Void
なにもない
『記録[
「ねぇ、待ってよ。」
「こんな所じゃなくて、村に、返してよ!」
「どうして!?
どうして私なの!!!」
叫ぶ。心の裡側を。
「18で溶けて死ぬって、こんなの呪いだって、わかってた!」
「でもさぁ、我慢してたじゃん私!」
「何で……」
「綺麗に終わらせてくれないの……」
「……こんな何もない所で、終われって言うの?」
「……まさか。」
"落ちた"
噂になっていた、それ。
ほんの少しの希望もあったけど…これは。
「……え、どうなるのこれ。
ねぇ?」
「…何?え、なに?」
分からない。
ここは何処だ。
さっきまでメイドさん達や、悪魔や、作家先生なんかも居た。
確か食堂だった筈。
ちょっと暇でうろうろ歩こうかなとか思ったけど…
「ちょっと。」
「誰か?」
「えっと、DREAM?」
「ねぇ……」
「……えっ?」
目の前の光景が、気付けば変わっていた。
ここは、何処だろう。
まだ処理しきれない頭のせいで、驚きも何も無かった。
「…あぅ」
「……奈落に…落ちた魂たちもこうだったんだろうな」
「因果応報」
「……よくお似合い」
どうしたってお似合いだった。
身の丈にあった天罰だと思う。
どこまでも不透明な視界。上も下もなく。
魂たちは、こんな場所を彷徨って、寂しく火を消していったのだろう。
魂を運べない不出来な天使なんて、なんのためにあるのだろう。
なんのために、あるのだろう。
ずっと考えている。
うまく運べなかった日から、ずっと。
昔だってろくに飛べていない。
大きさが不揃いなのはずっとそうだった。
カゴの中に魂を入れて、上に運ぶお仕事が天使の基本。
かごに入れた魂を、天上へ運ぶ。
そうして、死後、体から離れた魂が空まで迷わないよう。導かなきゃならなかったんだけど。
「……」
「ない…なあ、出口…」
「…」
歩き疲れたところ、立ち止まって。
身を丸くして眠っていた。
多分、落ちた時は、暗転してから後くらいだったから。
寝る時間…が近かったと思う。
身を丸くして、体と羽を丸くする。
無駄に大きくなってしまった羽。昔よりずっと飛びにくくなった。
そもそも生えてる位置が悪いのだけれど。
ただ、誰かを温めるのには適していた。
「噛んじゃった」
「謝るじゃなくて、殺める」
「殺傷はきっと誰も許さないだろうな」
独り言は無限の空間に吸い込まれるようだった。
あんまり喋ってたら口の中が渇いちゃう。
そうじゃなくても、勝手にポロポロ涙は溢れてくるのだけれど。
すぐに泣きたい気分になる。
戒めのそれで、子供みたいな泣き虫になってしまった。
「…」
「あぅ…」
歩いていて疲れたような気もする。
単純に今日襲われた怪我が痛むような気がする。
歩いても果たしてこれは何処かに行けているのだろうか。
「……」
「あのフードの人は…信頼できるかな」
「祈り方が綺麗だったから、信心深い人だといいな」
「何処の神様もきっと人を謝ることは悪とするだろうから…」
「…ちゃんと会話してお任せしたかったのだけれど…」
生きることを誓い合ったと口にした女の子も、きっと悪い子じゃないはず。
その人がそばに置いているのだから、多分、だけど。
裏側で悪いことしててもわからないから。
「……──ああ」
席をしても1人、とんでも1人。
笑っても1人、何しても。
天使は隔離されていた。
全ての世界から遮断されるようにして。
あの奈落を思い出すようにして。
私は、電信柱のように立ったまま、その歩みを止めた。
ここには主も人間もいないんだ。
他の天使もいないんだ。
私、だけなんだ。
わたし、だけなんだ。
「……………」
ここは何処、なんて考えても仕方がない。
ここは何処、なんて。雨の降るあの場所からずっと思い続けてきたことだ。
主よ、主よ、如何とす。
なんて、テレパシ飛ばしてみても。
主は、頑なにその口を閉ざしている。
一切の連絡がつかない。
雨の部屋と同じだった。
同じ状態で、天使は隔離されていた。
「…………」
「………………」
何処まで行っても1人きり。
時間は永遠のように感じるし。
何処を眺めても、同じ方角に感じる。
虚無の色は何色だろう。
その色が眼前を埋め尽くし。
果て、という希望を見せてくれない。
<s2>やっぱりそこは奈落に似ていて、
しっかりとしたため息が出た。
息ができているのも不思議だった。
天上の上。宇宙空間は。
常に拡大し続けているのだというが。
果たしてここもそうなのだろうか。
考えたって、仕方のないことだ。
「…」
「………」
「……………」
小鳥が囀ることはない。
ただ、歩みを止めることもない。
そういう機械みたいだ。
なんで歩いているかわからない。
とにかく外に出ないと、という焦燥感はあれど。
なぜ焦っているかって、急に消えたことに対する弁解と報告を行わなければならないからであった。
人の目を気にしている、し。
膝の上に置いてた子が、痛がっていないか心配だったからだ。
……
………
アナウンスの声は幻聴だったのだろうか。
もはやそれすらも聞こえない。
いよいよ、先のない牢獄に突っ込まれたようだった。
無期懲役を、文でも声でもなく下されている。
ぽて、ぽて、と歩いて一時間。
翼を広げて、へたくそにとんでも2時間。
………
「……当羽、が」
「とう、わが、」
「……」
「……何処、ここ………」
──因果応報って話だ。
ようこそ、奈落へ、舞台裏で。
お前が落とした魂が潰えたような場所へ。
遅かったじゃないか出来損ない。
──虚無を彷徨え。
意味はなく。
ただ、そこにいろ。
奈落に落ちた魂は彷徨い続け。
見つけられることはなく。
ただ、火が消えるみたいに。
音もなく。
あとは暗がりが広がっている。
魂は霧散する。
そうして、何もなくなった。
──だからさ、つまり。
──逆さまに。
落ちていく魂を何度も見た事がある。
それは私がバランスを崩して落とした魂だった。
飛び方がいつまでも下手だった。
腰に生えていて、バランスも悪いから。
うまく上を支えられない。
高く天上まで登るとき。
籠に捕らえたその魂を。
奈落へと何度も取り落とした。
手を伸ばした。届かない。
その方向に飛んだ。意味がない。
ただ、現世でもなく、天上都市でもない、狭間の場所で。
落ちた魂は、どこにもいけない。
役立たずの羽は灰色を示している。
腰元から生えた羽。羽は背中に生えるものだろう。
位置もおかしければ大きさもおかしい。
左右非対称。
こりゃ落ちて当然だ。
ダスト・シュート!
ごみはごみばこにすてましょう。
ぶんべつなどせず、すてましょう。
いらないものはしょうきゃくろ。
もしくは、神の元、リサイクルへ、どうぞ。
勿体無いもんね。