『プール』
白いタイルと規則正しい大き目の窓で構成されている。
窓は割れ、崩れた天井からプールに雨が降り注いでいる。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
水しか出ないシャワー室も一応ある。
『記録[
「うん!」
悲しげなさようなら、でもなくて。
寂しげなばいばい、でもなくて。
楽しくて、期待に満ちた。
空いたスペースすら愛しく思える。
またねを言うんだ。
ずっと大好きだよ。
「おう」
義理の息子、来たんならハグしただろう。
少し強めにな。タバコの匂いは我慢してくれ。
今晩か。俺ァ寝てるかもな。じゃ、これが最後だ。
大きい布団にしたのは失敗だったかもな。明日は今日よりずっと寂しい。
でもま、いい。
「またな。」
ばいばい、じゃあないだろう?だからいいんだよこれでな。
そうして、ブランケットをちゃんと被って。
好きな人達の顔を見てから、目を閉じる。
ふわふわで、やわらかくって。
「おやすみなさい」
夢を見るみたいに、そう言った。
「はぁい」
ごろごろから立ち上がって、お義父さんをぎゅってハグして。
そしたら川の字に戻って、嬉しそうな顔をするんだ。
幸せいっぱい、って顔。
「俺がそうなのは今に始まった事じゃ……」
今に始まった事じゃないから、こうしていれているんだから。
まあ、でも。
「……よろしくお願いしますね」
「ほら、寝てくださいな」
「惜しいまま、いこう」
「また会いたいから」
また会えますように、って。
お願いしたから、寂しくないよ。
まだ続きを読みたい本みたいに。
名残惜しく、愛しく思っているのも。
きっと、素敵なことだ。
「お義父さんももう一回ぎゅってした~い」
もうどんどん我が儘です。
全然悲しい終わりではなくってさ。
むしろ、軽くて、安らかで花が咲くみたいだった。
だから何の遠慮もなく、
好き! って伝えておける。
「ん!」
我が儘放題な身体は、
ちっとも重たくなくて。
お返事だって、軽かった。
「一緒がいい」
「いつでも、いいよ」
悔いはないから。
ぎゅってしてねって言ったもんね。
「な、何」「重……」
「……」「重くないな……」
軽かった。痛くない。
「一緒に来ますか」
「明日なら、明日でも」
「……少し惜しいと、思えてきたところです」
「ええ。だから。
いろんなことは今夜中にでも」
まあ、のんびりしていたら朝か夜かも曖昧ですし。
ゆっくり話したいことはゆっくりと、待ってますから。
「あなたにも関係ある話ですよ」
marryの頭を撫でてやる。
「明日も同じ寝方をして差し上げられない話です」
そのまんまの意味。今晩。
「言うまで寝かせないけど……?」
言い逃げして良いと思うんですか?
ねえねえ。ね~~~っっっ。
ゆさゆさごろごろ大暴れです。
窓の外を見た。
「私はそろそろ満足してきました」
「正しい死も見れて、関わった皆さんが無事に、選ぶことができていて」
「じゃあ、もう少しゆっくり目を閉じてからにしましょうか〜」
「尊い犠牲を以て他を救う……?」
そんな。
「………………」
質問に答えるのは、少し間を置いた。
「…………」
「今晩で」
「いいですよ」
「えへへ。よかったぁ」
こうしてると、平和で、穏やかで。
何かに脅かされることもない、普通、みたいで。
いいなって思った。
「どういたしまして」
「ぼくもありがとね」
「クッションに穴開けないかだけ……」「心配ですけど」
「……すごい楽ですね、これ」
「なんというか」
「かなり、お泊り会だな……」
「…………」
自分も目を閉じよう。今くらい、無防備でも。
「……ありがとうございます」