『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「……っ」
人々の言葉を聞き流しながら、
己につけられた傷を指でなぞる。
傷付けられたばかりだからか、
指先は赤く濡れていく。
「……ああ、なんとも……」
言葉はそれより続かない。
口を閉じ、目を伏せた。
「どうもう、こんにちは〜」
ひらひら、片翼の男が顔を覗かせる。
「お話の最中にすみませんねぇ」
「皆様のためにもご遺体を運ぶ手伝いをしにまいりましたぁ」
「食堂でも死体が発見されました。
同じく2人、まぁモニター見ればわかりますよね」
そう答えた。
「まぁ大変ですが、食堂では個室を【霊安室】として使ってます。
そちらに運ぶのもアリかと」
「まあ、やってるうちになれるってもんだよ。外科医なんかは、色々毎日見るハメになるわけだから。」
これ以上のことは、言わないほうがいいだろう。無駄にパニックを広げたりなんかはしたくないし。
とりあえず、黙って動かして。テーブルクロスを待つ。
「………起きてるっちゃ起きてるけど寝てるっちゃ寝てるな」
把握したら動揺しそうだからとぼかす
「慌てず騒がず落ち着いて、を心がけるんだぜ?」
「……」
皆が流動的に動いている。
退廃的な空間の中で、確かに動いている。
怖いな。
……バンケットへ向かった人にお気をつけてと言いながら。
小さく非力ながらに、肉塊の片付けを手伝っているのだろう。
「仕事柄か……医者って、やっぱ強えな。鬼ほど」
「そうだな、2人だ。そっちもそっちで大変なんじゃないか?」
探偵さんにはそんな一言を
「……」
見ないようにしていたけれど、それも無理だった。
ヒトが亡くなってるのを見て、顔をそむけるのが精いっぱいだった――
壁の花は、無力だ。
「小部屋を一つ使ってそこに置いとけばあ…だめか、」
ならそれはそれで別に。好きにしな〜と手を振って、いい時間だし仮眠に行こうかな。(背後離脱)
流石にここで死体を構ったら不興を買い過ぎるだろうし…
「………」
この資源が増えたのが、多分空間内の不具合なのだろう。
そう直感した。だって、資源が増えるはずないもの。
…ぁあ、…どうしよう。
猫も手伝いたいとは思いましたが、どうにも体が小さく、非力ですから。
……代わりに、その放送へと耳を傾けていて。
「……?空間内……」
「アタシは大丈夫だよ。仕事柄、今までも死体と寝てきたからね。」
「あんたも、しんどいなら見ないで大人に任せちゃっていいからね。」
重くて軽い言葉だった。まるで当たり前かのように、そう言う。
迷いもなく、ただただ気持ち悪いと感じるかもしれない。
「わたくしが布を取ってきましょうか?」
たずねる。もし他に行く人がいるのならついていくか、あるいはソファーのほうを手伝うことだろう。
「あ、」「……お気をつけて、下さい」
どこかへと向かう人に、そう声をかけた。
流れる放送を、小耳に挟んでぼんやりと聴いている。
『空間内に不具合を確認しました』
『なんてこった!』
『これを原因とし、資源供給システムに追加の不具合を確認しました』
『資源供給システムに二件の不具合を感知。担当者は速やかに確認してください』
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
「あと6日……どーすっかね」
「それはハルちのメンタル的にどうなんだ?いや、平気そうなら一旦そうして…テーブルクロスを持ってきたら改めて隠すとかかね…」
「ん、冷やすやつは行ってら、あんまり抱えね〜よーにな」
「……しずくさん」
確か、そう名乗っていた気がしたから。
猫は追いかけることこそしませんでしたが、少し心配そうにその背を見ていました。
「無理、は……。しないです、出来ないです。だから大丈夫です」
「……バンケットにテーブルクロスがあるみたいですから、布は大丈夫かと」
「それをとってくるのが難しそうだったら……ソファの方に行かせましょうか」
僅かばかりに震え声。手伝い動いて。
「……難しいかも、ですけど。頑張ります」
「手伝いますよ。せめて、そうなってしまったのなら、お互いに傷つかないためにしなければならないことはございますからね」
「どうすんの?まあ、ソファと壁の間に隠すならアタシがここのソファ陣取って座っとくけど。」
「…ただ、他のエリアに連れ出すわけにもいかないから。ここでやりくりしよう。」
とりあえず、一旦仮でソファを引きずってくるのかも。