Void
なにもない
『記録[
「後悔は過去を鑑みることで生じるものだと判断します」
「今考えて、先に生かすためのもの」
「明日を選んで生きるための考えに役立ちますから」
天使みたいなことを言っていた。涙は引っ込んでいる。
もし溶けたなら、あの子みたいに支えて、歩けるところまで連れて行こう。
「はぁい」
「変なことですかねぇ」
「当羽より後ろのナンバーもいるくらい…それだけいますよぉ」
「増える人間に対して…むしろ足りないくらいでした」
「今は良くなりましたが」
素直な方が
「…?」
「……」
「おんなじ巫女様ですからねえ」
そういうことだと判断した。
境遇もよく似ていた。
蚕は食べられない。
卵を産む。衰弱する。
そのまま。
──ね。
また戻れたらお話ししてあげて欲しいものでした。
私はそう思うのです。
短い間だけでも良いから。きっと。
「ええ、後悔も、自由ですよぉ」
「うん、歩こう。」
本当に歩いてるか、飛んでるか。
分からないけども。
まだ有る、溶けてない足を動かして。
「え~と…じゃあアンさん。」
「早速だけど天使番号って?
200番って事は、天使がそれだけ居るの?」
「番号で管理されてるって、何だか変な感じがするね。」
警戒も、恨みも投げ捨てた御子は案外と饒舌らしい。
言葉を選ぶのは得意ではないが、感情と思いのまま話すとこうなる。みたいだ。
「まゆこさんね……」
「思えば…彼女も、私と一緒だったのかな……」
境遇も。それからタイムリミットも。
蚕って、成虫になると……
もう少しお話とかすれば良かった。
「……うん、後悔も自由だよね。」
ネガティブな話だけど、そうするのも自由。
当羽で…?と目線が泳いで傾く。
当羽は…あまり役立ちませんが…と付け加えながら。
「……」
「承諾いたしました」
「出口探しと当羽とのお話」
「…」
「歩きましょう」
羽をはためかせれば、そのまま小さく畳んだ。
あるかもわからないが、足を虚無へ降ろす。
あなたと歩幅を合わせた。
あなたが乱暴な方でなくてよかった。
お話しすれば、お話しできる方でよかった。
場所が違えば、繭様ともお友達になれてただろうか。
「…」
「あなたが…織様が…」
「繭様と似た境遇であるのならば…」
「…」
なんにもない。何もかも取り上げられている。
それは今も同じだろう。
不自由な自由。
されど、誰に見られているわけではなく。
あなたを見るのは出来損ないの天使1人。
心だけは自由であれ。→
「……ま、悪くないか、自由。」
「落ちてたのが、天使さんで良かったかも。」
「取り敢えず、飽きるまで出口を探して……」
「お腹も空かないから…暇になったら、天使さんのこと教えてよ。」
虚無の中に二人だけ。
墨の御子と、泣き虫天使。
なら、この自由な一時。
お散歩とお話でもして過ごそうか。
「今は、自由……」
自由。
思えば、産まれた時から自由なんて、あっただろうか。
最初から決められていて、何不自由無いようにと、自由を取り上げられて……
「自由。」
「これが自由かぁ……」
周りを見たって何も無い…
一瞬何かあった気がするけど、何も無い……
ここにはなにもない。
・・・・・・・・・・・・・・
そして、ここに在ること。
虚無以外を認識できること。
それは、ある種の奇跡だったのかもしれない
虚無が揺らぐ。
それは、ただ在るだけ。
・・・・・・・・・・・・・・
なにもない。何も起こらない。
資源は変わらない。襲い来るものもない
・・・・・・・・・・・・・・
「…当羽は、何もできませんけれど…」
「いくらでもお付き合いいたします」
「──“人のための天使”ですから」
体を起き上がらせた。
人が1人でもいるのなら。
天使は、人は奉仕するものだから。
「……」
まだ動けるかな。
動けるだろうか。
「……頑張るしかないのです」
「…生きたいなら」
「嫌なら」
「人は…いつでも選び取れるのですから」
「…」
