『バンケット』
大宴会場。電気はないが明るい。
円形のテーブルが多くあるが椅子はない。立ち席。
奥には大きな舞台がある。
幕は朽ちて落ち、雨の舞台が公演されている
『記録[
少しの沈黙の後、前を向く。周りに堂々と宣言するように大きな声で話した。
「おれは殺さない。あんな事実があってもだ。神父のような危険人物が放浪しているのは危険ではあるがな。」
誰かが、自分が彼に襲撃されるかもしれない。そうであってもこの銀色のナイフに血を流すような行為はしない。
「……とりあえず、警戒はしておいた方がよい。」
「…ごめん。今だけは自分を棚上げさせて?」
「自分を刺殺した男に妊娠してたことバラされるなんて、アタシが工藤ちゃんの立場なら耐えられない」
「何が死の冒涜だよ!自分は死者の尊厳を踏みにじっておいて!」
「ああ、アイツの喉を裂いてアタシも死んでやりたかった……!!」
掌で顔面を包んだ。
「……。」
「はぁ……嫌だな。」
ため息、頭を掻くと指先が更に黒く染まった。
「私……コンテキストさんに、少し話してくる。」
「あの神父を刺すのは、今はちょっと嫌だし……コンテキストさんにどうにかして貰うのが良さそう。」
「あの人も目立つことするから……」
ローゼンが去っていってからすれ違わなかったぐらいの入れ違いで、男が入ってくる。
「ここが落下現場にございますか……いや、見た限り机のテーブルクロスがより少なくなってること以外はあまり変化が見当たらな……おや皆様ごきげんよう」
「生者が死を望んだ場合は、殺せば救済になるのか。」
それ以外にも方法はあるだろうに。
くだらない。死など所詮身体という束縛から解放されるだけ。だがそれを言ってしまったらクドウに失礼だ。
今、背中からあの人の気配を感じた。警告だ。殺さないで、傷つけないでと言っている__
「……そうだな。おまえの言うとおりだ。国や戦争以外はおれは殺せんと誓ったのだからな……。ガロッホ、おまえとの誓いは破れんよ……。」
ナイフを懐に閉まり、十字架を切る。儚き彼女よ、せめて天国で健やかに眠ってくれ。
「……何だったのだ。奴は。」
爆弾投下して何処かへ行ってしまったぞ。やはり彼も精神が疲弊しているのだろうか、いやあれは根本的に壊れているようにも見える……。
すかさず懐のナイフを取り出す。ピカピカの、反逆者に狙われないようにと買った初日のナイフ。
「……。」
もう殺したくない。危険人物が闊歩しているのは相当危険だが、気軽に襲撃する者がいる。そういった危機感は消えつつある。
復讐、傷をつけるだけ。刺すだけ。だがあの人は、もう手が汚れる自分をみたくないと言っていた。
「……人の事は言えないけど、ここの人達こんなばっかね。」
「嫌だからこっちの部屋に来たのに……」
愚痴っていた。
「……あの神父は、私を襲ったりは…しないか。」
「………………」
「死を望む者を蘇生までさせるのは、
確かに、死者への冒涜だわ」
その思想には同意しよう。
王さまに出会う前の自分なら。
殺されたらそれを受け入れて、蘇生なんて望まなかったろう。
それが、理解出来てしまうから。
神父は果たして“悪”なのか?
コンテキストは、“悪”なのか?
“そう”とはっきり言い切れなくて。
思考。巡る。巡るばかりで。
「………………」
無言、見送った。
さあ、どうだろう。
この声で、動く者がいるだろうか。
いればいい。
あの者は、間違っているのだから。
「――さて」
「ご歓談中、失礼いたしました」
「私を殺したい者はどうぞ、ご自由に」
「その勇気があるのであれば、受け入れましょう」
「――私を、刺す事が出来るのあれば、の話ではございますが」
「……では、皆様方」
「ごきげんよう、でございます」
そういって、何事もないかのように。
ツカ、ツカとヒールを鳴らして去っていくだろう。
「――ふふ、ふ」
哂う。
哂う。
哂う。
「ええ、ええ」
「何かして欲しい、などと言いません」
「私は、知って欲しいのです」
「工藤様のように、死を望む者を。
生き返らせても、また死んでしまう。
正しく、死の冒涜であると!!」
「――それだけを、伝えに来たのでございますから!!」
▼
「……そうか。」
コンテキスト、確かあの丁重な者だったか。思い出す。
怒りを抑える。手は出さない。出したくない。
「神父殿は大変だな。
それで、救えなかった。なんだ。それからどうした?貴様の話を聞いてどうするのだ。」
「ふふ、どういたしまして」
「知りたいのは人間の性でございましょう」
哂う。
哂う。
「ええ」
「私の手で、救ったのです」
「救ったので――」
もう一つ、お伝えしましょう、と哂って。
「他の。工藤様のような」
「『死』を望んでいたものを生かしてしまうような」
「唆し、死者の過去でさえも偽る」
「不届き者のコンテキスト様にも」
「救いを差し伸べたのですが」
「――救えませんでした」
「…………。」
ナイフを見ている。
数分沈黙した後、呟いた。
「そうか。死を望んでいたのだな。そうか……。」
ここに襲撃をしたものもいる。単純な理由で。
仲良くしている少女も、元は襲撃者であった。
「そうか……そうか……。」
来るのは絶望か、怒りか、悲しみか。
おれは知らずに生きろと伝えていたのだな。
お腹の子。何があったかは知らない、でも生きていてほしかった。二人とも。
男は微笑んだ。それは、哀れみ。
「……よく伝えてくれたな。殺した者が知れて良かった。」
「ああ、あのビスケットを食べた件ですが。
関係ないですよ」
「私は教団に入る前の。
それこそ昔から、良くさせられていたものですから」
「――証拠、とは言えるのかは分かりませんが」
「最後に腹部を刺した時に、違和感を覚えました」
「……おそらくは、
宿していたのかもしれませんね、分身ともいえる者を」
これで伝わりますか?とにこやかに哂う。
ナイフも共に、差し出して。
「彼女は死を望んでいました」
「――彼女にも、生きてもらいたかったのですが」
「死ぬ運命だと、言われてしまったからには」
「丁寧に彼女を救わねば、と」
「二度、救いの手を差し伸べ、導かせていただきました」
淡々と聖歌を歌うように。
「_____ッ!!」
驚き、そして怒り。嘘か?真か?嘘にしては阿呆が過ぎる、死者を罵ったも同然。真だとしたら?殺したのは彼?だとしたら……許せない。両手を強く握る。
「……証拠は。証拠はあるのか。」
嗄れた声には怒りがこもっている。
「――貴重なお時間を頂戴いたしまして。
では、先に一件、お伝えしましょう」
す、と深呼吸をする。
何処までも、落ち着いている。
今にも、倒れてしまいそうな風前の灯火の命を。
わざわざ偽って、さも健康です、といいたげに。
「マクベス様」
「あなた様が、嘆き、悲しみ」
「憂いを送った工藤様を」
「死の道へと手を差し伸べたのは、私でございます」
簡潔に。
まずは事実を、一つ。