『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「……シスターさん?
まって、目が見えないのに何処へ!」
立ち上がって追いかけようとして、倒れる
「う…………クソ、脚が……」
「……」
間に合わなかったらしい。
どんな副作用があるのやら。
案外、そのまま。いつも通りの明るい声が聞けたりして。
……その方が、死んでいるより気持ち悪いか。
生前の彼と交わした“約束”を思い出す。
自分の方が先に逝くと思っていた。
それは叶うならば、果たしたくない約束だった。
『死んだら盛大に悲しんで欲しい』なんて。
そんなの。
「あの……」
震える声で呟く。
「多分、おくすりは使わないほうがいいです。彼はきっと、それは望んでなかったから……」
しゃくりあげながらはっきりという。
(中庭から見える天気が少し変わった……)
綿積雫はヒシミタチヤマに蘇生薬をおくった
「……くそっ」
特段明るかった彼が逝ってしまった。
皆不安を抱えている。
やるなら今しかないはずだ。
これ以上不安を伝播させないためには、今すぐにでも誰かが身を切る他に無い。
誰かが……。
誰が?
「わかってんだよっ……そんな事っ」
「うぅ、うう……あああ!なんで、なんでぇ……どうして……っ、あなたのようなひとが……殺されるなんておかしっ……い……」
でも、こうなる気もしていた。何回も傷ついているのに、こっちの治療を断っていたから。心をどっかにおいてきたみたいに無理していたから。だから約束を果たす。あなたの隣で、泣いてあげる。でも、もっと労ってあげるべきなのに、まるで疑問しか浮かばない。悲しい。
「………私はまあ、大したことないんだ。本当に。」
刺されたところを押さえて、ひたすら止血を待っていた。
「………今日は、力になれそうにない」
また放送が流れ始めた……
『空間安定値に異常を検知』
『『命綱』プロトコルを直ちに適用してください』
『「落下」の可能性があります。担当者は速やかに実行してください』
食堂の方角。駆け付ける。
そして見た。見てしまった。
己を“マブ”と呼んでくれたその人の、
成れの果てを。
「………………バカ」
震える声、ひとつ。
つかつかと、廊下からまっすぐにモニターに向かって来ればその数字を見る。
死亡、と書かれたものより違和感のあるものを見つければ目を細めた。
追加の放送がないか、ただ聞く。