『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
猫は沢山いませんし、この場所では珍しいものです
それはそれとしてこちらを見る視線にはそっぽを向きました。
猫は人に見られるのがあまり好きではないのです
猫撫で、猫吸い。
したくないかと言われれば、したい部類ではある。
が、人型であるので、そのへん気楽に申し出るのもなんか難だなと思っている、難儀なやつはここに一人。
いいなーという視線を送っている、かもしれない。スルーしてもいい。
「………撫でたいのですか」
まぁ、先程から様子を見ていて
危険な人ではなさそうでしたから……
耳が少し横に動いて、撫でやすくしてあげるのでしょう。
猫は気まぐれなので。
「行く人も来る人もおはよう、おはよう」
「僕としてはこういうごった煮も悪くないな」
「少なくとも7日で飽きる事はなさそうだしね」
「手の届かないものほど愛おしいとは言うが……」
「僕としては手が届いた方が嬉しいに決まっていると思うね」
そう言ってソソソ…と人にしては小柄で猫にしては大柄な彼(?)に近づく。
「こんな機会もないだろうし……た、試しに撫でてみてもいい、かな?」
「ヤニ補給いてらーっす」
そういえばあれから喫煙所できたんかな。などと思いながら。
「人は見かけによらず、とはよく言うものすね笑
見た目がどんなにおっそろしかろーが、その人の手に職を貶すには至らんですよ笑」
「はい、花屋で。似合わないとは言われますが」
「職業も種族も出身も様々、身体的ハンデの有無をも問わず。
だいぶ無作為に集められた感じがありますね、俺達」
「人を救う~~みたいなこと叫んでた気がするからまあ………たぶん医師だろ………」
適当すぎるし、叫んでもないと思う。似たようなことは言ってた。
「ンブア……さて…そろそろ煙の充填がしたくなってきたな………」
喫煙室があるんだ。そこに向かおうかな。
匂いがつくのをなるべく控えるため、白衣は置いていこうかな、なんて。
まあ、そんなことしなくても何故かこの女、匂いが付きにくいのだが………
おはよう、という代わりに小さく「にゃー」と零しました。
「ほんと、ここにいる人ってなんの共通点もありませんね」
細かく見ればあるのでしょうが、大きく見ると特にないような。
「アレルギーはつらたんすねえ。
っぱ人型寄りなのが幸いしてるんすかね、知らんすけど」
低気圧でウンウンしてる子も居たしなあ、と付け足しつつ。
「あ、おはーっす笑」
起きて来た人へ。
「なんと、あれるぎー」
「大丈夫そうなら、いいんですけど」
ダメそうなら移動したりなどしましたが
まぁ、この『room』とやらのおかげなのでしょう。
やったね✌️
「白衣着てたらだいたい研究者かお医者さんかーって感じすよね笑」
安直ではある。
「全盲か~。そんな子いるんすねえ、何等かに巻き込まれないといいんすけど笑」
人殺しが云々、なんてのが初日のロビーで話題になってたので。
「他にも猫ちゃんが居るのか、いいね」
「僕は猫派なんだが生憎とアレルギー持ちでね、本来なら同じ部屋に居るだけでも辛いんだが……」
「今のところなんともない見たいだ。これは行幸だね」
そう言って嬉しそうに視線を白猫へ向ける。
「この場所も、なんでもできる訳じゃないのでしょうか」
「全盲の人がいたりしましたし」
とはいえ、誰とでも意思疎通できるだけでも
かなり凄いことなのですが
「あ、やっぱり居ましたか」
「そういや……食堂かどっかに行ったとき、もう一人白衣…医師らしきやつが居たな。あいつは何なんだろか………」
たぶん医師で間違いないと思います。
どうやら同じ存在繋がりで思い出したようです。
「そういやなんかそんなのが流れてたっすねえ」
今はもう定型文しか流れてないっぽいけれども。
「……ネコチャンそんなにいたっけ?いや、なんかデッケネコチャンならいたなそういえば……」
160cmくらいの……着ぐるみのような……
「…あー……そういや、なんか騒がしい時に居た気がするな。たしか………黒いの…だったかな……」
一応こんなではあれ医者は医者。記憶力はたぶん信頼できるはずだ。たぶん。
「猫の記憶違いでなければ、もう一匹猫がいたはずなのですが」
「その子は『にゃー』としか言ってなかったような」
同族かと思い興味はありましたが……
同族か怪しいので無視していました。
「なんか………喋ってた何?ドリーム?ってやつがなんかしてくれてんのかな………」
何をどうしたらこうなるかはわからんけど………という雰囲気。天使とか悪魔がいるならそんな摩訶不思議な事起きてても納得できる的な考えなのかも。
(わたしは、だれだっけ)
自己紹介をするひとたちを離れたソファから眺めてふと思う。
なんとはなしに座りなおすと、首元がちりんと鳴った。
ネックレスの先に金属の小さなプレートが付いている。
”リタ”と彫られていた。
(・・・・)
何となく知っている気がする。
私はリタなのかもしれない。そう思った。
「もしかしたら、日本って名前だけで全然違う所から来てる可能性もあるっちゃあるっすね笑」
「あーそれ俺も思ったっす。老若男女問わずというか、異種族の?方でもふつうに言葉通じるんすよね」
「まさか天使や悪魔が日本住みだとも思えないすし笑」
「………てか……そういやさ、異国の人っぽい人にも…ふつうに話通じるよね。なんてーか…むちゃありがたいってか…」
なんか特殊なことでも起きてるのかね、なんて言いながら。ソファに座ったまま、動く気配は特にない。
「ニホン……そんなとこに居たような
居なかったような……」
興味が無かったので覚えてもいないのでしょう。
生きていけさえすれば、どこの国でも猫はいいですから
「おや、同郷の士だったか」
「こんなところ──と言うには全貌を掴みかねるが──で会えるとはね」
「もしくは僕が知らないだけで、こちらの世界にも猫さんのような人が隠れているのかも?」
37……と心の中で数字を確かめるものの、話題を変える流れには乗っていく。
「あ、アタシも日本出身………結構いるんだな……同じとこらへん住み………いや、ホントに同じかはわからん、けど………」
あ、話題反らしてくれた………ありがとう………なんて心のなかで泣きつつ、そのまま流れに乗っていくなどしています。
「ヒューッ!七日間の休暇!」
「それを考えたら確かに良い夢かもしれんすね笑」
「叶森さん、花屋さんなんすね」
「……」
ワンマンで切り盛りしてるのかな。七日間放置されたら花って大丈夫なんだっけ?などと考えている。
「ま、仕事をしなくても良いという点においてはいい夢なのかもしれません。
確かに捉えようにも寄るのかも」
「どうも、おはようございます。……」
自己紹介し始めてるな。
周りの名前を聞きつつ。
「モニターにはなぜか職業しか書かれていませんが、叶森 春と言います」
「花屋呼びでもいいですし、ハルでも。角が生えているだけで、あとは普通の人間ですよ」
多分。
「あ、俺も日本でーす!あいあむじゃぱにーず!笑」
年齢などという女性にとってトップシークレットワードを口にしてしまった方が流れるように、流れるように努めて明るく。