『中庭』
雨の降る中庭。
石造りの噴水と、石のレンガによる舗装がなされた中庭。
緑はなく、殺風景。手前の方だけ庇がある。
空は一段と暗く、雨も降り続け止む気配は無い。
扉があいている
『記録[
ゆっくり流れる時間。
雨は好きじゃなかったけど、今は悪くない。
空間ごと、自分たちを包んでくれているみたいだ。
「……晴れてたら、きっと」
「その明るさに引っ張られて、帰りたくなってたかも」
だから、晴れなくてよかった。
流されやすい自分は、それに抗えなかっただろうから。
くすぐったくて、息が漏れる。
「ふ……、…」
この時間が長くないだろうことを、もう知ってしまっている。
「……夜空さんは」
「まだ、皆と一緒にいたい?」
ぎゅ、と。手を握り直
あなたの言葉と、雨音。
心地良くって、いつまでも耳を傾けてたい気分。
「そっか。じゃあ、よかった」
「私も、晴れなくていいのにな、って」
「晴れるなら、早い方がよかった。名残惜しくなるだけだし」
繋いだあなたの手の甲に。親指をすり、と滑らせて。
「私たち、あとどれだけ生きられるかな」
問いかけには、少し考えるような間があって。
雨音がその空白を埋めていた。
「どう、だろう」
「帰っても、また存在感の無い自分が嫌になるだけだし」
「やりたいことがあるわけじゃ、ないから……」
帰りたいとは、思わなかったかも。
「夜空さんみたいなこと、言ってくれる友達も…いないしね」
「そっか。確かに、止まないってわかったら、困っちゃう人も多いだろうし」
偶然、あの場は落ち着いている人が多かったけれど。
他のどこかは、また違った様相だったのかもしれないし、ね。
ここは、静かで。雨音が、一番近くで聞こえてくる。
「玲依くんは、帰りたいって思わないの?」
雨を眺めながら、お話でも。
「放送聞いたら、それどころじゃない…って人も多そうだけど」
結構、ショッキングではあった。
現状把握だけで精一杯だとか、あるいは焦っても仕方ないと思っていつもどおりにしているか。
辺りを一緒に見ても、殆ど人は居なさそうだ。
外に出た人の姿は、全く見えない。
「ささっと見て、戻った人もいるかもしれないね」
こう見ると、やっぱり普通の雨だ。
ずうっとガラス越しに見ていたもの。
濡れちゃいけないって、本当にどういうことなんだろうね。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
「・・・・・」
(人に渡せる資源はもうないですし、食堂での会話からなんとなくはわかります)
懸念事項は、どれくらいの量になるか。
体力がある方が感覚的には多くなりそうだ。
「んー。かえろっかー」
間延びした声を出して“おかあさん”の手を繋ごうと左手を出して、ふと。
「にじ、きれーだったなぁ……」
「…………さようなら、わんちゃん」
なんとなく、まだらの虹色にそまった左手を思い出すのでした。
開けば良いのにとは願っていた。
願っていたけど扉の先に……
広がって欲しかったのは青空だったが。
「ああ、そう、そうですか……」
しきりに雨が降っている。
周りの雰囲気を見ればわかる。
この雨は本当に、良くないものだって。
「本当に拙い話ですねえ……。」
呆れたように軽く笑って、
そのままくるりと背を返す。
……外も所詮、こんなものか。
「綾川っ、……さん……」
多分、鼻につくような鉄の匂いで
それにも気がついたのでしょう
「……ロビー、行きましょう……」
しずくさんにもそう呼びかけて
タバコを吸っている。
なけなしの資源を、これに変えた。
……飯類、医薬品。
なんか腐ってた。これが生きてたのは幸いだ。
結末はわかりきっているので、目をそらしている。
ちらりと、恐らくは騒がしくなっているだろうこの場の様子を見に戻ってくる。
そして、誰かに視線を向けると、すぐに帰っていく。
「うっ、ヅ、ゥ…」
1日で、開いた傷が、また塞がってくれるわけもなかった。
また、服についていた赤いシミが広がっていく。
けど、今はそんなの、どうだっていい。
そのまま2人の元へ、駆け足で行って。
「…1人で行っちゃって、心配したんだから。…ね。」
そう言って、頭を撫でて、優しく抱きしめて。
「戻りましょ?」
ロビーに促すだろうか。
「……っ!?」
「ぁ……、しずく……さん
そう、猫……雨が、嫌い……で……」
少しづつ、ほんの少しづつ、また落ち着きを取り戻そうと
「……戻りま、しょう……」