『中庭』
雨の降る中庭。
石造りの噴水と、石のレンガによる舗装がなされた中庭。
緑はなく、殺風景。手前の方だけ庇がある。
空は一段と暗く、雨も降り続け止む気配は無い。
扉があいている
『記録[
この施設のように、雨音と微妙なメロディーが溶けるように混ざり合う。
数分間吹き続けたあと、一つ溜息を吐く。
演奏が終わったみたいだ。
ただ、その音を聴く。
似たようなものを、聞いた事があったような。否、無いのかもしれない。
正直、知っているか知らないかはどうだってよかった。
彼、ないし彼女にとっては、全てが初めてなのだから。
ぎこちない音を、それでも綺麗だと思い、聴く。
「勿論だ。この楽器は慣れてないがな。」
ついさっき知ったばかりなので、手探りで吹いているみたいだ。
ぎこちない音程、段差で躓いた感じになるリズム。
彼の国に広く知られている民謡。
弾いている曲はわからないかもしれない。
「……おれはただ、嗜好品や娯楽品で遊ぼうとしにここへ来ただけだ。」
よく見れば両手にハーモニカやライター、煙草を持っていると認識できるかもしれない。
「どこも崩壊寸前、それに哀しい雰囲気を漂わせていたからな。此処しか無かったって訳だ。」
「……あぁ、怖いなぁ。」
本音が、ひとつ漏れた。
実のところ、そんなに強く無いのだ。
私はずっと、ただ。怯えているだけの、一羽の鳥に過ぎない。捕食者になんてなれない、救う側なんて以ての外だ。
だから、こうして、また踏み出せずにいる。
「……。」
覚悟を決めたような顔をしている。
雨の当たらぬ場所から、人の溶けていくそこを見る。
「…雨は、嫌いだ。羽が濡れると飛べなくなる。」
独り言だ、また。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
何も華やかなモノはないけど。
舞台が終わって拍手もないけど。
此処で探偵の物語はおしまい。
次の物語まで待ってて。
いっぱい怒られて帰ってくるから。
歩き出して。
雨に、触れた。
「桜先輩、やっと、逢いに行けますね」
「なら、よかったかな。嫌では無いです」
「そう言ってもらえると、救われる気がしますね。
先輩は僕の憧れの探偵だから」
照れくさそうに笑った。
「……先にいってきますね」
「先輩も、ずっと向こうで待ってるかもなんで」
待ってるかもわからんけど。
逆にブチギレしてるかもだけど。
「いや……おれは問題無い。もしおまえが嫌であればおれは此処から出よう。」
目を伏せている。
「……弱くとも、諦めずに最期まで足掻けたではないか。ソウサクよ。」
淡々と話す。
「おまえの考察、とても良かったぞ。そのセンパイ?と、そしておまえの知恵おかげだろう。」
「…すみません、こんなの見せるつもりなかったんですが」
眠りに落ちていたせいで、こっそり出来なかったな。
「僕は、弱いです」
「もう耐えれなくて、ダメですよね。
探偵失格だ、先輩に怒られちゃうな」
「こんな所で諦めたく無かったな」
「これは民衆には向いていないな。生産はできん。」
そもそも何を材料としているのか分からないけど。
「しかしこの魔法は便利だな。火が出る魔法。」
ライターを眺めている。
「ゲッ!ゴホッゴホッ!ガェェアッッ!!」
取り敢えず正しい吸い方は出来たが、むせた。
煩わしい咳が響き渡る___
多分正しくない使い方なのだな、と思い直ぐ様煙草の火を消した。
ライターの使い方を知ろうと、一通り押せるものを押してみる。すると火が出た。不思議な魔法だなと思っている。手軽に火を出せる魔法があるとは、羨ましい。
今度は煙草の箱を開ける。筒状のよく分からないもの。
そう言えば、此処で似たようなものを吸っている人がいた。
出来る限りその人がしていたことを模倣する。嗜好品ということは酒に近しいものなのだろう。
思いように上手くいかない。ハーモニカも、この世界も、自分の人生も。
だけど限りある生命。最期まで楽しもうじゃないか。
この世界に来なければ、知らなかった道具達。知らなかった人種。
一定のリズムでない雨音を聴きながら、昔聞いた民謡を奏でる。しかしそれは不器用で、音程も合わずぎこちない。
どこもしんみりとした空気が漂う。残された時間は、娯楽品や嗜好品を得て、どうやって使うのか試している。
今日は煙草とライター、そしてハーモニカを貰った。
煙草とライターはよくわからないが、ハーモニカは息を吹きかければ音が奏でられることに気づいた。
何度も何度も音を聞き、試している。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
藤色、菫色、紫陽花色、夜色。
頭の中で名前だけを並べてみても、
やっぱり輪郭は掴めないまま。
雪待草は、白でしょう。
クリスマスローズは、赤紫だったはずですね。
けれど――
流れる血が一体どんな色なのか。
それだけは、とうとう知れる日は来ませんでした。
ああ、本当に。
色のない世界は、退屈だった。