『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
ああ゛〜〜…….とべそかいているのを拭われていた。
なんとも情けない天使だった。
「食事…」
「…持てば良いんですけどぉ…」
「自治…は喧嘩の元ですぅ」
「…ナイフなんて売ってるから…」
いけないのだと視線を落としながら話す。
そんなもの、争いへと誘うようなものだろうから。
奪い合いになるに決まっていた。
「俺も昔そんくらいトゲトゲしてたわァ~!なんか懐かしいなァ」
「ま、いいよ。どうせおじさんなんて徒党組まれたら勝てないしさァ」
「ナイフ持たないなら、まぁ」
「出来ることはすくなさそうだね。医療品も高いもんな」
「資源倉庫にものが入ったらすぐ持ってくくらいじゃない?」
周りを助けたいならね。頑張りどころだなぁそこは
「慣れない人が握って何とかなるもんじゃないと思うんですよね、ナイフ。せいぜい自分の指を切るくらいだと思いますから」
「そんならそんなもんに資源使わないで、保身に走った方が良いですよ。四子ちゃん」
傘も何にもならなそうですし。
「ナイフなんか買ったら、手切りそう……」
自衛のための策が、仇になる可能性と天秤に掛けなきゃいけない。
もっとまともに扱える人間だったらなあ。
ナイフを買えば何かが変わるでしょうか。
ドアノブすら満足に回せない自分には無縁の話でした。
生きるために何かに依る他ない、そんな存在。
隣の人物に今の顔を見られないにしながら、藍さんの言葉を聞いてほとんど同じ感想を浮かべて感情の薄い視線だけが泳ぐ。
自治を気取る人間は嫌いだ、自分勝手に敷いたルールで不便を被るのはいつだって力の無い人間だから。
「買いませんよ、ナイフなんて……」
「……こんな状況で何をしても、されても文句言えないとは思います、
差別も、自治も、盗みも、襲撃も、仕方ないことで」
身を護るように開いて、閉じる機会を失った傘。
すこしぎゅっと、手繰り寄せる。
「だからただ、……何かできたらいいんだけど、
難しいな、……ただでさえ無いもの尽くし、ですから」
「資源を入れるところは、食堂にありますよ。
消費するところも……あそこに、ありましたね」
……ああ、空気が悪いなぁ。
そういう人だと昨日知ったから、アイの物言いにはなんとも思わないけど、初対面の人だとどうも胸の奥がざわめく。
きっと色んなところで、色んな人がこういうやり取りをさているんだろう。
……やだなぁ。
「じゃ、おじさんも上手く俺を逆撫でしないように話して欲しかったすね」
ふん。そうです、こっちは怪我してるんで。
カッカもしますよ。治すのに幾らかかると思ってんだか。
「ムカつくよなー。そこにいただけで自分達のモノみたいな言い草で。持ってったら盗人って訳でも無いでしょ。もしもおれがその時食堂にいても俺はしょうがないなって思います。持って行かなかった俺が馬鹿だったなって」
どうもこの男は、やっぱ思想が強いらしい。
でも当然の事言ってると思うんですよね。
理解されなくても良いですけど。
「あ~、勘違いしないでほしいんだけどなァ」
「別に『人に嫌われるからやめましょう』って話じゃないよ」
「上手いことやれって言ってるだろォ。生きるためなんだから何だってしたら良いよ」
「死なないためにやることをやめましょうなんて、呼吸を止めましょうっていうようなもんだろ」
トゲトゲしてんなァ~。
まぁ怪我もしたらカッカもするわな。
「じゃ安心だわな」
「ここで持ってないやつ居たら早めに買っとくんだぞォ~」
「ナイフ買う資源もなくなったら終わりだもんな。」
「……その」
「私は私が死ぬより、身近な人が傷つく方がよっぽど怖い」
夢でないと知っていても、動けていた理由だろうな。
自分が害されるかもしれないことには不思議と恐怖がない。
「だからどうか、……」
「……穏便に。できるだけでいいので」
「1こだけ手をつけたのは……思いつきもありますし、
……私でいいのあれば、それでもいいと思ったので」
なんて。これも想像の余地が多い、曖昧な言葉だ。
「食事がもてばいいのだけど。
誰もこれ以上傷つかなければいいのだけど」
不安気に面々を見やる。この中の誰かが私を守る者を傷つけたかもしれない。
疑心を抱いたところで何の意味はなくて。白絹の袖を上げ、側で流れる涙を拭う。
「……藍くんと四季さん、持ってってたんだ」
あんなところに置いてあるもの、食堂の人たちが厚意で置いたとも思えないし。
誰の管理物とかでもないとは思う。それには同意。
「………」
「……出入りするだけでも目をつけられそうで嫌だな…」
ひとつの個室の扉が開いた。
「お、おじさんにヨンちゃん、きゅーとちゃんたちもやほ笑」
「まだ晴れなそーだね笑」
「アナウンスの日にち進んでなくてオイ!てなった笑」
「人がそう思わなくても死んだら元も子も無いんで。あと俺自治厨は嫌いです」
気に入られない結果がこれならば、受け入れます。
なので、あなた方も受け入れるべきだと。思いませんか。
俺はそう思ってるんですよね。
「はい、俺死にたくないんで」
何に向けたYESかは想像にお任せします。
「ルール的にはそう」
「でも人はそうは思わないわな」
こんな場所でルール通り動くやつも居やしない。
『気に入らない』は十分自分の首を絞める理由になる。
お前の腕だってその結果みたいなもんだろォ~多分。
「まぁでも、結局資源がないと死ぬ環境だからな」
「上手いことやったら良いよ。ナイフとか持ってる?」
「ついに気づいたんですね、先生」
「私はつい出来心で、
1こだけ手をつけたら面白いかなと思ってそうしました」
資材を持ち出した件について。
この大らかさもある意味通常運転であり。
ちょっとは、調子を取り戻しつつあった。
「……『約』とは言ってたので、
一日ぐらいブレるものではないかと思います、けど……」
「……雨がずっと止まないはずは、ないと信じたいです」