『プール』
白いタイルと規則正しい大き目の窓で構成されている。
窓は割れ、崩れた天井からプールに雨が降り注いでいる。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
水しか出ないシャワー室も一応ある。
『記録[
「おかえりなさい」
帰ってきた人にはそう声を掛け。
「いやあ、杞憂だといいんですけどね。
最悪を想定できるうちはまだ最悪ではないですから」
「冷たさは保証します。ここに居ると色んな人の悲鳴が聞こえてきて……」
眉根を下げて笑った。
コンビではありません。
「はい、今の内に堪能させて頂きたく思います」
スタスタ……と入って行って。やっぱつめたっ!みたいな声が響いた事でしょう。
人間なのでね。冷たいの嫌ですよ。そりゃ。
「あ、おかえり。シャワー、使えなくなるかもなんだって」
「よかったね、まだ使えるうちで」
寒さに震える彼に、又聞きの不確定情報を回した。
情報源は知らないけど、コンビの片割れが持ってきた話だし。いいか、と思って。
「藍くん、覚悟して浴びてきてね……」
「本当に、冷たいから……」
それでも体臭を発しながら歩くより100倍マシだろうけどね。
温かい場所が本当に欲しいよ……
「資源の供給システムの云々……って放送は流れてるんで」
「そこらへん不安定なら断水の可能性も無きにしも非ず……というのは
可能性の一つとしては、まあ否定できない……かも」
「浴びてる方は何人かいましたよ。今がチャンスなのかも」
「そっか」
この子は喋れないんだろうか。
口にはしないけど、ジャンプする様子に元気だなぁと。
「外、出たいね。
調べてはみたけど今の所は何処も出られる道は無さそうでね…窓も中庭も開かない。
外につながる排気口や、もしかしたら隠された場所があるかもだけど」
望みは薄い、が諦める訳ではない。
自分だって帰りたいのだ。
「……料金は無しで良い。
何かあるかもだし、もう少し詳しく見てみる。
隅々まで目を、凝らして」
内容は簡単なのに難しい依頼だな。
「おや、まあ……シャワーすら使えなくなってしまうかもしれないのですか。それはそれは……なんとも……此処の生活が満ち足りることなどないのでしょうねえ」
冷たいシャワーですら、困ってしまうのになあ
「寒い寒い寒い寒い……」
暫くして、髪を濡らしたまま歯を鳴らして出てくる男がいただろう。
温水が恋しい。
今はプールの水すら少しあたたかく感じるんじゃないだろうか……?
「そうなの?」
「じゃあ、浴びておいて正解だったね」
ついさっき水浴びを終えたばかりで、まだ傘はじんわり湿っている。
シャワー室の中で、水滴ぐらいは飛ばしてから出てくるべきだったかもな、なんて。水飛沫が飛ばない程度に、くる、くる、優しく回して、ほんの気持ち程度誤魔化しているところだった。
「っっっすよねーーーー……」
ですよね。分かります。
こんな俺ら風情にゃ何にも分からんって事が。
「出なくなる可能性を考えてなかったんですよね。盲点でした」
「例えどれだけ冷たくとも、浴びれる内に浴びるべきですね……」
本当は怪我してるからやめた方が良いかなって思ったんだけど。
こうなったらそれをおしてでも浴びさせて頂きますよ。
「おや。これからお湯が出るかどうかは定かではない、とまではわかりますが」
「水の供給自体は何とも。分かりかねますね」
「水は出ます。人が悲鳴を上げる程度の冷たさのものが……」
些か珍しいくらいの小走りでやって来ました。俺です。クソレイシストです。
「ねーちょっとシャワーが使えなくなる可能性をチラつかされてマジで怖いんですけどこの先使えなくなるかもとか分かる人います?っていねーか」
冷たくても良い。あってくれ。頼みます。
>>5621
あなたがこれ以上の問答を諦めるのなら、少女が傘を閉じない理由は、今ここでは語られないのだろう。
ジェスチャーに使っていた手をそのままひらひらと揺らしてお見送り。
一緒にここへ来たわけだし、のんびり辺りの顔ぶれを見渡したり、会話に耳を傾けたりしながら帰りを待つのだろうな。
「とてもとても、帰りたがっている方々がいらっしゃいますものね。わたくしも、帰り道ではなく単なる出口であるのなら……見つけられたらな、とは思いますが……。」
はてさて、それって
探して見つかるものなのかしら。
あったら嬉しい。帰りたいのだ。
こくこくとやはり何度も頷いている。
喜ばない人がいるとしたら、帰りたくない人だろうか。
逆に留まる事が出来るのかは少し考えた。
留まったとしても、食い扶持がないのが問題になるか。
>>5539
「はあ……」
傘、閉じられないのだろうか?
閉じたくないのかもしれないし、濡れるのが嫌いなのかも。
「……分かった」
言外の言葉から、これ以上押しても意味がないことを察し。
諦めてシャワー室の方へ向かうだろう。
体臭のことも気になっていたわけなので……さっさと浴びてしまいたかったのもあるし。
喋れないではなく、喋らないので。
苦手というのは得てして正しい。
帰りたい気持ちが強いので、伝わった事はよろこばしかったのだ。
微笑ましそうに見られれば、はにかむように裾を直した。
「おやおや……お喋りが苦手なご様子」
手を振りかえしてくれた子、
探偵に向けた依頼もジェスチャーによるものだ。
もしかしたらお喋りは得意ではないのかも。
「ふふ、でもなんだか……可愛らしいかたですこと」
ぴょんと嬉しげなジャンプをしている様、
くすくすと楽しげに様子を見ていた。
>>5494
「うん、そうだよ。湯船でもあれば、話は別だったんだけどね」
理論上はプールでもいい。ただ、流石にそういうわけにもいかないため。
なかなか入ろうとしない彼に改めて、どうぞと促すジェスチャーを。
無論傘を手放さぬよう片手で。傘の内側に収まりきるよう、控えめな動作で。
だから言ったのに。声に出さぬ代わりに、瞳が語りかけてくる。ように思えるやも。
「停電後は被害者の手当でドタバタだったので…もうあーいうのは起きて欲しく無いんですけどね、そうも行かなそうで」
凶器がある限り、資源がある限り。
争いは雨と一緒に止まないのだろうな。
と、考えてたら何かの視線に気づいた。
自分に伝えているんだろうか。
ジェスチャーを見て思考。
ドアを開けているような、別にプールの扉を開けるとかじゃないだろうし、そうなると。
「……外、のか?」
廊下ですれ違った人もいる……けれど……。
視線が合わないかも。軽く会釈だけしたかもしれない。
あまり大仰な挨拶はお返しをねだっているようで申し訳が無いので……。
手を振られれば、そっと手を振り返す。
喋りはしないものの、コミュニケーションを取ろうとする意志はあるらしい。