『プール』
白いタイルと規則正しい大き目の窓で構成されている。
窓は割れ、崩れた天井からプールに雨が降り注いでいる。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
水しか出ないシャワー室も一応ある。
『記録[
「さあ~~~~久しぶりにこの建物だと大き目の窓に近づくぞ~~~~!!!ハイプ選手、近づいていきます!
ただ見るためだけに!白いタイルを闊歩している!すごい足さばきによってプールに滑り落ちない!
ハイプ選手に準備体操は不要か~~~~ッ!?さあ、ハイプ選手窓を覗きます!覗いて見えたのは……行ったことのない中庭!
ただの噴水!そしてまだ雨が降っている~~~~~~~!!!
実況はわたくし、出口無しがお送りしました」
「日を跨ぐたびに様々なことが起きてますものね……平穏であれとは今更願いませんが、せめてこれ以上事態が悪くなることがないと良いのですが……」
それも難しいのかもしれないな。
「御休みになられますか、お気をつけて。……わたくしもそろそろロビーあたりを見てきましょうかね……」
あんまり気は進まないけれど。
去っていく姿を見送ったら、ロビーへ行こうかと歩み出す。
「運が味方しましたら……明日もまた、皆様のお顔を拝見できたら嬉しいです。どうかお気をつけて過ごされてくださいませ
『そうかも』
落ちる人が、増える可能性もあるし。
死人が増える可能性だってある。
否定があまり出来なかった。
『おやすみなさい。また明日』
『今日はぼくもいっぱい喋りすぎちゃったかな~……』
ちょっとばかりの申し訳なさもある。
『そろそろお部屋に戻ろうかな。またね』
丁寧に一礼をして、最後に少しだけ笑って。
それから、立ち去るんだろう。
「明日もきっとすごいですよ」
「……いえ。無責任な予測ではあるんですけど」
平穏に対しての信用がない。
明日起こるかもしれない何かの渦中に、自分が居ないとも限らない。
「……俺はそろそろ部屋に戻ります。では」
「おやすみなさい。また明日」
ゆるりと立ち上がって、この場の人間に会釈をし。
自室の方へ行くんだろう。
ちょっと座り直したけれど、お水がほしくなったので一瞬食堂に行った。
とてて、と帰って来る。
『今日は色々あったものね……』
『昨日もすごかったけれど』
毎日更新されているかもしれない。
「ふふ、私も皆様のことを応援しております。」
去っていく姿はほとんど接点のない人だから、
ただその背中を見送るだけ。
「もうどこも静かになった頃合いでしょうかねえ……どうにも気分が高揚している方々ばかりのようなので、まだまだ騒がしそうではありますが……」
今日はロビーで寝られるのかしら。
「……はい。行ってらっしゃい」
どうしたのだろう、とは思わない。
そういうタイプのヒトなんだろうなあ、なんて。
幼稚な予測を、勝手にしている。
「……………」
明るくて、眩しい話。
清らかすぎる水に魚は住めない時もある。
知らないわけでは、なかったけれど。
そっと一礼をして見送ろう。
『ついつい、雰囲気に流されちゃった』
気が早かったかも。照れ笑いしちゃうね。
『うん。負けるの、やだから、頑張る』
こんな環境に負けたくないもんね。
何がどうなるか、わからなくても。
「ふふ、確かにまだ少し、気が早かったかもしれません。」
明日にでも解散するかのような空気があったかも。
もう少しと気が逸るせいか、明日が不確定なせいか。
ありがたいと口にする人々には微笑ましげに目を細め。
「まだまだ頑張らないといけませんものね、挫けずやっていかねばなりません。」
『ね。最初は、どうしようって』
『そればっかり考えていたけれど』
『ありがたくて、幸せだな~って思う』
こんな場所でも、こういう気持ちになれるんだなって。
たぶん、すっごく恵まれていることだ。
「ここに来て得たものは」「……確かにありますね」
「ありがたい事です」
こんなところでだって繋がりが得られるんだから、不思議な事だ。
悪い事ばかりではない。
過ごす日々と交わす言葉に意味はあったな、って思う。
『うん』
『会えて、お話出来て、よかった』
悪いことばかりじゃない。
それは嘘じゃないはずだから、頷いた。
『もうおしまい、みたいなお話してるけど』
『あと30時間だもんね』
『数時間は経ってるから、もっと短いかな』
『頑張ろうねぇ』
「お話しができてよかったです」
ここの人たちは多分、ここでしか会えない人たちだから。
帰る時はまた、それぞれの世界に帰るだろうから。
本当の気持ち
『体や環境がつらくても』
『心が楽だよね』
『満たされる感じがして……』
『どうなっても、寂しくないから』
帰りたいし、出たいし、置いてきた主人に会いたい。
屋敷のお世話だってしたいし、ぐちゃぐちゃになっているであろう家の中だって心配だ。
それは変わらない。けれど。
それが、叶わないとしても。
最後の時まで、こうしてお話していられたら、最高だ。
悪い経験では……あるなあ、と苦笑気味。
「このような場だからこそ、結べた縁もございましょう。このような状況だからこそ、得た考え方がございましょう。ここで得た縁も経験も、きっとここから出る時に……良き力へと変わってくださいます。」
ただ、まあ……何もかも悪いわけでもないはずだと。
『そう思えば』
『悪い経験では……』
悪い経験ではあるか……。
『皆逞しく出て行けるのは』
『すてきな未来だね』
肩幅でかでかにして出ていきたいね。
「まァ~少なくとも、頼れる人間ってのは心から信頼できる人間だからな」
「誰にでも頼れるような世界になったら、生きるのめっちゃ楽だろなァ~」
実際は厳しいにしても。
そういうやつ、一人二人、できればここで話した数人でも。
認定できたら良いな。そしたらだいぶ……生きやすい。
死ぬその時までこうして話せたらまぁまぁ最高だろ。
「逞しさには体つきであったり、心の持ちようであったりと様々な謂れがございますから……このようなご経験をされた皆様なのです。きっと、それぞれに合った逞しさを身につけて外へ出ることが叶うのだと、わたくしは信じております。」