『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「……こんにちは」
しっぽを動かすこともなく、そのまま挨拶をしました。
感情がよく出ていた耳としっぽは、今やほとんど動いていません。
「………やあ。」
昨晩中、席を外していたからか。今日は出迎えでなく、挨拶だった。
顔色は徐々に戻ってきたが、沈んだように見える表情は変わらない。
そっと、様子を見ながらロビーにやって来ました。
あの気狂いどもと一緒に居たいと思わないから。
「こんにちは。」
丁度、猫やお医者様が戻ったようなので、そのままソファーへ。
(観測外の文字、初めて。外にでられたのかしら)
(そうだとしたら、いいのだけれど。)
突然のことだったのだろう。よく一緒にいた人の様子を見て思う。
「………」
昨晩からずっと席を外していましたから、こことは別の場所で寝たのでしょう。顔色が悪いのは恐らくそのせいで。
徐に肩を揉んだり、首を回したりなんてしています。
「………どうしような…」
猫さんと同じタイミングで、ロビーに戻ってきた医者。
顔色が非常に良くない。
そのまま手頃な位置のソファに身を投げ出しています。
「おはようございまーす……」
朝。
いつものようにゆら、と歩いてきては。
今日はソファではなくモニターの方へ。
状況を上から下まで眺める。
「……………………」
死者と行方不明者を把握して。
はぁ、と溜息。
「……やるせねーですね」
はぁ、と息をひとつ。
元々、そこまで歳を重ねた子じゃなかったように見受けたが。
自分が何をしでかしてしまったか、受け止め切れなかったのだろうと。
ふるっと振り返ってほのかを見る。
今の彼女にとっては誰もが自分より大きな“おにいさん”に映るらしい。
「……んん」
「よくっ……わかんないぃ〜…………」
頭を抱えてしゃがみ込む。
頭痛に苦しむように何度かうんうん唸った後、そのままだだっとどこかへかけだしてしまった。
「……どーしたんお前」
昨日最後に見たときとは、
かなり言動が変わっている。
どうしたのって。想像はつく。
「ま資源に関してはそんな感じ」
説明は丸投げした
おにーさんってどっちだろうな、と思った灰髪。
「んーと……資源っていうのは。
“ここで生きて行く上で大事なもの”っすかね……?」
実は良く分かっていない。
が、強ち間違いでも無いだろう、と。
「……しげん?」
なんだろう。とっても大事な言葉だった気がする。
聞くだけで胸がキュッとするような、お気に入りのおもちゃをおともだちにあげた時みたいな。
かなしいきもちが、あふれてくる。
「……おにいさん。しげんってなぁに?」
おずおずと、少し怯えながら聞いてくる。
資源に余裕はある。
放送の時間分、生き延びられるほどの。
何なら、一日我慢することくらいは。
本当にクソったれである!
どうして、死を望む俺が!!
だからどっちつかずの半端者のまま死ぬんだな
「資源、ほしーん?」
プールで別れた後。ロビーにやってきた。
あの時の騒ぎであまりちゃんと見れていなかったから。
ほとんどの人は生存だ。
(あと少しで出られるのに、1日分の資源を持っている人が少ない)
リタは放送に交じる声に気づいていなかった。
空からさす光を陽の光だと思っている。
「・・・・・・」
見知った人が亡くなっているのに気付いて言葉を失った。
(助けられなかった。けがをしていたけど丁寧な物腰の方だった。
「……」
「ありがとっす」
お礼を言おうと思ったら駆け出していたので。面と向かって言えなかったけれども。
それでも――
ぺこ、とお辞儀をひとつ。
どうか、あなたも救われますように。
「よかったぁ〜」
「だっておにいさん、すっごくつらそうなおかおしてたもんっ!」
「なおってよかったねぇ」
そう言ってタタタ……と駆けだす。
鼻唄交じりに、嬉しそうにクルクルと回りながら。
「〜♪」