『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「ン"ン"ゥ。」
「いやまあ、それはまあそうだが………今はそんなことどうでもいいんだわ………」
なら突っかかるなよお前!!
「………………………」
反らす話題が見つからないなら反らすな!!!!
「悪魔へのものとは思えないとびきり善性の願いだなあ!
しかし了解したとも。対価分の働きはするのが悪魔というものだからね……
後は死ななければ叶えられる!」
「ああお気遣いなく。僕が勝手にやっただけだからね」
「……強いて言うなら、そうだな」
「僕から貰った分、誰かに分け与えてくれると嬉しいかな」
「医療品でも食料でも。なんなら形に残らなくてもいい」
「こういうのが増えればきっと、ナイフを持つ手も減ると思うから……」
「おっとありがとう、お嬢様の人間クン。
おかげで大分マシになってる!二度刺されたらギリギリ死ぬかなぐらいのラインさ。
何か願いはあるかい。貰った分の範囲にはなるけれど。」
「………………………」
あっ黙っちゃった。
「………ナイフは食料品を切り分けるために置いてあったらしいが………わざとらしすぎるともいえるな。」
「これで多少マシになれば良いんだが……」
「……結局ナイフは道具だ。1番の問題は悪用しようとする人間の方だろう」
「手段さえあればこうも簡単に事を起こせてしまうのは……やるせないね」
「余裕がある時ねえ、拡大解釈したら永遠にその時が来なさそうな願いだ!
でもいいよ、ちゃんと前向きに引き受けよう〜ダリアクンにも恩はあるワケだし!」
「ふふ。人の名前なんていくら聞いてもいいですから」
「叶森でもいいですよ。同じ名字の人間にはまだ会ってませんし」
「…………選択肢にあったら選んじゃうんでしょうね」
「やっぱりナイフが売ってるのがよろしくない」
あったら手に取っちゃうんだから。
綿積雫は悪魔オモロスに医療品をおくった
「……痛々しいな」
つけられた傷を同情的に眺める。
「やはり僕には理解しかねるな。なぜこうも簡単に他人を傷つけられるのか……」
「ナイフを持っただけでそう簡単に“そう”なれるのかね」
「春、か。一回聞いてたかもしれんが………改めてよろしく。」
1日目なんかはバタバタしてて、自己紹介しても覚えていられるほどの脳みそのリソースはなかったでしょうし。
そういえば、自分の名前とにてて覚えやすいな、なんて。
「昨日……ええ、彼女は頑張っていましたからね」
それがちょっと心配ではあるのだけれど。
「本当に痛そう……
焼け石に水になってないといいですが……って、望みですか?
うーん……そうだ。オモロスさんに余裕があるときでいいので、ダリアさんが困っていたら助けてあげてください」
顎に手を当て考えて、望みを告げる。
「あ〜医者にオレの傷跡がエッチな目で見られてる〜〜〜〜〜大罪的〜〜〜〜〜」
「オレはちょっと皆を誘惑してるだけで実害のあることはしてないのになあ!
襲った人間クンがいたら理由を聞いてみたいねえ」
「さあ。………彼らに罪はないところ言っちゃなんだが、差別主義者らしき奴らも居たからまあ、全身無事であることの方が珍しいだろう。」
自分も一回やられたからね。思い切り。
「うわ。……そんなに刺されてるんですか」
人の刺し傷って初めて見たかも。
今はきっと塞がっているんだろうけど、
こう見ると生々しいな……。
「……あ、俺はハルです。叶森春」
「モニターじゃ花屋って書かれているので、花屋でも」
「流石に悪魔の治療は専門外だなあ………」
可哀相だが………という顔をしているが、興味の目も向けていたのかもしれない。
そうか………黒いのか………。
「おお、オレに今、助けを……!?
ありがとう、スベリクン……! あだだだ」
丁度露出させていた傷跡に、早速医療品を使っていくだろう。
「悪行を積みし者よ……望みはあるかい……」
「ダリアさんには昨日世話になったな。スベリさんか。覚えておこう。」
世話になったのはまあ、あれのなんやかんやですが。
顔見知りが増えることは恐らく悪いことではないはずですし。