『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
>>736
「にゃ…」
相変わらず人の言葉を話すつもりはないようで、壁に寄ったまま沈黙している。頑なに喋らないのは何故だろうか、考えても無駄かもしれない。
「にゃあっ」
嫌、というように触れようとする手をべしっと振り払う。
う゛〜っと唸っているそれは猫と間違えてもおかしくないが、よくよく見ると着ぐるみのような生地や金具の音で現実に引き戻される。これは猫ではない。
>>660
「なあんだ、やっぱり着ぐるみじゃない」
鈴の鳴る音色にしては軽過ぎる金具の音を耳にして微笑んだ。
首輪は兎も角、御丁寧に名札なんてぶら下げているのですから。
着ぐるみであるのは至極当然。けれども中身はまだ分からないね。
「ねえ、お前、ちゃんと人間なの?」
「引き籠もってないでさあ、顔出して御覧よ」
ほら、にゃあじゃなくてさ。人の言葉、喋れるんじゃないの。
食堂側から廊下へゆっくりと歩いてくる途中で、突然巨大な猫を発見する
「なんと!巨大な猫とは!世界は広いようですね...しかしこの音は...」
そう言いながら巨大な猫に触れようとする
「にっ」
猫は驚いたように言葉…?を発し、べたっと壁に寄りかかる。
近寄られた事に焦りを覚えたか、呼吸音が早くなる。
背中を壁に擦り付けた際に鳴る金具の音は、どうやら猫ではない事を暗示させる。
「お~……廊下はなんか薄暗ェなぁ~」
「なんかこう言うのって夢占いで悪いこと書かれるやつだよな…
未来への先行き不安で…みたいな……」
「中庭も味気ないし…せっかく夢ならもっと楽しげであってほしいよなァ~」
ロビーからでて、廊下を歩く。
きょろきょろ、いろんな物を確認するように首を回し、
時たま原稿用紙を取り出してはメモメモ……
聞き慣れない横文字が耳に入ると眠たくなる。
あれって、きっと、不審者とかなんでしょう。
花の刺繍があしらわれた手袋で口元を覆い隠し、欠伸を一つ。
「恰幅の良い猫って不細工だけど」
「図体の大きな猫って可愛いもんだ」
着ぐるみだったら繋ぎ目あるに違いない。
そおっと近寄って首元まじまじ見てみたり。
着ぐるみのような猫は辺りを見渡している。小さな小さな呼吸音と、しきりに頭を動かして。なにかに囚われたような、病的なものにも見えるかもしれない。
独り言は気にならないが、流石に自分より大きな猫(?)には驚きを隠せない。
ここは静かで居心地もロビーよりはマシだったが、一旦避難ついでに別の場所を見に行く為に廊下の先へ歩いていく。
「……そういえば、あの音声を流しているのは誰なんでしょうか?DREAMとか言ってましたっけ。」
「この空間を観測している団体がいる?私の世界でいうロアのようなものでしょうか。」
「そういえばモニターとかありましたね、一旦どういう手段で……」
垂れ流し2。こんなことを言いながら廊下を歩いていく。
「やっぱり、あたし、いつの間にか病気してんのかしら」
「ぶつくさ譫言垂れ流してる奴も居るし、」
「図体の大きな猫だって見えて来た」
賑やかな子は他の所に行くらしい、ついでに耳に入ってしまった言葉に少し身を竦める。
先程まで自分が居たロビーはどこかのホテルにも思える作りに思えたが、ここが何処か分からない事には違いないので妙な返答は控える事にする。
「……やっぱり、雨ですね」
窓の先を眺めながら、そう呟く。
「スピーカーの先は雨に触れるなと言っていましたが……酸性雨のようなものなのでしょうか。快晴の予報があるということは晴れになることがあるはずですし、ここは雨が降り続ける、と言ったルールが敷かれている空間という場合はなさそうですね。そもそも……」
聞かれないと思って考えていることを垂れ流している。
「診療所から抜け出して来たみたいな、白い女も居る」
「もしかして、ここって何処ぞの病院だったりする?」
「重い病に罹った覚えはないのだけど」
今迄の経緯を思い返そうとする程に靄が掛かる。
蓄音機に喧騒が煩いものだから、余計も余計に。
「あたし、お利口だからねえ」
「悪い子の言う事なんて知らない」
だから、駄目と教えられたら言う事聞くの。
少しづつここも人の気配が増えて来たと思いながら、往来の邪魔にならないように端に寄って窓の外を見つめる。
少なくても人の多い…もとい、人と人じゃないものの多いロビーに戻る選択は取りたくないと考える。
前者はともかく後者は怖いし、そもそも自分が共用の空間の一つを埋めるのは罪悪感がある。
「如何にも陰気そうな青瓢箪ばかりが集まるねえ」
「ここもじきに喧騒に揉み潰されるのかしら」
大盛況から免れて来た顔を順番に指さして見遣る。
屋根から雨漏りしてるみたいに辛気臭い顔ばっか。
だのに、この娘は上機嫌浮かべた様な笑みを絶やさない。
「天邪鬼はよくないよ、お嬢さん」
「別に、雨に濡れたって心配要らないようなのしか居ないのにね」
「わざわざ濡れたがるとか、変わってんね」
どうせ外に出るなら、まだ曇りとかの方が良いと思うケド。
聞こえてきた言葉へ呟けば、また何処へと歩み去っていった。
暫く窓越しに中庭を眺めていたが、ふと耳に入った単語に思考する。
『袋のネズミ』、今の自分の状況をちゃんと把握できる訳では無いけど、言い得て妙だと思った。
ロビーの方から顔出して、他に部屋に繋がってやしないかと。
きょろり、視線を巡らせた。
「……外?」
雨の降る中庭が見える。
濡れるなとも言われているし、出る気もないけれど。
完全な閉鎖空間でもないのだろうか。
喧騒と賑わいとが敷き詰められたバーゲンセールから出れば、無機質な廊下を歩む。
壁に面した窓を見やれば、噴水と雨とが見えるものか。
「……。手入れが行き届いてる、って訳でも無しかぁ」
似たコト考える人も居そうだし。スタスタ、廊下を歩みゆくものだ。
「おや、まあ、人」
玩具見つけたみたいな顔をして、群青の瞳が揺れて傾く。
待合は人だったりそうでなかったりが居たものですから。
真人間はちょいと新鮮。屡々退屈。
「鍵掛かってるみたいよ」
「まるで袋の鼠みたいね」