『プール』
白いタイルと規則正しい大き目の窓で構成されている。
窓は割れ、崩れた天井からプールに雨が降り注いでいる。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
水しか出ないシャワー室も一応ある。
『記録[
「探偵様の方は探偵様のままなのですね……?」
花屋さんにはお名前があったのになあ。
口を開かぬ姿の方は、そういえばリストで確認だけはしたなあ……と。
「そちらの貴方様は……ええと、外国の言葉はあまり得意ではないのですが……
確か表記はm、a、r、r、y、でしたよね。お名前はそちらであっておりますか?」
「まぁ、思えばですが皆さんは名前を覚えてるんですね。
思い出せないのは、僕だけなのかもしれないね」
ふむ…と考えながら。
「自分の服で体を拭けばいいのでは?」
「ああ、確かに花屋という記述がございましたが……花屋様は叶森春様と仰るのですね。どうぞよろしくお願い致します。」
花屋さんのお名前も復唱。
ちら、と目は濡れ鼠の様に向く。
「おやおや……此処で風邪をひいてしまっては大変でしょうに。タオルの用意も自分で、となると些か苦労しますねえ……。」
「絨毯で拭くのは嫌だよ……?」
何か、一番乾いてそうではあるけど……足音しないくらいふこふこだけど……
テーブルクロスも限られているだろうし……
自己紹介を静かに聞いている。
求められれば、暫時の沈黙。
ロビーの方を指差した。モニターを示しているのかも。
表示されているのは種族名なのだが、自己紹介の代わりという事で……。
「タオルもどこかにあったらいいんですけど」
探したらあるのかもしれない。
自分はあまり探し回っていないから。
「濡れ鼠のままでいるのもアレですしね」
「……ああ。ロビーのモニターには、俺は『花屋』と」
「ハルでもいいです。叶森春です」
さっき白い布を持ってシャワー室に入る子を横目で見たような。
どこかにはあるんじゃないかな。どこにあるかまではわからないから、あるみたいだよと無責任には言えなかった。
「レジアール様で御座いますね、ご紹介してくださり誠に感謝いたします。わたくしめはユウガオ、何一つ面白みのないただの人間では御座いますが……どうぞよろしくお願い致します。」
新たに他人の名前を聞けて嬉しげ。
名前を復唱し終えれば軽く頭を下げて名を名乗る。
…小さな子からの依頼。
自分や争いから脱出する為だ。
可能性が消えた訳じゃ無い、筈だから。
「君のことは見たことありますが、自己紹介どうぞ」
「分かりましたわ。レジアールと申します。お好きなように呼んでくださいませ」
この挨拶も、定型文と化しつつある。スカートをつまみ上げて一例をする、性別年齢ともに不明の謎の人。麗人。
ドライヤーとかタオルがあれば良いのだけれど。
ないので、寒そうな人々を心配そうに見ているだけだ。
風邪を引いても薬もないもの。
今後ものすごい仲違いでもしない限り、おそらく少女からはコンビとして認識され続けるのだろう────
「資源にも限りがあるっていうなら、水源が有限でも納得はしちゃうな」
外の雨を無害化でもして利用しているのか、していないのかすらわかっていないわけなので。
「……おや、自己紹介していただけるのでしょうか?」
自己紹介、という言葉に少し嬉しげ。
「よろしければしていただきたいところで御座いますね、勿論わたくしも自己紹介いたしますので。」
「多少なりとも、管理はしていただきたいものですけれどもねえ……お忙しいのでしょうか。担当者様もまた、長雨に悩まされておられるのでしょうか……。」
困ったなあ、困っちゃうなあ。
人がいっぱい。シャワー大人気。
目をぱちぱちとさせていた。
「……!」
出口を探す依頼を受けてもらえれば、
またぴょんと跳ねてから一礼をした。
何にせよ、打開策はほしいもの。
もしかしたら帰れないかも、って。
もうとっくに推測はついていたけれど。
それでも。
「ええ……冷たいだけじゃ飽き足らず…?」
「人をここに置いておくなら、期限いっぱいは使えるようにしててほしい……」
そんなあ……という落胆交じりの声。
あと2回くらいは使いたい……出来れば……