『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
>>12511
「…用?私に?」
伏せていた顔を上げる。
顔には分かりやすく「貴方なんかと話したくない」と書かれてそうな表情。
「後先考えないで」「他者を思い遣って、その結果感謝されたきみまで」
「"それ"と一緒に扱われなくたっていいんじゃないかな」
「そこに他人の意見なんて必要?もう終わってるのに」
ばさ、ばさ。尻尾がつまらなさそうに床を掃いた。
「………まあ、こんな状況だ。酷い空気になるのもまた不可抗力だ。余り落ち込みすぎないようにね。」
去ろうとする貴女には軽く声をかけて。
「………………。」
追わない。
口も開かない。
この分だとこの合羽は『自分のせいで空気を悪くした』とすらも思っていないだろう……。
窓……はこの部屋にはなさそうだ。かわりに天井を見ている。
「………女性か。それなら私の観測範囲外だな………。」
違ったか、という顔をしている。女性でこういうことをしそうな人………関わりなんか無さそうだな。
「ちなみに俺の予想だと、第一候補は女性だね」
善行ではあるが、別の者がしたと思われたらそちらにも迷惑がかかるだろうな。そう思って自分の考えを述べた。
或る程度贈り主に目星はついている。断定するには材料が足りないだけ。
「前プールサイドで見かけた時、似たような事してたから……こういう事しそうな人だな~って思ったの」
でもこっそり。こっそりね。
長生きしてくれたら嬉しいな、と思うのと同じくらいに。
送ってくれた人にありがとうね~、と思ってしまう。
心配もあるけれど。
誰かに送るということは、その人は減るということだから。
でも、それでもしたかったんだなぁ。
それなら、やったことも、怒られることも、仕方がないのだろう。
上手く言える気がしないから、言葉には出さなかった。
「…………。」
「ハハ、ドブか。随分な言いようだな」
「…………どうやら僕は、君と語り合える舌を持ち合わせていないらしい。思想と、矜持もだ」
フラッと立ち上がって、ロビーの出入り口へ。
「……一旦失礼するよ。僕がいると空気をさらに悪くしかねない……いや、もうこれ以上なく最悪か」
「………………」
雰囲気的に、眼鏡の人と、カッパの人は送られた側、なのだろうか。
だとしたら。
『ぼく』
『眼鏡の人とカッパの人は、やさしかったから』
『長生きしてくれるのは、嬉しいけど』
『それもエゴだよねぇ』
勝手に思ってること、だから。
やだよって思われるのって、やっぱり仕方がない。
「まあ、私も追求するつもりはないよ。興味がないからな。」
「…全く、本当に彼がやったならあれほど先に人を知れと…。」
のびーん。良くも悪くも、全て医者として、と言う感じだった。
ちょっとだけ、おろ……とした。
一見すれば、自己犠牲に近い善行だ。
ただ、嫌なことを嫌だよという権利は、誰でもある。
どっちも悪く言いたくないな。無許可ってダメなんだなっていうだけなのだ。
「…………」
上手に言葉をかけられる気がしなくて、眉を下げた。
ぱ、と上げられた両手には頷いている。
「送り返せないんだよね。あれじゃ。」
資源と自販機を見て。
「………余りこういうことは言いたくないが………生きたくない人にとっては、苦しく、つらいことなんだよ………。………せめて、安楽死の制度でもあればな………。」
「………………生存のために使う資源をドブに捨てるなら全部有効活用してやろうと言っているだけだ。」
善意の施しをドブとまで言い切って。
不動で合羽の黒を上に向けている。
視線を合わせようとさえしない。
『ぼくは生きていたいから』
『いいな~って思うけど』
『やな人もいるんだよね』
『いいながあったら、やだな、もあるんだなって思う』
どっちも否定はしたくないな。
『お互い、いい気分になれたら、いいね』
多分。どちらも悪意があるわけではないだろうから。
事情を知らないから、実際は違うのかもしれないけれど。
「………………」
なるほど。資源を許可なく送った人がいたのかな。
それに思うところがある、と。
皆誇り高いな、と思う。
自分の勝手でやったものって、やっぱり受け入れてもらえるかは相手次第だよなぁ、とも。
「…………そんなの、気に食わないなら送りつけ返すか、もっと欲している人にでも渡せばいいだろ」
「少なくとも、悪い事をした訳でもないんだ。そんな相手にわざわざ狙いをつけて襲う方が可笑しいだろう?」
ムッとしながら反論。
寝起きのせいか、普段より言葉の節々から苛立ちが垣間見える:
「……悪意にしろ、善意にしろ」
「一方的だと角が立ってしまうんですね……」
いてて、と肩を抑えながら起き上がる。
さっきよりマシになったから戻ろう。
帰ったらまず湿布を買おうかな。
ぼんやり考えながら、ふらりとロビーを後に。
「………まあ、生きることを諦めた人にとっては地獄を伸ばすだけとも言えよう。そこを支えられるなら………もう少しやりようがあったかもしれんが………カウンセリングには時間が足りなさ過ぎる。」
ふぅ、と息を吐いて。相変わらずソファからは動かない。
>>12507
「…………関係ない、きっと誰にとっても関係ない。」
「それはそれとして少し用はある。」
フードの中の黒を向けて言った。
「…………あと、夢がどうとか言ってた彼も居ると嬉しいのだが。」
「………まあ、受け取る側は選べないし、送る側も選んでいないようだからな。」
これに関してはそうだろうなと。
「………さあ、それは停電を跨がないとわからないね…。」
正直、思ったより血気盛んな人が多いらしかったが………まあどうしようもないだろう、なんてひとりでソファでのびていた。
モニターこんな感じなんだぁ……と見上げていたけれど。
「……?」
何かあったのか。四方八方。空気が重めだ。
少しだけ眉を下げて、聞こえて来た言葉に目を向ける。
「……。」
特に癇癪を起こすことは無かった。
ただ冷たく、周りの人たちを見ていた。
「こんな人達の中で、残りの日数生きていけますかね。皆さん。」
「私は関係ないですけど。」
「……マジレスチャンスの気配を感じたので、我慢できずに言っちゃいま〜す」
憤る人を見て、軽く挙手。少なくとも性格は良くないだろう。
「その施しを相手が望んでいなかったら、それって有難迷惑じゃない?」
贈り主に対して同じことを言うのかもしれない。
これは表向きの建前で、本音はちゃんとあるのかもしれない。
けれど本音を見せるつもりが無いので、この場においては心無い人間に見えるのだろう。
資源袋に食料品。
特に嬉しくはない。
辺りにも似たような言葉がちらほら。
きっと平等に救おうとしたのだな。
誰か一人を選べずに。
「それであの子が生きてくれるならよかったのに」
呟きは欠伸に消えていった。