『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
『言ったろ、資源もなにも無から湧いて出てるわけじゃないって』
『この空間はすべてを空間内で完結している』
『だから……いや、細かいことはもういい』
『要するに、足りないんだ』
『せ、せめて、せめて生き残り続ければ』
『『資源』がないだろ』
『どうして!どうして『資源』が供給されないんですか!?』
(少し遠い位置から録音した音声のような音質。)
『……資源もない、システムもエラー』
『通信機もつながらない』
『どうして……』
『どうしても何も、俺達にはどうしようもない』
『生存者も俺達二人だけだ』
『再計算中です』
ザザッ ザザザザザザザザザ
ザザ、ザ……ザザ、ザ
『次の[快晴]は再計算中……』
ザザ、ザ……ザザ、ザ
『こちらは自動放送です』
ざざっ。
ザザザザザザザザザ
ザザ、ザ……ザザ、ザ
「……、ああ」
咳き込む音が酷くなる。
もうすぐ餓死と、出血。
両方死ぬのだから。
運ぶ手間などないように、霊安室の前まで座っていよう。
おせっかいな者など、多いのだから。
「アンタたちはアンタたちで、マイペースなんだな……」
これは廊下に留まっていた者たちに対して思ったこと。
まぁ、かく言う自分もそうなのだが。自分が無事に帰還できればいい。
…………どこへ?
なぁんか、興味ってものが湧かない。
人が沢山集まり出したのも、
なんか、他人事みたいだ。
「うん」
乗り込もうって思えない。
首突っ込もうって思えない。
眠たいし、寝ちゃいたいし。
お部屋に帰ってしまいましょう。
多少は気分も安らぐでしょうから。
そういえば。
雨の音、段々気にならなくなってきたなあ。
最初は嫌いだったんだけど。
…
なんできらいなんだっけ?
おもいださなくてもいいか。
・・・。
(……65人……)
(当たり前だが、65人全員に家族がいて……)
(……いや、当たり前でもねえのか。家族がいるってことは……)
(生きてるんだって、もう、当たり前のことじゃねえんだから……)
(雨だって嫌いな人のほうが多かった。オレの周りには……)
(案外、ここにいる連中は全員雨が好きだったりしてな)
(雨の音や、雨に濡れること、雨のにおい……)
(今となっちゃもう、全員には確かめることもできねえが……)
「にゃあ」
騒がしい場所なんて行きたくない。
ひとつ鳴いて、増える影を見渡して。
自分が停滞する肉の塊である事にはなんら変わりない。
ここもわりかし静かだな、なんて思いつつ。立ち止まって、光の差してきた中庭を眺める。
今の自分には何もできない以上、あとはただ祈って時を待つくらいしかできない気がする。
短刀の刃欠けちゃったもんですから。
擬きを追っかけ回す気も起きなかった。
中身が人間なのか、とか、今は割と、興味無いの。
「二日も経てば開くと思ったのにな」
どうせ、見なくたっても分かります。
今、何時間経っただろうか。気にした事も無かった気がするが、猫は丸まりながら考えていた。
いつになったらお家に帰れるだろうか。早く帰りたいなあ。
娯楽も何もない静かな廊下、考えだけが巡り巡る。
浅い息、繰り返し。