉を開けた瞬間、周囲に煙たい臭いが漂った。すぐに閉めたけれども。
・・・。
(ガキの頃は、噴水と見りゃ触ってみたかったが……)
(今は……いや、触るも触らないも、あそこまで行けやしねえしな……)
(……この『自動音声』、何度も流れてくるから覚えちまうな……雨音を聞いていたいんだが……)
(『資源』が食料と水に……)
(飢え死にさせるつもりはないんだろうが……DREAMとか言ったか、誰も出てこないのはどうしてだ。何考えてるかわからねえ……)
他の場所へ行く途中、その廊下。また窓の先を眺める。
「……中庭は唯一の外、だけど……ここに入れたところで出られるとは思えない、雨に濡れるだけ……?」
「そういえば外は中庭しか見えなかったっけ……?監獄みたいじゃん……」
聞かれると思ってない思考をまた垂れ流しながら、また歩く。
暫くの探索ののち、もうひとつ廊下があることに気づいた。
けれども暫くは、窓辺に佇み━━
ガラスに手をつき、ぼう、と。
雨粒踊る曽於の景色を眺めた。
>>2425
※メタな話をすれば表に出没する時間も親交を深める時間も必要なので、
置きレスしやすいRoomを作成しました。(部屋名を決めたのはそのため)
よろしければどうぞ。
>>2416
「あぅぅ……」
まっすぐな眼差し、眩しいものだった。
すぐに目を逸らしながら。
羽を伸ばしてと言われれば、は、ひゃいぃ…!と頷く。
それでも、きっと控えめに丸まってるのは性分だ。
手を引くのは天使の役目。
そうやって二人、部屋の中。あなたを休ませるため、な。
しばらく、過ごすことになるだろうな。