『プール』
白いタイルと規則正しい大き目の窓で構成されている。
窓は割れ、崩れた天井からプールに雨が降り注いでいる。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
水しか出ないシャワー室も一応ある。
『記録[
「オッサンはコガラシっつうのか。俺は通ヰ路逢鷺だ。あんま無ェ苗字だが、本名だ。」
作家、と聞くと少しソワ……とする読書好き。
「あ~あれね……夜のお店によくあるやつね。」
源氏名のイメージ。
そんならメイド服もまぁそんなちゃんとした感じのじゃないんだろうな。
またな~と去る姿には手を振って。
「お~、入れ替わりで来るなァ~。今度は人間じゃなさそうなタイプだ」
「ふーん…ファッションみたいなモンかな」
良くみれば格好もキメてそうな人だし……まぁ、さておき。
「ん、ばりばり日本人だよ。"源氏名"ってヤツ」
「ま、プロ作家なおじさんのお手並み楽しみにさせてもらうかんね」
にひひと笑えば。ひとまず聞きたいことも済んだわけだし。
「んじゃ私は食堂戻るね。なんかあったら是非ともご贔屓に~」
そのままゆるひら、去っていくことでしょうね。
「優しくしたほうが良いよ?おじさんには……
年長者を敬いましょうって習っただろォ?」
「ダリアァ?外国人かァ?俺はそう!木枯 芥子(こがらし からし)ね」
「こう見えてももう世の中に作品を50……40……10……5冊は世に出してるプロ作家様よ。」
「ショップにタバコもライターも一緒に売ってただろォ。
まぁ吸えないなら仕方ないケド……俺はいっぱい吸っちゃうケド……」
煙もくもく
「ライター持ってねェからだよ、オッサン。
……まァあったとて吸えねぇんだけど。」
火のついた煙草を吸っている者から少し距離を保ちながらそんなことを。
「おじさんが始めたクセに…」
そんな事は無い。
「あ、私は"ダリア"ね。おじさんのペンネームはモニターのアレであってる?」
なんてまぁ、微妙な反応についてはさておき。
ロビーにあったっけなぁ、だののんびりと。
「え?何その微妙な反応……」
なんか夢の話する度微妙な反応されるんだよな……
なんなの……?
「お、言ったなァ?マジで今回はベストセラーすっからなァ~!
今のうちにサイン貰っとかないと公開するぞォ~!」
発売を待っときな、と笑い返し。
そうこうしてるとまた来訪者。
「なんかタバコを咥えるだけなのが最近の若者には流行ってんの?」
マナーがないおじさんなのでこちらは普通に火のついたタバコを咥えている
「俺もず~っとここに居ます」
「通りすがる程度にチラ見はしてきましたけどね。
結構狭いようで広い気はするけど……」
「喫煙所は見なかったな。うん」
「割とすぐ決めた感じの人もおおそ」
「……結構煙草の人達も居そうだし」
どーも、とでも言う様に。火の付いてない煙草咥えてひらひらり。
かつ、かつと革靴を鳴らしタイルの上を歩く。
「此処は…プールか。あと…あそこにあンのは、中庭か?」
火の点いていない煙草をくわえながら、独りごちる。
「あ~……まぁ、うん」
時として沈黙は肯定や否定よりもなんとやら……
「そんじゃ後で探してみよっと」
「……誘拐だの気が付いたら、とかあったけど…このパターンは初かも」
「…まぁ、そんじゃ、良いネタが見つかるといーね。出版された時は私も買ったげるよ」
なんて。火を付ける事こそ憚れたけど、煙草を咥えてニッと笑おう。
泳いでほしいかどうかで言えば、まぁどちらでもいい。
でも美人で胸のでかいねーちゃんが全裸で泳いでたら、ウヒョ~!とはなるので見たい。
作家は浅ましい親父であった。
「俺ァロビーと廊下とここくらいしかまだ見てないカモ」
「カッパの坊主とか角の兄ちゃんはどう?あんたらも結構長くここ居るもんなぁ」
「おじさんがまるでモラルのないやつみたいじゃん……」
ほらみんなも気にしないって言ってるしいいじゃん……
まぁ気にする人がこの後現れないとも限らない。
「喫煙室~って唱えながら一つずつ扉開けたらそのうち見つかるんじゃない?」
「ん?あぁそう夢の世界。これ俺の夢の世界だから。
最近小説のネタに困ってたから助かるよなァ~こういう夢が見れるとさァ」
これは今この状況を「ネタに行き詰まった結果見ている夢」だと認識している哀れな作家の戯言である。
「…まー、見えてる中庭が開けばそこで気兼ねなく吸えちゃったりすんだろけどね」
うんうん言いつつ……目の前のおじさん咥えてるし。
手慰みか、ポケットから箱取り出しては煙草をクルクル……
「もう色々見て来た感じ?」
「コレでも最低限のモラルは弁えてるつもりなんで」
とかなんとか言いつつ、気にしないと言われれば軽い会釈を送り。
「そうそれ、ちょうど聞こえたからさー……。
うーん、おじさんワイルドだわ」
確かに咥えてるわ。ちょっと納得しちゃったカモ。
「…夢の世界?」
「なんだァ誰か探してたのか?」
やや落胆の様子。
目当ての人か物でもあったのかな、と首傾げ。
「え?ここってどこでも吸って良いわけじゃないの?
おいおい、夢の世界でも分煙が進んでんのかよ……」
「なんかさっきのガキが喫煙室ができただの言ってたけどなァ。
気になるならそこを探したらいいんじゃない?
俺は……吸っちゃうケド………」
今も咥えちゃってるケド……
「ああ……お煙草。俺は気にしませんよ」
吸うならどうぞ、と。
他の者がどうかはわからぬが。
「窓が開けばより良いんですけど。うんともすんとも」
……彼女は行っちゃったかな。しょーがない。
「流石に水生生物じゃないかんね…」
軽いため息吐きつつ、話していた男性へと向き直り。
「煙草吸えそなトコ探してたんだけどさ。
此処でも喫煙者の肩身は狭いんだなー…って」
出ていく人が居るならゆるゆると見送って。
来る人には律義に笑みを向けていた。
部屋の事は……「床があればいいです」なんて答えたかもな。
「あふ」
欠伸。少なくとも一人は取り込んではいない様子。
ガキが去り、メイドが来たな……
誰も彼も今は歩き回る時間らしい。
「いや、今取り込み終わった所。
なんだァ?メイドさんも泳ぎたい気分かァ?」
「カッパの坊主も泳ぎたい気分なのかもな…それならそれで……」
ぴっちぴちでメロいと言えー。まあ、好きとか言ってもキモいけど。
意外とみんなタイマン好きだよなぁ。アタシも探した方がええんかな。
まあとりあえず部屋制覇すっか。じゃあねーオッサン。
「バインバインのセクシーだとしてもチビだしな……童顔だし……」
俺のセンサーには反応しないな……
10歳くらい年を取ってきてほしい。
「探せばあるもんを探しにみんな出発したってこと。少なくともここにはねぇからなァ~」
うるせー。脱いだらバインバインのセクシー美人だったらどうしてくれんだ。
(ンなこたぁない)
個室なんてその辺にあるんじゃなかったっけ。喫煙室そのノリで出来てたし。
「俺だってチビガキの裸なんか見たくねぇよ……」
何の得があるんだよ俺に。
「鍵掛かるとこが良いねって話だなァ。個室を探しにみんな旅に出たトコ」