『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
すげーギャル。
ギャルなので目が合えばギャルピもする。
「中庭行きたいよねーなんで開かないんだろ笑」
「てゆーか、そーだアタシ個室見に来たんだったわ笑」
「空いてるとこ勝手に使っていいんかな?コレ」
「あぅぅ…」
「多分人間よりは年寄りなものれすかりゃ……」
人間基準だと全く若くはない。
綺麗なお年頃と言われたいのは人間のものだろうと思った。
「ええ…びゅーてぃーちゃんで構いませんからね…」
「お庭…」
庭にはいけない。庭がよかったな、いるなら。
「選ばせたくせに。損なんかじゃないよ」
「どれを選んでもきっと、つゆちゃんは黒って呼んでくれるかなって思ったから」
選んだ一つしか名前にしちゃいけないなんて言われていないし。
自分で名乗るものを決め(させられ)ただけ、という論調。
「夜空って言葉だけなら、そうかもしれないね」
「でもね、あんなこと聞いちゃったら、早々忘れられないよ」
いい名前でしょ、と通りすがりのギャルにもピース。
屋内じゃ億劫だし。空気も悪いし。
雨だと気が滅入るし。薄暗いのは気分も落ちるし。
「はい、勉強になりましたね」
嘲笑も気にしません。気にならないので素直にYES。
「じゃ、向こうの大きいとこ行きましょう。そうしたら後は個室くらいですかね、行けるとこ」
「あーあ、つゆちゃんとデートだったのに残念です」
嘘です。退屈だから傘を持ってでも外に出てみたかったんですよね。
「ふ、……」「くく、……」
「一つ勉強になったね、坊っちゃん」
今に悲壮感を漂わせる男を目の当たりにして堂々嘲笑う。
だから言ったのに。後で、ってどれくらい後になるだろ。
「……おれにとっては、ああいう存在だったけど」
「ちょっとでも綺麗だって思ってもらえるものがあったら、気もまぎれるかも…しれないし」
そうあればいいな~なんて、後付け。
夜空って、人によっては綺麗な思い出があるだろうし。響きも好きなのだ。
宛もない希望を嘯いて回るのはホラ吹きと変わりないね。
最後、狼に噛まれて死んでしまうかも知れないけれど。
やはり、特段彼女は取り合いません。
「秘密の鍵だろうと秘密の合言葉だろうと、何でもいいけど」
「無駄骨折って無駄足踏むのは御免だよ」
いつまでも屋内じゃ億劫だし、
外気を肺に取り込むのは賛成。
「鍵は勿論掛けるわ。落ち着かないもの」
「?よくわかりませんけれど」
「墨染めのさらにちかちかと白い星が強く輝く」
「綺麗なものですから、夜空という名前も綺麗なものだと思いますぅ」
良いものと天使も思う。
>>1805
「帰りたいって、きっと思うはずなのだけど、不思議と焦燥感は湧いてこないのよね」
いろんな情報が飛び込んできて、感覚が麻痺してしまったのかも。
「そう、なんだか……寂しいのかしら。うまく心地を言い表せないけれど。不思議な感じ。
とにかく、今はアンさんって呼ばせてもらうわ」
気にすることないのよ、と袖で優しく目元を拭おうと。
繊細で美しい、白絹の衣で優しく撫でる。
「黒い子の命名式だったんだ?」
「イイ名前もらったねー夜空ちゃん!ぴったりだと思う♡」
「全然通りすがりの人に言われてもかもだケド笑」
「キレイって言われたいお年頃なのかと思ったよね笑」
「んじゃ天使の子はびゅーてぃーちゃんって呼ぶね!そっちの翅の子と差別化笑」
「びゅーてぃーちゃん」
「いいえ、いいえ、人間に呼ばれた名前に文句などあるはずがありましぇん」
「お好きに…キュートちゃんでも構いませんから」
自分が可愛いかは諸説あるが。
>>1751
「幾人もの人間が繋いできた慣わしなのでしょう」
「勤めを果たしてみんなのお役に…」
「…?繭様?」
天を仰いだのを見て、キョトンとしていた。
「ああいえ、慣わしではなく…」
「本来の名前はドジをした戒めとして主に取られていますのれぇ……」
伸ばされた手を止めはしないが。
お、お手が汚れますぅ、とは慌てたよう口にするが。
涙の後でカピカピだ。目尻にはまだ溜まったままだったし。
「あたしのを選ばないんだ。損してるね」
負け惜しみを漏らしながらも口角には笑みを湛え、
言葉に反して体はぱちぱちと拍手をし出した。
「夜空なんて名前、すぐ忘れちゃうけどねえ」
「ついでに言うんなら意地悪でもないよ」
「そうですね、秘密の鍵があるかもしれません」
あったら良いなって思ってます。
え?嘘じゃなくて希望って言うんですよこういうのは。
「つゆちゃんもちゃんと鍵をかけて寝てくださいね」
こんなでも女の子ですからね。こんなでも。
ニチアサ。
南蛮由来だかの言葉かしらん。
聞き馴染みのない抑揚だった。
「ふぅん……」「知らないな」
「なぁに、秘密の鍵でも持ってんの?」
講じる策があるのなら招かれたゲストとしては知りたいところ。
「部屋なら人数分揃えられてんじゃない」
「鍵は妙ちきりんのが掛けられる」
「スイートベイビー…!」
「きっと大切に育てられてきたのでしょうね」
「良きことですぅ」
きっと主からも死後良い判決がもらえることでしょう。
まさか選ばされることになるとは思わず。
ちょっと意表を突かれたように、瞳を瞬かせた。
「つゆちゃんの意地悪」
なんて言うも、笑っている。
そうだなあ、と暫し思考と向き合ってみて。思考と共に傘が振れる。小さく小さく、右へ左へ、くる。くる。
最後に、くるりと一回転させて。
「それじゃあ、夜空。夜空ちゃん」
「では、優勝者にインタビューをしてみましょう〜」
「そう言えば寝る場所も考えていませんでした。個室ってどこまであるんでしょうね」
「鍵は……」
かからないかもな……。
シャワーも……無いんだろうな……。