『中庭』
雨の降る中庭。
石造りの噴水と、石のレンガによる舗装がなされた中庭。
緑はなく、殺風景。手前の方だけ庇がある。
空は一段と暗く、雨も降り続け止む気配は無い。
扉があいている
『記録[
まあ、いいんじゃないかしら。面白がってんなら。
他人の満足事情に口挟んでやる気がありません。
そんな空元気が腹から湧いてこないもの。
「ううん……?」「お布団のが欲しいね」
そんな涎垂らしてたかしら。物欲しそな顔してたかしら。
「お腹は空いてるけれど」
「それよかうんと眠たいもの」
無理に起こされたものですから、ね。
束の間でも良いんじゃないんですか。
何だかみんな、満足していらっしゃるようなので。
じゃ、それで良くないですか。
多分それで良かったんです。
「腹が空いてるって遠回しな催促と強請りすか?」
そっちから治療とか飯とか、勧められた事が無いので。
途中で水嵩増したら宛ら賽の河原でしょうね。
それでも退屈凌ぎに続けるのかも知れません。
束の間のお風呂作り。
そうなんだなあ。
「じゃ、黴の付いた奴食べたらいいだろうに」
「ぬるいの注いでる間に、どうせ元通りだもん」
「まーすんごい地道な事してるんで、時間かかると思います」
タライとかバケツでね。人力でね。抜いてるんで。
そこかしこで人鍋やってないと思いますよ。
思いの外みんな、モラルを大事にしてるみたいだから。
「やですよ。もう死ぬのにそんなの意味無い」
「それなら飯食います」
煮る焼く蒸すなんか出来たら、そこかしこで人鍋つついてるでしょうから。
美味しくいただけたら問題があるのかも。
あたしは分かんないですけど。
「お風呂入ったらいいじゃない、生ぬるいやつ」
「傷の始末を懐で済ませてさあ」
雨で肉が溶けて再利用されて、その末、
湯水のように、ってか湯水に使われるのだそう。
過程を思い浮かべると中々に気色悪い。
「ぺい……」
「タンちゃんも死にますか?資源貰いますよ」
言って頂けたらもう即飛んでいきます。
ガメまくりなのです。
「そりゃ頂いた分はペイしないと」
「いやあ、あたし、人の顔に名前覚えるの苦手なの」
「なぁんか、名前決めみたいなのしてたっけね」
付随する記憶とを結ぶ単語、物があれば、まあ。
足跡とかに意味を見出そうとしたんでしょう。
多分、あの子も。
「そお、律儀な事ですね」
不真面目なりにも理解が及びましたよ。
お手本をなぞろうとしているの。
「夜空ちゃんすね。てかつゆちゃん知ってるでしょ」
あなたが黒って言ったんですよ。
パン屑はそうなんですけど。
そしたらあなたもそう変わらない。
「まあ資源貰ってたので」
情、とかでは無いんですよね。
貰ったものにリターンをしてるだけで。
真面目なんです。ご存知の通りと思いますが。
「したら、とっくの昔にばらされてますよ」
「蝙蝠傘みたいなのさした子と一緒にね」
よちよち歩きで着いて来てた具合でしょう。
あなたが気紛れに落としたパン屑食べて、
なんとなく親の刷り込みが入ってた子。
「死んだ子の頼み態々聞いてんの?」
「暇潰し以上に意味無いのにねえ」
知らないけどね。何せ名前も浮かばないものですから。
「死んだ玲衣くんですね」
隣にいたって言うか、雛鳥だったと言うか。
巣立っていったような気もしませんね。
育ててないので。
「あー」
「なるほど」「確かに」
そうかもしれません。
8割くらいの確率で資源として持ってってる、気がします。
て事はこの資源を食べ物に使えば──
なんですけど。お湯になる予定なんですよね。
足湯とか。温泉に。
ごん、おまいに浸かる事になります。by兵十。
「ああ、」「いっつも隣に居た子の頼み?」
そんなら凡そ夜明け前に溶けてくとこ見たもので、
ははあ、とか、多少得心いったような適当な相槌。
「仕組みは分かんないけど、今頃金貨になってんじゃない?」
そういう意味じゃ既にバラされてる。
「自分の死体をバラして欲しいと頼まれていたので」
「もう死体無いからどうしようかな、と」
解体する、のはどちらかと言えば主旨に付随してる事なんでしょうけど。
主旨を話す必要は無いので、そのように。
「これだとバラすのは無理かも……」
バラすものが無い、んですよね。
地面擦るのも無理ですし。
まあ良いか。
きっとそう、決めたんでしょうね。
起きたらちょっと、まだだるい身体で見に来ましょう。
久しぶりの外の空気なんで。
扉はすっかり開いていて。
まあ、決して清々しくはないものとご対面な訳です。
誤って踏み出してしまっては困るから、
足早にこの場をあとにした。
水音が私を誘う声に聞こえる。
流れる涙を彷彿とさせる。
大好きな人の幻聴を振り払って。
扉の前。わかってる。
こんな場所では行きたい場所に行けない。
水や空気が巡るなら。流れてゆきたい衝動に駆られたけど。
息を呑む。正気を保つ。
あるいは今の執念が狂気に近いのかもしれない。
いずれにせよ目指すものは一つだった。
「会いたいよ……」