『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
「ニチアサって言うのは、世の中の子供達に夢を届ける素敵な時間の事っすよ」
こんな俺にも子供時代があったんですよね。
「まあ、そうですね。俺も誰かの大切なスウィートベイビーというやつです」
「人は多かれ少なかれ誰かに大切にされるものれすよぉ」
「あなたもそうでしょう?」
首を傾げて。
「きゅーとちゃん…?」
聞こえた声にはさらに首を傾げた。身を縮こめた。
「にちあさ、って、何?」
ちんぷんかんぷんな事を言うね。
意地悪に含まれているとは到底想像も付かない顔で、再三口開いた。
「こいつは親切心で言っとくけど、中庭には足を運べやしないよ、お上りさん」
鍵でもあるんなら話は別だけど。
「いっそ選ばせるのも面白いかも知れないね」
「黒、……嵐?……夜空、だっけ?」
「その内どれが一番良いかって」
ほんのちょっとうろ覚えな様子を窺わせた。
優柔不断に優劣を競わせるのは愉快だろう。
>>1609
「巫女はみんなそう…」
「血筋というものなら致し方ないのでしょう…」
「でも でも きっと村ではとても大切にされているのでしょうね」
「当羽もその人間の代わりを果たせるように頑張らなければ…」
きゅっ、と。手は握ったまま。
「食べ物れすけど気にしないでくらさぁい…」
「自分では今この名前しか名乗れないのれすぅ゛……」
しくしく。恥ずかしくて泣いていた。
目線をそのまま逸らしていたが、あなたに覗き込まれた。
「よぶのは、おすきにぃ…」
「大切にされるのが当たり前とか、これまた尊大だな……」
あっちの方が驕ってませんか?違う?そう。
別に良いんですけど。化け物だし。
「はい、男の子なんでそういうの好きっすね。弱いものいじめは好きじゃないです」
「ニチアサで育ってますから」
下がったならOK。そういうのは見えないところでやってくれたら、こちらだって無視出来るんだよな。
「そろそろ中庭に行きますか。意地悪が多いので」
杜撰な扱いにもまるで悪怯れず、
不貞腐れるどころか、お代わりの椀が手向けられる。
こんもり盛られたのは勿論悪態。
「強いとか弱いとか言ってんの可愛いねえ」
「男の子だね。男の子、そういうの好きだもんね」
しっしっ、とされても知った事じゃないけど。
離れたげたら満足するのかな。良いでしょう。
「ちょっと当たってるならあたし、占い師でもやれるかも」
「悩み相談なんて柄じゃないのにねえ」
頗る上機嫌なのでした。
「お役に立てるのならなんでもしますよぉ〜…」
「お役に立てることも少ないれすけれどぉ……」
お世話をするという話だ。
「親近感はあまりありましぇんねえ…」
「人と天使では遠いれすから…」
見た目ではなく彼女の自認を優先した。
態度が大きいとも思いませんよぉと首をゆるく横に振っていた。
人間さんのお役に立てるならいいことだった。
「名付けって、その人らしさが出て面白いね」
周囲がどれだけ競って(?)いようと、少女自身はもらった名前に優劣をつけることはないから。今後は全て羅列しながら名乗ることになるのかもしれない。
当人にいじめているつもりはなかったけれど、大人しく身を引いたことでしょう。
>>1553
「不健全、たしかに生まれつき身体は弱いけど、巫女はみんなそうだって言っていたわ。
だからこそ大切にされているの。こうして大切にしてくれる方がいてよかったわ」
好奇心が抑えつけていた不安な心、手を握れば次第に和らいで。
「番号に、あんぱんは食べ物よね。
アン様、アンさん、アンちゃん……」
変わった名前かどうか、箱入り娘に判別はつかないけれど、聞こえがいい響きを模索して、
逸らせた視線を合わせようと真っ黒な瞳で覗き込む。
「……」
「気にしてないよ、全然」
ちいちゃくなってはいたので、覗きこまれたりはしていたけど。
ぜーんぜん、へっちゃらだ。平静。
「夜空の下では……なんとなく気が楽になった、っていうだけ」
「つゆさんが言ったことは、全部そうだったかもしれないし。ちょっと、違うのかも……」
「まあ、見るからに玲衣くんより俺のが強そうなんで……」
驕ってると言われれば全く同意しかないですね。
背も高いし、コミュニケーションも不得意な方じゃないし。
て事は当然なので。それが悪いとは思わない。
しっしっ。なもんでフォローする気もそんなに無い。
人間は好きだけど、それは化け物と比較したらって話だ。
間に入られちゃ肉の盾も機能しないね。
はいはいと降参めいて両手を緩く掲げ、
手首で宙ぶらりんの番傘が微かに揺れた。
「可哀想とか言うのもよくないんだ」
「心の底じゃ驕ってんの透けて見える」
ほれ見た事か。今ガキとか言い掛けたでしょ。
「好戦的な天使はいましぇん!!!」
悪魔に正答をぶつけながら見送った。
「ロビーでお見かけした人間しゃん」
「なかよし…というわけではありませんが……」
「移動するのに手が必要なようでしたから…」
杖にならいくらでもなれますので…
べそかきは多少落ち着いた。
先ほどよりはまともに受け応えられるガキだ。
「一部の人間はこちらに集まられてるんですねえ…」