『中庭』
雨の降る中庭。
石造りの噴水と、石のレンガによる舗装がなされた中庭。
緑はなく、殺風景。手前の方だけ庇がある。
空は一段と暗く、雨も降り続け止む気配は無い。
扉があいている
『記録[
「……これが中庭か」
窓からよく見ていたけどやっぱり殺風景だなぁ。
此処が空いていても、外に出てないってことは。
「雨に何かあるんだろうね。
触れちゃダメな理由が」
あとでわかるだろうか。待ってみる。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
「...万が一実現したとして、こんな状況下じゃ意味も成さないだろうけど」
まあ、信じたまま溶けちゃうのも自由だよね。
出席するとは言ってないし。
この場所は少し怖くはある。
そんなつもりはなくても、うっかりすれば外に出てしまいそうになる。
解放の魔力なのだろうか。この空間に魔力なんてものがあるとは思えないのだけれども。
転んだりしないように、そーっとこの場を歩き、離れて行った。
「私がヨンコさんを助けられる事あるかな? あったらするよ。」
その役目は私ではなさそうな気もするけれど、出来る事があればするのかも。
「ん、またね。」
また直ぐ会うかもしれないけれど、この場はぺこりとおじぎして見送ったのでしょう。
「そっちも、……ううん」
「何かあった時は、これからも……助け合いましょうね」
少ししかない時間だとしても。そうありたい。
「それだけ」
踵を返して。中へと。
「勿論。小説の主役は私じゃなくて、そっち」
「私はもしかしたら、主役のひとときを支えた名脇役かも」
そうだったらいいな。書き上げられるかわからないけど。
もし作品になるんだったら、そうがいい。
「末永くって……ふふ、そういうんじゃないのに」
「でも、ありがとう。本当に……」
「私も嬉しかったです。感謝も、肯定も、頼りにしてくれたのも、全部」
「身を投げる人にはそれだけの事情があるんだろうから、何も言わないつもり。
何も考えずただ身を投じるのは、眉を顰めちゃうけど…楽になりたいって人もいるだろうし。」
「ヨンコさんがどう思ってても二日目の停電後の時、私は助かったよ。
深い事は何も知らないけど、優しいって思ってる。そうやって悩む事自体、優しい証拠だと思うな。」
「私も二人には生きていて欲しい。」
「末永くお幸せにね。」
「教えてくれて有難う。
木枯おじさんかあ。いいじゃない。素敵だと思う。」
「小説の主役の座は渡さないけどね!」
なんて、軽口を返す。
「……木枯先生。あのおじさん」
「私に生きたいと思って欲しいんですって。困っちゃう」
なんて、軽く言う。
「私は、今も私より、他の人に生きていてほしいのに」
「……でも、身を擲つことを選ぶなら、それも尊重したい」
「これを優しいとは、今でも思えないけどね」
医療品を人に渡すのだってそう。結局、自己満足。
でも、今は。ちょっと胸を張れる気がする。
「……」
「……私は、添ってくれる人がいるから。
生きてほしい、だって」
「そしたら、怖くなかったはずなのに、逆に怖くなっちゃった」
相手の、随分と頼もしくなった表情を見て頬を緩める。
「生きていたいわけじゃないですけど」
「それでも、……生きられる限りは生きなくちゃって、思う」
「蹲らないのは本当に大事」
「歩けるから」
でも、と顔を上げて。
「蹲らないって決めたの。自分から身を投げ出すような事もしない。」
「添い遂げる人でもいたら違ったのかもしれないけれどね。
そういう人が居る訳じゃないし。…居たとしても投げ出したくなんてないけどね。」
「ヨンコさんは? 誰かそういう人、居るのかな。」
これが骨に血や肉の集まりだとするなら、
鉄の匂いに味は残しといて欲しかった。
食べますけどもね。お腹空いたから。
「ぅ゛、……」
空っぽなとこに物入れると吐き気催しちゃうな。
雨避けの庇の下、気休めに番傘を開いてやる。
この子も出番が来なくて寂しそうでしたから。
腕一杯に抱えた医療品、食料品の類から、
黴付いたロールパンを一摘み。
うん、味気無いの語源ってここから来てるのかも。
生地がぼそついてて、何なら体調崩しそうな。
あれからお兄さんと言ってくれているんだなぁ。
礼の意味も含めて、ぺこりと。
あと何度すれ違うかわかりませんが。
あなたがたの、その先にわずかなでも光が見えることをお祈りしております。
「私は初めて見にきたら、偶然、ね」
「冷えないように、すぐしたら戻ろうと思います」
当分、去る予定も、なくなる予定もないのだから。
「あなたも、気を……」
「……今も……怖い?」
停電前、自分の近くに来てくれたこと、覚えている。
なんとなく。本当になんとなく、それだけを聞く。
ほとんど誰にも向けない声で。
「自分から資源になれる勇気は、少しだけ羨ましい」
「私はまだ選べる側に、立っている気分みたいですから」
たった数名、それでも最後の顔と言葉は確かに聞き届けて立ち上がる。
「では、私は失礼します」
ちんぷんかんぷんだ。どういう仕組みで金貨になってんだろ。
金貨が食べ物になる理屈、多分考えても分かんないや。
纏まりの悪い考えをくしゃくしゃに丸めて捨てる。
「ふぅん……」
兎に角、人が雨に濡れると蓄音機が反応するらしい。
「……」
「資源の原料不足……」
「つまり、そういうことなんですね」
誰かの命。それがヒトに限るかは分からないけど。
結局それに生かされていたのだろうな。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
生きたいと願う人たちへの延命措置。そして、少しのお礼の為に。
また、一歩、一歩と雨の降る先へ。
「君たちの少しでも安らかな最期に、オールインしてあげる」
「だから、少しも無駄にしないでよね」
それを遺言に、雨の中へ。
なぁるほど。雨が危険って、実際額面通り。
「そういうもんですかぁ」
間の抜けた声が出てしまいました。
腑に落ちたってか合点いったみたいな。