『中庭』
雨の降る中庭。
石造りの噴水と、石のレンガによる舗装がなされた中庭。
緑はなく、殺風景。手前の方だけ庇がある。
空は一段と暗く、雨も降り続け止む気配は無い。
扉があいている
『記録[
死体が残らないのは、なんとも私にとっては救いですが。
確かに生き残る側には、あの音の向こうにあるものしか残らないのですよね。
「……取ってらっしゃるといいんですが」
「おや」
やってきた方には無言で頭を下げて。
此方は一度は話した二人を見かけたので。
止まってしまっただけ。
「さようなら、今ならええ」
「心からお悔やみ申し上げましょう」
「風邪など召さぬよう」
「お気をつけて」
居合わせたのなら、やはり声を掛けよう。
顔は知っている相手なら、猶更。
誰にも見られるのは、少し、寂しいと思うから。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
あたしの愛しい、──何だったっけ。
呼んであげる機会のない名前だった。
「止まないんだなあ」
顔馴染みでもないあの子達、が、
睦まじげに遣り取りをしている。
他人事だった。
(……間に合った)
傘を借りることは、なかったけれど。
ナイフの意味を知ることは、なかったけれど。
それでも、その後ろ姿を見て。みとれて。
それでよかった。
>>17704
そう言ってもらえたのなら、少女はなんと返しただろう。
少なくとも、ここまで来て。別にいいのに、って言うのだけはやめたんだろう。
いいのだ。ここでは、ありふれた少女でいて。
握り直すなら、指でも絡めてみちゃおうかな。
こんな機会、もう二度とないんだから。
額を合わせて、見つめ合って笑った。
「ありがとう、玲依くん」
二人揃って、雨の中。
自分が雨に濡れるのは、さいしょで、さいご。
亜麻色の髪が漣めいて風に靡く。
機嫌良さそに雨除けの番傘提げたまま揺らし、
染みの付いた振袖姿の娘が雨中の中庭を覗き込んでた。
「おや、目に冴える緑もないのね」
「饗す気ってのがないんだろうね」
って、元の台詞をなぞってみる。抑揚の付いてない棒読み。
扉が開いたら向こう側に行ける気がして居りました。
向こう側ってほら、あちら側とかじゃなくて。
隧道の向こうとか。
「……」
こっそり抜け出して、中庭の方を見に来る。
灰色の殺風景な景色。庇の下、念のため傘をさす。
「……」
「何も残らない、みたいですね」
届く声に。
じゃあ私は後で退いたほうがいいですかねぇ、と。
無言で頷いてから外を眺め続けている。
はたから聞こえてくるまるで物語のような文句に耳を傾けながら一度だけ目を閉じて、その傘の下を見送っていた。
>>17676
君と触れ合えないならだめだ、なんて言ったかもね。
みんなで笑い合いたいのに、君だけが交じれないなんて。
快諾に、ほっと息を吐いて。
繋いだ手を握り直す。
君のほう向いて、頭をこつん。きまぐれに、一瞬合わせて。
小さく笑う。
「ありがとう、夜空さん」
そうしたら。
君と一緒に、雨の中。
傘の下、少し遅れて。
溶けて混ざって。きえる。
>>17660
「いいよ」
この返事も、すっかり聞き慣れてしまったかもな。
どっちが先に死ぬか、わかったもんじゃないからね。
そうしたら、傍にいるって約束、違えてしまうから。
いいよ。叶えてあげる。
「いこっか。玲依くん」
「あぁ、こんばんは。」
自分を呼ぶ声には会釈して。
「……生きてる人を気にするから、こうしているので。」
僅かに聞こえた言葉には、届くかは知らないけど。
ふらりと、中庭にやってくれば何人かの姿と、何も先に見てない雨の降る土地。人の死体はないようだ。
ここからすこーしかすんでプールがある窓が見えた。
今頃水をかき出してる変な人たちがいる。
「おや……」
「まぁ、気にしなくていいんじゃないですか」
「生きてる人のことなんて」
ふと、聞こえてしまったのでさらりと。
暫く外の空気を吸って、この景色を眺めているのでしょう。
>>17563
慌てふためく様子に、あはは、って声あげて笑った。
本当にいいのに。あなたがいつか忘れても、知り得る手段だってないんだし。
それなら別に。裏切りに慣れてしまってる。気が付かないでいられるなら、その方がよかった。
もし同じ場所に帰れたとして、少女はきっと透明だ。
もしかしたら、あなたにだけは。黒い雨傘見えるかも。
でも、こうして触れ合うことは、難しそう。
あなたが幸せだっていうなら、ついてくんだろうけどね。
そんな、叶わない話。
→
中庭に向かう足音は、数歩後ろで立ち止まる。
「……これ、後にした方がいいかなぁ」
これから死にゆくこの姿を、他人に見せていいものなのだろうか。
>>17524
「開放的な気持ちにさせられそうだなっ、て」
「帰りたい!ってわけじゃないよ…!」
まるで言い訳。わたわた、裏切るわけじゃないよとでも言いたげな。
もしそうなるのなら、みんなと同じ場所に帰れたらいいのにね。
生きてて嬉しくて、また会いたいって思える人たち。
そんな未来があったなら、どれだけ幸せだったろう。
それは、叶わない話だ。
「……おれは」
「……あたたかいうちに、いきたい」
死がまた怖くなる前に。君が生きてるうちに。
「そう?」
「晴れたら、帰っちゃうんだ」
「いいよ。覚えててくれるなら、それでも」
雨が本当に止まないのかなんて、誰にもわからないのだし。
悪魔の証明、ってやつ。
こんな状況になっても、可能性は0じゃない。
それを生きて拝めるかどうか、わからないってだけ。
それが多分、難しいんだろうなってことが、わかっただけ。
「私?」
「そうだなぁ」
「玲依くんは、どうしたい?」