『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
「そうなんだ。間違えてごめんなさい。30過ぎ位に見えていたの。
翼が生える事ってあるのね。不思議だわ。
天使に生まれ変わろうとしているみたい。
その……顔にヒビが入ってるけど、痛く無いの?
あかぎれは痛いの分かるし…。」
すまなさそうな表情で、心配そうに言葉を返した。
「空はとんだコトないですねぇ。
もう片方生えちゃった飛ぶんでしょうか、いや〜」
「酸素が薄そうでごめんですよ」
「みなさんも突然浮かびたくはないでしょう?」
「残念ながらお兄さん。
翼が折れたエンジルでもなければ
ただの人間なんですよ〜」
「羽はね突然生えたオプションでして」
「いってらっしゃ〜い、元気なお嬢さん」
「親もそーなってほしくてこの名前にしただろしね笑」
「体現しまくってる!笑」
「残りのチョコは昨日怪我した人にあげてこよー」
「じゃいってくるね!またねー笑」
「こんな天気だからね笑」
「せめて名前の通り誰かを照らす日差しになれてたらいーな笑 なんて笑」
「あほんとだ!羽生えてんじゃん笑」
「エンジェルお兄さんだ笑」
「私はムカつかない。
ひざしお姉ちゃん、太陽みたいにあったかいもの。」
その陽の光が毒になってしまう人も居るのだろうな。
時として強い光は眩しくて正視に耐えない。
でも少女には関係の無い事だった。
目が合った人にもぺこりと挨拶。
「こんにちは。羽根がある…」
ひび割れた頬も気になるけれど、
それより人間に無いはずのもの方が気になる様で。
「おじさんも天使なの?」
「ひざしちゃんに元気をもらってる人も、いるんじゃないかな」
「全員に好かれるのは、どんな人でも難しいだろうし」
気にすることないよ、とでも言いたげ。
元よりそんなに気にしてはなさそうだけども。
「アタシこんなんだから焦ってる人が見たらめっちゃムカツクんだろーな笑」
「ココきてからずーっと浮いてるーって思ってるもん笑」
楽観楽観。
なんとかなるっしょ笑、の精神。
「どーいたしまして♡笑」
「イイコトすると気持ちがいーね笑」
「あはは、此処はなんとも華やかで〜」
遠慮し過ぎもあれなんで差し出されたらもらっちゃう。
しっかり顔を合わせたことがない方もどうも。
一応一度は目が合ったことでしょう。
「明るい笑顔も見れまして、
ここを通ったのはお得でしたね」
間に合わないとどうなっちゃうんだろう。
死んじゃうのかな。少女には分からない。
「ひざしお姉ちゃん、有難う。すっごい美味しいね!」
レイラちゃんには気持ち大きめの欠片を渡したかも。
「ね笑 まー、しゃーないよね」
「あの子最初もパニクってたし落ち着くの待と笑」
「そういうことなら、有難くもらっちゃおうかな」
傘の外へ手を伸ばそうとはしないから、手のひらに乗せてもらう形になるだろうか。
すぐに食べるつもりだったけれど、受け取って口に運ぶまでに少し、手のひらに乗せたまま佇む妙な間があった。
ひとかけの価値も知らぬまま、舌の上で溶けるのを待つ。噛み砕いたりはしなかった。
しばらくぐるぐると廊下を歩いていた男。
見かける方々にはどうもと頭を下げていく。
「大部屋ばかり見てましたが廊下も中々…」
「おっと」
すれ違った女性をさっと避けて一息。
「おや、いい香りですね〜」
「あ、通り過ぎますのでお構いなく〜」
「いーのいーの!笑」
「お菓子はお腹じゃなくて心を満たすもの!笑」
「んでそれはシェアした方が満たされ度は上がるのだー笑」
割ったチョコを場にいる人たちに配り始める。
もちろん断ってもいい。
「貰っちゃっていいの? 板を割ればみんなで食べれるかな。」
七日間で間に合わない話について少女は思う事が1つ。
自分も含めて七日間は雨が上がらない事を確定したものと考えている?
もっと早く雨が上がったりしないのかな、なんて希望を抱くのだ。
「板チョコって多分、お腹の足しにはならないよね」
「資源、使っちゃって大丈夫?」
そんなに、余裕はなかったと思うけど。
板チョコ一枚ぐらいなら、大して変わらない、のだろうか。
その辺り、少女は詳しくないもので。
「そういうの、忘れてしまえたら」
「なかったことにできれば、よかったかもしれないけど。やっぱり、そうもいかないし」
殆ど独り言みたいに、考え続けていた。
手慰みに傘が回る。ゆっくり、ゆっくり、回り続ける。
ひざし は 嗜好品 を得た。