『プール』
白いタイルと規則正しい大き目の窓で構成されている。
窓は割れ、崩れた天井からプールに雨が降り注いでいる。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
水しか出ないシャワー室も一応ある。
『記録[
「あの子たちは……覗きはしなさそうでいいね」
頼みごとを聞いてくれるかは分からないが。
頼れるかもしれない相手として記憶をしておこう。
「噴水に眼を向ける方が何人か、やっぱりいるけど」
「そもそも中庭には出られないんですよね」
「まあ、噴水も……水が循環してるから、
使えたところで、汚くなっていくばかりだろうけど」
「おや同意見。済ませればいいんですよ、穏便に」
「済まなかったら、あーあ……といった感じで」
「ま、他人のコントロールなんてできません。平和を望むばかりですね」
「まだ羽根は可愛い〜と言われますが。
これが腕と思うと気味悪いのは理解しますよ……」
ヘラヘラと眉を下げて。
再び視線は施設へと。
「女性の方は配慮も受けていましたが、
晒されたらテロなのは男側では?
……、おっと。鍵付きを願いましょう」
「言ってたら本当に探偵役がいちゃった」
「これはやっぱり出る、黒幕が」
妄言を言いつつ。畳んだ傘をこつんとぶつける。
「よく覚えてるな、文学少女って言ってたこと……
読みますけど、本。自分で書くのは……」
「……考えておこうかな。興味ないわけじゃないですし」
「穏便に済まそうと思ったら済むだろォ~」
「済まないかもって思ったら済まないよ。不安は伝播するもんだ」
そういう点では、化け物差別とかあるうちは無理だろうなァ~、穏便。
「こういうとこで無防備が気になるってんなら、見張りでもしてくれそうな
信頼できるやつ探しとくのが定石だよなァ~」
「さっきの人間パーティとか人間には優しそうでちょうどいいんじゃない?
まぁでも女子がシャワーの見張りに男子二人ってあんま信用できねぇかァ~」
「…………。」
何も答えない。酸性雨なのかもしれないし、違うかもしれない。
「……で、すべて穏便に済むと思う? こんななにもかもがある場所で。」
>>874
「おォ~!?探偵見習いも居るのかよ!こりゃいよいよ舞台が整ってきたなァ~!
事件が起きたらスパッと推理で解決してくれよ坊主ゥ~!」
頼りになるなァ~探偵が居ると!
「めっちゃ凄い酸性雨ってこと……?」
雨で死体が消え去るのを想像している。
おじさんはこういうところで発想が乏しい。
「ソバカス嬢ちゃんは文学少女なんだっけ?
嬢ちゃんが呼んできた作品の多くも作家の地道な努力があんのよ……
いつか自分で書いてみるといいぞォ~、人生経験とか生かしてさァ~」
「化け物だなんだ最初っから物々しいよなァ~
あんま刺激しないほうがお互いのためだってのになァ
こういう空間で穏便に済まなくなったら終わりだよ終わり」
ガキはそういうのが
「万が一シャワールームができたら、
無防備な状況が気になってしまいそう」
「というのは、満たされてるからこそ思う、
ぜいたくな悩み、ってやつなんでしょうね」
「失礼……断定はやめておきましょう。
まだ少ししか歩いてません」
「個室にあるかもしれませんし、
1週間なら、死体でもなければ匂いませんよ!」
ホテルっぽいし、案外部屋は快適空間かも。
シャワーも消毒液も夢見ている。
>>857
「ええっと、これはただのメモですよ。
僕、将来は探偵になりたくて。こうやって手帳とペンは持ち歩いてるんです。まさか実際に事件に巻き込まれるとは思いませんでしたけど……」
「……年取るのも世知辛いな……」
少しは年長を労わろうと思った。
「憧れがあると同時に、やっぱり作品の元には、
地道な取材があるんだな……夢と推定してもしてるなんて。職業病」
「わざわざ化け物なんて呼ぶ必要はないと思うけど、
同じヒトとして受け入れろというのも難しい」
「そういう時は、変に拒絶しないこと……が大事なんだと、思いますけど」
そうもいかないよな。だから色んなとこがまとまらないわけで。
「……あ、見つけた」
「死ぬ方法」
フラリとやってきて、そんなことを言った。
そのままフラフラとプールサイドに近寄り、
しゃがみ込んで、揺れる水面を見つめている。
「雨は全てを流して消し去ってくれる…………。」
回答のつもりなのだろうか。
「…………1週間だったね。それくらいならガマンできるか?」
「お、冷蔵庫とかに閉じ込めるやつか!なるほどねェ~
食堂とか行ってないけどでっけェ冷蔵庫あんのかな?あったらやりやすそうだなァ~」
「お、紙とペン仲間のガキもいるじゃんか。小説家かァ~?」
「そうですよね、みなさんがおっしゃる
化け物が軽くてとても喜ばしいです」
寂しいですけどね、と笑いつつ。
それはあなたたちの居た世界が平和であることに過ぎないのですから。
「焦るでしょうよう。
シャワーないんですから」
「それって流れのない水の中でも消えるの?」
プールに死体が流される光景を想像している……
だいぶショッキングなことになりそうだ。
「まぁ~ずっと同じ水だとそうか…誰か入るかもしれないしな……」
「夢の中で腹壊したくないなァ~!現実が心配…最近頻尿だし……」
「ペットボトルとかあったら今のうちに汲んどくと安心なのかもしれないなァ~」
意外と人が訪れるものだな。
数回目の一礼をした。
人間卒業って意外と手軽なのかも、と聞けば。
軽く肩を竦めるようにした。
どういう基準で差別をしてるんだか、なんて。
そういう呆れたような仕草だった。
「ここはプール……」
「……なんだか危ない会話してますか?」
入口に新たな人影が現れる。
左手に手帳、右手にペンを持っている。
「生きられるだろうけどやっぱり病気もしますよ、多分」
「お腹壊したらシャワー浴びれない以上に大変だろうな……」
ずっと世知辛い考えが頭に浮かんでしまう。
「何流されるか分かったもんじゃないのも、そうですし」
まさか死体じゃないだろうが。
「あは。角生えただけで化け物なら人間卒業って意外と手軽なのかも」
「……ちまちまいらっしゃる殺したがりの方々は何事で?」
焦っているのかな、と暢気に首を傾げていた。