『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
「あんな大所帯に放り込まれちゃ気を違えてしまうもの」
「とっくに狂った奴も居たみたいで可哀想だったわ」
「さっきに通り過ぎやしなかった?着ぐるみの猫」
癖が強い亜麻色の髪を手袋に包まれた指で掻き撫でる。
何も好んで廊下で立ちん坊やってる訳じゃないよ。
取っ替え引っ替え遊んでやってるだけ。
「……?」
クサクサ仲間は良く分からなかった。
次いで、ウェーイとかも分からない。
「あれ、そうなんだ。じゃあ、化け物嫌いの人。こんにちは」
きちんと尊重して言い直した。
「夢なら、もうちょっと覚めないでほしいかも」
「こんなに面白い夢、すぐに終わっちゃ勿体無いな」
「袖振り合うも多生の縁と言いますからね。彼女にとっては見掛けただけでも、友達なのかもしれません」
「ウェーイ」
数少ない人間ならウェルカムです。
オレ、ニンゲン、スキ。
「そう言えば俺もあんたの名前知りませんね」
ここまで連れ回しておいて。
「ええ、紹介………」
ちら、と男を見た。
…………
「化け物が嫌いな、パーティメンバー……いずれクサクサ仲間になる、予定…」
「くらい………」
名前も聞いてないのだった。
こんなのでいいのか?よくはないだろうが……
「武器も防具もレア枠があるといいね……」
自分だけでも無事でいられるかもしれないし…
あるという前提で考えていた方がいい、のは…そうかもしれないな。
備えあれば何とやら。
「たった今知り合いになった、かも……」
「ロビーの方で、見なかったから……ずっと廊下にいるの、かな」
「もう、意地悪言わないでよ」
「あたし達、見知った仲じゃない、ねえ?」
まるで旧くからのお友達に会ったみたいに、
剥き出しの親近感漂わせて話し掛けて来る。
「その隣の子、あたしにも紹介してよ」
当然、全然知り合いとかではないのだけど、
場の雰囲気ってものあるでしょう。
「こんにちは」
あ、推定人間。
「俺は化け物嫌いですが、こっちはどうだか知りません」
人の意見は尊重すべきです。
なので俺の意見も尊重されるべきなんすけどね。
「コンティニューはどうでしょう。人生に強くてニューゲームって存在しないし、セーブもロードも難しいっすからね」
「それこそ夢オチでもない限り」
ここが一番静かだろうか。
窓の外の雨模様を眺めながら歩いてきた。途中何かとすれ違ったとしても、「わあ」なんて言いながら視線を向けただけだったのだろう。
「あ、化け物嫌いの人たちだ。こんにちは」
話はある程度聞き流していたせいで、まとめて括ってしまいつつ。
奥には番傘を差す人もいる。素敵な傘、なんて呟いて。
「本当にゲームだっていうなら、コンティニューができてくれなきゃ困っちゃうよ」
「抵抗無くやられてたら格好悪いんで……」
精一杯の抵抗はさせて貰います。
それはそれとして人間としてハンデも欲しいもので、悩ましいな。
しかし男は卑怯上等であった。
「何も無いのが1番すけど、可能性は全部ゼロじゃないっすからね」
「知り合いじゃないらしいです、えー……お嬢さん?」
人間(外人)ぽいのでヨシ。
化け物じゃなきゃなんでも良いです。この際。
「え?あ、おれ?」
そういえば、廊下に出てきたときに見かけた顔だ……
他の人と話してたのを、ちょっと見たくらいだけど……
「まだ全然知り合いじゃない、よ……?」
「戦うつもりなんだ……」
それこそ、良い武器が入用な気はするが……あるだろうか…?
「何も起きないでほしいけどな……」
「ただでさえ逃げ場がないし……パニック伝染で、収集も付かなくなりそう…」
幾許かの充足に息を漏らした。
追っかけ回したらより笑えたろうか。
バタバタと踊り狂ってくれたろうか。
一寸惜しい事しちゃったかも。ほんのりと後悔。
「おや、男連れて戻って来たね」
物見遊山に来ても何もありはしないのに。
とは言え、逃げた玩具の代わりが入り用。
「そうですねえ。生身で化け物とやり合うなんて出来ませんし……」
違う方を見ているかもしれない。
しかし素人がナイフ握った所でたかが知れてるんだろうなあ。
「何はともあれゲームとするなら転くらいありそうです。まだ起の段階っすからね」
「突拍子もない事が起きそうな。起きてもしょうがないんじゃないかって気がしますよ、俺は」
こんな閉鎖空間に閉じ込められていたら、ただの人間だって気が違うかもしれないし?
「身を守るものはあった方がいいかもなあ…」
流石に、人間以外を盾にするのはまだ気が引けた。
「ハッピーエンド至上主義ならいいのに……」
「なら、もうすこし待遇はいいかもしれないなあ…シャワーとかありがちだし…」
>>896
黒手袋の両手が邪魔を取っ払うべく躙り寄る。
綿の中身が知れないと安心出来ないでしょう。
もしかしたら、もしかしたら、猫の皮被った化け物かも知れないんだし?
「ふ、」「くく、……」
「おっかしい」
逃げ惑っても猿真似の猫を続けるから大したもの。
まるで転げ回るみたいな逃走劇は女の失笑を買った。
「…………怪しいところには化け物を先行させた方が良い気がしてきましたね」
あ!身代わりにしようとしてる!
「まあ、何の為に集められたかが問題っすよね」
「そういう風にして観測者が遊びたいのかどうかみたいな。エンディングってどこにあるんですかね」
「フリーゲームみたいな場所だったら、デストラップもありそうでこわいな……」
「流石に、そんな悪趣味なことはないと……思いたいけど……」
ロビーのモニター、そこには生存状況がリスト化されていた。
生存状態でない、ということも起こりうるのだろうか……
「噴水が中にあってもプール同様不衛生になる気がしますね。早い者勝ちかもしれません」
と言っても、雨の中じゃ浴びようがないから同じか。
「全体的に……こう、古いフリーゲームにありがちな洋館っぽさがありますね」
「化け物がいるところも含めて」
ちゃぁんとついてきている。
廊下を見るのは2度目だな。
「ほら……あれ。プールから見えた中庭、ここからも見えるんだよ」
パッとしないと評された中庭だ。
雨は降っているだろうな、相変わらず。
「大体どこも中庭が見えるんすね。ロの字型になってるんでしょうか」
なんて窓の向こうに目を向けた。
雨模様のせいで余計に辛気臭い感じがするな。
>>840
「…!」
詰め寄られるのは嫌いだ。何かを思い出したかのように、一度動きが止まる。けれども正気を取り戻して──いや、今は正気なのだろうか──隙間を縫うように?いや、そんな丁寧なものではない。ばたばたと慌ただしく、そこかしこに体をぶつけながら今の状況を脱却する。猫らしきものは、大きな音を立て四足歩行でどこかへ走り去って行くことだろう。