「あなたの…これまでが不自由だったとしても」
「…」
「今は…当羽と話す今は自由、です」
言い切った。言い切る。
似たようなこと、言ったことを思い出した。
「あなたのしたいように」
「あなたの話したいように」
「頑張るって言っても……」
「どうやって来たかも分からないのに……」
それでも、ここで終われば。
自分が遺せる物は、何も無い……
そんなの……
「…嫌だなぁ。」
足は……まだある。動ける。
立ち上がって、辺りを見回す。
本当に立ち上がって、歩いているか分からないけれど。
それでも。
「……」
人はいつでも歩ける足があって良いなあと思う。
選び取ることができて良いなあ、と思う。
せっかく選んだのに、全部無駄になっちゃったかもな。
いつも空回りするんだ。そんななんだ。
傷をつけちゃった。大切な、玉のような繭玉に。
「………」
「……」
ぼうっと、しばらくしている。
──あなたも。
「…はぅ、…」
「………」
「待ってばかりではいられません。何より行動を起こさなくては」
「…」
「当羽は……」
消耗。体力が厳しい。
空腹。喉の渇き。飢え。上。飢え。
「…」
「終わりたくないなら、頑張るしかないのです」
「………」
ぴいぴいと喧しく泣くのが落ち着けば、後にあるのは、静かに涙を流すだけの様子だった。
つぅ、と。落とし終えれば、瞼を開く。
「……」
「…繭様は…」
「ずっと….お待ちなのですね。……モニターのまえ…」
「…」
観測不能。
あの場所から離れるということは、アナウンスをしていた側からも想定外ということなのだろう。
<s1>神は天から一筋の糸を投げることもあるが。
神が気が付かなきゃ、何も起こらない。
理不尽なものだ。
私も。
きっと
「……。」
「探して、いました。貴方が"落ちて"…ずっと。」
「怪我も気にせず、ロビーの…私達の状態が表示されるモニターの前で、ずっと待ってて……」
少し、これを伝えるかは迷ったが……
既に泣き出しているしと、そのままを教えた。
ここに落ちると、モニターで『観測不能』になる事も伝えるだろう。
「何も無い……」
背筋がひんやりとした。
「……何か、ここを出られる方法。」
「こんな所で、終わったら、私……」
「…あぅぅ…」
繭の子が探していたと聞けばポロポロ泣き出すか。
膝の上に置いていた。
取り落としてしまった。
自分のこの状況より。
あの子の方が、よっぽど、心配だった。
「繭様は…お探しでしたか」
「…あぅ…」
あなたの顔色も優れず。
私の顔色も優れない。
「……」
「なにもありませんよぉ」
「なんにも、ないです」
この場所のことを聞かれれば。
そう答える他、なかった。
なんにもない。
その事実しかない。
「はい、織です。」
「じゃあ、貴方は本物の…まゆこさんが探していた……」
天使番号やら、あんぱんやらは初めて聞いたけど。
いや、アンとは呼ばれていたのを聞いたっけ?
顔色は良くない。
まだ落ちてきたばかりだが、状況が状況だから。
「ここが何処とか、どんな場所とか……」
聞いたって無駄だろうけど……自分より長く居るであろう天使に聞く。
「…あぅぅ…」
虚無の空間で有を有する。
有機体。あなたも、私も。
あなたの姿を見れば、悲痛な顔をして眉を下げた。
「…はぃい…」
「…天使番号208番、あんぱんと申しますぅ」
「…あなたは…繭様とお話しされていた…」
「…墨の…織様ですね」
「…」
「あなたもこちらへ…」
心痛。暗い顔のまま。
あなたの顔を伺った。
「あのぉ」
「ええとぉ」
「もし…?」
声がしたの気のせいかと思ったけれど。
体を起き上がらせれば、弱々しく飛んでくる。
落ちたあなたの方へと。
しばらく横になって、お腹を撫でていた。
羽を丸めていた。
お腹に今は何もない。
まあるいもの、いつもあたたかくしてたら取り上げられちゃうから。
胎を撫でた。
胎を撫でた。
胎を撫でて、
「…あぇえ…?」