『バンケット』
大宴会場。電気はないが明るい。
円形のテーブルが多くあるが椅子はない。立ち席。
奥には大きな舞台がある。
幕は朽ちて落ち、雨の舞台が公演されている
『記録[
自分も適当な場所で寝てたから何も言えねぇかも。
「ん〜〜〜、喋れねぇとか?」
挨拶にも同意するにも口を開く素振りすら見せぬ様に、突然不躾な質問をする。
ロビーに居た時は喧しい奴らが多くて面倒だったが
こう全く声がないというのも些か退屈が過ぎる。
喋るつもりが無いだけならそれで構わないのだが。
こんな場所で寝ていた人が……?
背中を見送った。
ゆるい挨拶には、軽く手をふりふり。
こくりと頷いて同意を示した。
早く帰りたいのに帰れず、手持ち無沙汰で良くない。
「おいす〜」
礼儀正しい挨拶に手をふりふり大変ゆるい挨拶。
扉近くに居たので、直ぐ側を通って行った男にも視線を遣る。
「まだ6日?あるんだっけ、退屈よな〜」
「ねみぃ〜」
気怠げに欠伸をしながらやってくる。
飯でもあれば食ったし、椅子でもあればだらける所だがどちらも此処にはない。
テーブルに座っている行儀の悪い奴もいるが自分はどうしたものか。
誰かに声を掛けるでも近付くでもなく少しばかり様子を見ていた。
とことこ訪れた。
「………………」
人が少ない様子を見て、壁の方へ寄る。
幕の上がらない舞台をじぃと見詰めた。
「………………」
テーブルがあっても並ぶ食事がないのだなあ。
給仕の機会はないらしい。
「やるなら遠くからピン芸人を温かい目で見守っておくよ」
協力する気が全く無いのを隠しもしなかった。
多分人と仲良くなる気があんまり無い。
「さて、朝飯でも食べてくるかな〜」
テーブルからひょいっと降りて、食堂の方へ。
多分めぼしい資源はもう無いだろうけれど。
「えーっ?集まらない人は気合いで集めて〜、んでエア乾杯でも大喜利でもぜって〜オモロだぜ〜?
まーでもピン芸人はワンチャンありかもな〜、俺のギャグ言うところを見せつけてやる…的な?
ノリとフィーリングありゃなんとでもなるなる〜」
深く考えていないのはそうである。
「パーティーとか絶対人集まらんでしょ〜」
「出し物やる人も集まらんだろうし」
貴方が本気で計画している訳ではない、と思っているので緩く否定的。
騒がしい雰囲気が好きな人は一定数いそうだけども。
「最悪、君がピン芸人として頑張るしかなくなるよ」
「ヤバ〜」
ヤバとヤバ、雑な返事は共鳴するものである。
「えー?新しいかは置いといて…こう、デケ〜パーティが出来る場所、マジであると思ってなかったからさ?
パーティ出来そうだし、なんか出し物やる時にサイコーそうな舞台とかもあるし俺的には超当たり来てる、的な〜?」
幕の上がらない舞台を指さしつつ
「そうそう。超ヤバいよ」
雑な返答だ。真面目に話す気が無い。
靴を脱ぎ捨て、テーブルの上で胡座までかいた。
「朝から元気ね〜。変な場所だけどそこまで目新しくはなくない?」
奇妙ではあるが、そんな観光気分でテンションが上がる場所でもないかなと思っている。
「あ!喫煙所のおにーさんじゃーん?
ういーっす!受動喫煙マンが来たぜ〜?」
テーブルに座っている様子を見て
「すげ〜!おにーさん座るとデカイ椅子みて〜じゃんね!ヤバ!」
「お?」
ここに入ってくるなり周囲を見て
「おーおーおー!あんじゃーん!」
なんとあまりにもウキウキだ
「良いじゃんねぇ!明るくってんでギラギラで、そんでもってテーブルとあっちの奥に激ヤバオモロな物もあって…すげ〜!」
笑顔で走り回りながら探索しよう
真新しい煙の匂いを纏った男がいた。
先程まで煙草を吸っていた事は明らかだ。
「なんで宴会場があるかなあ……」
一通り歩き回ったが、用途の分からない建物だ。
強いて言うならホテルだろうか。
「ん、わかった……そうするよ」
困らせてしまったかも。いい人そうだったのに。
なんて少々内省しつつ。
「……あぁ、また。おやすみ」
こちらも何か呼ぼうと思ったが、出会ったばかりでなにも思いつかず。
次会った時にでも考えることにし、足早に立ち去っていく様子を見送った。
「……名前が」
少し、聞くべきではなかったのかなと反省するものの。
けれど、聞かなくては仕方がなかった、と割り切りをつける。
「……じゃあ、その時その時で呼びますね」
「代わりでもないですけど、私も好きに呼んでくれれば」
「では、……頭痛の貴方、またどこかで」
なんて言って。引き摺るのもなんなので、
早めの足取りで、立ち去っていこうと。
「名乗るものではないっていうか……名乗るものがない」
「……自分の名前が、わからなくて」
後半になるにつれて、歯切れが悪そうな言い方になり。
「だから……オレのことは、適当に呼んでくれればいい」
「それはよかった」
「どこか打っちゃったりしたんですかね……」
それはそれで少し怖いけども。
どうやってこの人数をここに集めたか、方法が不透明だし。
そろそろ離れるか、なんて思って。
では……と切り出そうとして、名前が聞けてなかったなと。
「そういえば、他人の自己紹介に……微妙な反応してましたけど。
やっぱり、無闇に名乗るものではない……なんて思いますか?」
「ん……ご心配どうも……」
僅かに傷ついたプライドに、人の優しさが染みる。
「さっきに比べりゃ結構マシになったし、頭痛の方は多分もう大丈夫……だとは思う」
まぁ今後も気を付けはするが。
正直それ以外の、気がかりなことが多すぎる。なんて内心考えながら。
「そんなことないと思いますけど……」
女の子ならしないって思い切り言ってたし。
受け入れられるなら、それに越したことはないか。
「ともかく頭痛、本当に気をつけてくださいね」
「おおかた何事もないにしろ、
そっちの方によっぽど気を割くべきなのも、多分、そう」
「ん、おやすみ」
去って行く者にはそう告げ。
「まぁ……こういうのいちいち気に留めてもしゃーないし」
「……あんな場所で転がってたのが悪いってのも、事実だしな」
一応、自分にも非があることは認めるようだ。
「その、あんまり……深く考えないであげて……」
「多分気を許していない相手にはずっとあんな感じなんでしょうし」
知り合って一日も経ってないけど、そんな気がする。
「おやすみなさい、玲依くん。
風邪にはきをつけて、暖かくして寝てね」
「行っちゃった」
ぐ、と伸びをして。背中がぱきぱきと音を立てる。
小さくあくびをして、ようやっと眠気が来ていることを認識する。
傍目から見ても、眠たげに目元がとろけ始めていた。
「おれは、先に寝ようかな……」
「シャワーは朝浴びることにする。四季さん、と…コートの人。また…明日」
そうして手を振って、今日は個室の方へ向かうだろうかな。