『バンケット』
大宴会場。電気はないが明るい。
円形のテーブルが多くあるが椅子はない。立ち席。
奥には大きな舞台がある。
幕は朽ちて落ち、雨の舞台が公演されている
『記録[
「…………ありがとう、マクベス」
今はちょっと、貴方の近くに居よう。
夢が生まれた、行きたい場所が出来た。
だから。まだ、終われない。
「…………」
死んでほしくなくても殺しに来る人間が居るっていうのがな。
仕方のない事なのかな。
思いたくないな、そんなの。嫌だな。
嫌だけど……
ぐ、と背伸びをした。
そろそろ戻ろう。ここも静かで、過ごしやすかった。
「……誰も誰でも、死にたくないですもんね」
「どうかご無事で。……失礼しました」
会釈をして、またプールに戻る。
「飢えて死ぬだなんて、
そんなくっだらない末路なんてごめんだわ」
「誰にも見てもらえないような、そんな死に様」
「………………」
でも。
しかし。
「襲われるような心当たり、
ない訳でもなし…………」
揺れる心を繋ぎ止めるのは、
“死んで欲しくない”の言葉だった。
「…………分かったわよ」
「あたしは、警戒する」
「……大丈夫、次の停電じゃ死にやしないわよ」
「……迷っているのか。」
ロィナの方を見る。
「…………おまえがどっちをとっても、おれからは何も言えん。ただ、おれはロィナが死んでほしくないと思っている。」
そう言ってまた体操をし始めた。
「…………あぁ、でも、」
揺れる心がある。
もうあの手鏡は、“天使さま”はいない。
なればこそ。
“それ”を選ぶのは、己自身の意思でしかあり得ない。
「……………………」
選択は。
まだ。
抜け殻みたいに舞台の壁に頭を預けてぼーっとしていた。
嫌な予感、と聞こえて視線が上がる。
それからまた床を見た。
「皆さんなりふり構わなくなってくる頃ですかね」「はぁ……」
「警戒…………」
己の手持ちを見る。
ほんの僅かな資源。
やろうとしていることは他にもあった。
しかし昨日、個室に行く前のあの言葉は、
他の誰かも聞いていたはず。
「…………分かった、警戒するわ」
行動予定、切り替えた。
ぱちり、目を覚ました。
昨日の傷。
少しはマシになったか?
会話、ぼんやり、聞こえていた。
「…………あたしも、今日は食堂、行くわ」
襲われて資源を奪われて。
このままだと、飢え死にする。
ふら、と静かに立ち寄った。
聞こえてくる歌が快い。昨日プールに来た天使さんだな。
足音を立てずに舞台の方へ。
端に大人しく腰掛けた。
「お邪魔しまヴッ」
ぶらっと立ち寄っただけのデカブツは宴会場に足を踏み入れかけ、……何かにダメージを受けたみたいな挙動で頭を抱えて後退った。
「歌か〜………」
歌だったらしい。一般的価値観において綺麗な旋律であるのに、まるで騒音を撒き散らしているみたいな挙動で遠巻きにしている。無視していいだろう。
案外歌のレパートリーはあるようでピィピィと小さく奏でている。
金糸雀の声は割と美しい。
静かなので誰も見てないものと思いこみ。
歌い続けていることだろう──
そういえばここ、初めて来たかもしれない。
テーブルが沢山あるなぁ。舞台がある。観劇にでも使われるのだろうか。
綺麗な歌が聞こえる。
寝ている人がいるのかもしれない。音を立てずにその場を後にした。
…
顔を出せば、先日と同じような静けさがあるようだった。
「……」
息を吸った。
小鳥は囀るのが好きだった。
「…♪……♪」
眠りの妨げにならないよう細心の注意を払いながら。
か細く歌い始めた。
ハミングのような柔い響きだった。
「……よし」
「そろそろ戻ろう」
乾いた頃合いかな。
丁寧に片付けをして、テーブルクロスを数枚追加でお借りして。
テーブルクロスと絨毯を抱えて去っていった。
いつも、一人の時は警戒している。
停電の時もそうだ。ちゃんと備えている。
これからも、ずっとそうだ。
誰にも、この身を傷つけさせない。
だって主人のための従者だから。
「………………」
帰りたいなぁ。
静かだから、物思いに耽る。
「………………」
帰りたいな。主人は、どうしているだろうか。
心配してくれているかな。自分も主人が心配だ。
探してくれているのかな。自分も主人に会いたいな。
「………………」
帰りたいなぁ。
ひょこ、と顔を覗かせた。
休んでいる人が多いのだろうか。
静かに一礼をして、濡れた絨毯をテーブルの上に置く。
借りていたテーブルクロスも返却。
そのままテーブルクロスに水気を吸わせて、乾かしていくだろう。
クロスもきちんと後で乾かすつもり。