『プール』
白いタイルと規則正しい大き目の窓で構成されている。
窓は割れ、崩れた天井からプールに雨が降り注いでいる。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
水しか出ないシャワー室も一応ある。
『記録[
『外も、上も消えた』
『残ってるのは、この一階だけだ』
『それに、この空間は一年くらいの周期で――――――』
『……いや、関係ないな。これも、もう。』
『言ったろ、資源もなにも無から湧いて出てるわけじゃないって』
『この空間はすべてを空間内で完結している』
『だから……いや、細かいことはもういい』
『要するに、足りないんだ』
『せ、せめて、せめて生き残り続ければ』
『『資源』がないだろ』
『どうして!どうして『資源』が供給されないんですか!?』
(少し遠い位置から録音した音声のような音質。)
『……資源もない、システムもエラー』
『通信機もつながらない』
『どうして……』
『どうしても何も、俺達にはどうしようもない』
『生存者も俺達二人だけだ』
『再計算中です』
はい、掃除してました。次の血は知りません。
香りがなければ怪我がわかりもしません。
んあと寝ぼけた顔であたりを見渡す。
暗いことにも気づかないぐらい転寝をしていたようで。
「……」
放送が聞こえる。
ザザッ ザザザザザザザザザ
ザザ、ザ……ザザ、ザ
『次の[快晴]は再計算中……』
ザザ、ザ……ザザ、ザ
『こちらは自動放送です』
ざざっ。
ザザザザザザザザザ
ザザ、ザ……ザザ、ザ
傷だらけをカッコイイとは思えなかった。
自分に正直なところは少しカッコイイと思ったけど。
シャワーを浴びに来たけど…今入って停電と重なったら怖いな、
一旦警戒しつつ座り込む。
「っと、セーフっすかね!?」
慌てた灰髪がシャワー室から出てきてそのまますっとんで行きました。慌ただしいね。
お邪魔しました!
おや、蛻の殻が生きているね。
あんまし構ったって宜しくない。
一瞥呉れると踵を返してしまいます。
「なら、いっか」
生きてても、死んでても何のこっちゃだろうけれど。
これもまた、あたしが良いということにしましょう。
ああ、生きているなと思うこと。ああ、死ぬんだなと思うこと。
君は同じ温度感で、口にできるんだ。もう。
「……慣れちゃった、か…」
漠然と、ぼんやり存在しながら生きていくことも。
皆と一緒に、大衆のひとりとして死んでいくことも。
考えるだけで怖い。自分とは違う。
死にゆく君のことを考えて、思考に靄。
君のそれは、きっと、誰かのせいでそうなっているんだと。
思って、それは。
嫌だな、
もうすぐ停電の時間だろうか?時間の感覚が狂ってて分からないけどなんとなく。
出歩いた先で昨日探しても見つけられなかった人間達が話してるのを見てやっと安堵出来た、
もっとも日に日にイケメンから遠ざかってる姿になってる気もするから、
声を掛けるタイミングが遅れた。
もう物理的な手助けが出来ないから少しは身体を大事にして欲しいけど、
それこそ『余計なお世話』になってしまいそう。
「生きていく事が怖くないのは、ただ最初からだらだら続けてきたからでしょう」
熱湯にぶち込まれた蛙は暴れるけれど、水から徐々に火にかけると逃げない──らしい、と聞いた事があります。
生きるってそんなもん、なんだとも。
「生きるも死ぬも一緒すよ。その差にあんま興味無いです」
「差があるのだとしたら、それは慣れちゃったってだけ」
結局最初から願ってたもの、ほとんど追加されなかったんじゃないかな……
お風呂、恋しいな……
「……怖くないの」
死んでしまうこと。
生きるなら何でもって、言ってたのに。
限界が来る前に、晴れて……迎えに来てくれるんだろうか。
そうじゃなければ……、…
お湯は最後まで出てこないのかもしれないな……切ない……。
「まあどっちも同じようなもんでしょう」
身体あちこち伸ばしたり。
穴だらけになっちゃいましたね。随分。
「そうかもですね」
「失血か失血によるショック死かって感じじゃないすか?」
他人事みたいに言うんです。
まあ、もうすぐ出られるかも、ですし。
それまではもつかも、ですし。
「……食べ物より、包帯でも持ってきた方が良かったかも」
失敗したな。
せっかく分けてもらった資源だったのに。
「……藍くん、結構…」
「もう、キツい……のかな」
狙われるかもって言ったって。こんな、毎日怪我するなんて。
普通だったら、とっくに耐えられないはずだ。こんなの。
「あらー……まぁ、まぁまぁ。背に腹は代えられんっす、お返事ありがとうございまっす」
と、シャワー室へ向かおう。
暫くの間、ちべてっとかあぁ~^とか聞こえたかも。
停電前には上がってきてロビーへと戻る予定っす!
どっか行くとかはもう、あんま無いです。
興味無くなっちゃったんで。
腹は血がべったりのまんま。
借り物のコートだけが綺麗、かもしれませんが。
それもそのうち汚れます。
「さあ?いつも通りじゃないすか?」
「まあ、もう無理そうですけどね」
「こんちあーっす、お邪魔するっすー」
軽薄そうな男が再びやってきた。
「暗くなる前にシャワー借りるっす。今誰も使ってないっすよね?」
念の為に音を聞きながら。
停電が近いから、無理して歩くとか。
そういうことがあればと思ったけど。
起き上がるくらいなら、これも止めやしないだろうな。
「……何か、出来ること…あるかな」
目を怪我しているのを見てから、シャツの汚れもあって。
相当、血を流してることくらいはこれにもわかる。
寝てどうにかなるものじゃないし、ここでは輸血だってできないことも。
「おれに出来る、こと…」
そりゃ血の気は引きまくりでいつもより白いですね。
「眠い」
これが無理ならここにいるひとは全員無理してるでしょう。
どんだけ寝たって足らない血はそうすぐ増えるもんじゃありません。