『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
「……頑張るなぁ、あの子」
襲撃された被害者を数える地道な活動なんて。
徒労に終わるかどうかはさておき
ああいう風に足を動かすなんて自分には難しい。
そんなことを思いながら
窓に映る自分の姿をぼぅっと眺めている。
「玲依くん、訂正しておくね」
「モテなさそうだけど、
もしアイドルやキャラクターならコアなファンがつきそう」
以前のモテそう評から違う箱に入れられてしまった。
「アタシと仕事どっちが大事なの!?とか聞くタイプ?笑」
「あーね、狙われたひとの特徴とかわかるかも?」
「全然無差別ぽいけど笑」
「うるさくしてごめんなさい……!ひとまず二人……ですね」
「こういう記録が後々役に立つかもしれないと思って……すみません、お騒がせしました!」
手早く特徴を手帳に書き込み、周囲の人々に謝罪しつつその場を去ろうとする。
突如思考をかき分けて割り込んできた大声に、視線だけを僅かに動かした。
でも、それだけだった。別に少女自身が襲われたわけでもないし、口を挟むようなことは何もないのだ。
さっきの言葉を聞いて玲依さんは昼間くらいに藍さんが言ってた通りかも、なんて思ってしまった。
ついでにヨンコさんの言葉にも頷いてしまう、手のかかる異性の友達っぽい。
「玲依くん、いまのは……」
「少し手のかかる異性の友達っぽかった」婉曲表現。
「そうかもね。私、
少なくとも平等ではないと思う。もしそうなら、
下手人を『理解しようと思う』なんて言わない」
事情を無視して分け隔てない、わけでもない。
優しいわけでもなく、ヒトらしい揺らぎ、なのかもしれないな。
「あだ名のお口が悪すぎるのでは…?」
はぅ…(怯え)
「…」
「1人より全をみる」
「‥どちらかを選ばなければいけない時があるでしょう」
「決断、選択、献身…」
「…」
偉いものだと思えば手を組んだ。
それは確かに博愛だと思った。
「うーん、なんだか忙しそうだし、一人ひとり聞き込みは難しそうだな……」
仕方ない、と呟いて、少し多めに息を吸って
「すみません!この中で襲われた人居たら、数えたいので手を挙げてください!」
ちょっと大きめの声を出した。騒がしくしてごめんなさいと思いながら。
「リアリティおじさんと呼べ、ガキ……」
「大人が子供に世話されちゃ世話ねぇだろォ~、薬は大事にしときなよ」
じゃね~、と歩きさっていった。お邪魔しました。
藍さんと一悶着したおじさんの方を見送る。
言ってる事は正論かもしれないけど、正論って時と場合に依るんだなって話を再確認。
怪我とかだけはしないと良いけど…と内心思った、普通の人間ぽいから。
「アン……手当の道具を買うことは、できるけど」
胸元で手をきゅっと握って。
こんな言い方をしたら断わられてしまうかしら。
自分で手当はできないし、その上相手が天使となれば、どのような理屈が通用するかわからないから。
誰かの役に立つために、できることなんて何一つないって、思っていたけれど。
「買いたい……」
視線が逃げないように覗き込んで。