『プール』
白いタイルと規則正しい大き目の窓で構成されている。
窓は割れ、崩れた天井からプールに雨が降り注いでいる。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
水しか出ないシャワー室も一応ある。
『記録[
「資源が云々と言われてますからね」
隠し扉でもないかと床を摩る。
ここに水と床以外求めるのは難しいのか。
「何事でしょう、私は楽しんでいますが…
来た理由も何もわかりませんし
共通点も見つかりません」
「招待状の一つでもあればなあ」
「………………………………」
「………………………………」
シャワー無しかあ……という沈黙を持ちながら、
ひとつひとつ見ていく。こちらはそこにいる人々よりも、
いまある場所への好奇心の方が勝っているようであった。
「掃除した後、流す水があったらいいけど……」
そんなのがあれば、シャワー代わりにならないだろうか。
いやあったとて、冷たくて風邪をひくかもな…
プールに用事がある人が多いのか。
それとも手持ち無沙汰なのか。
分かりかねたので、首を傾げて終わる。
増えて来た声を識別するように、窓から人々へと視線を移動させた。
「……屋外プールではないのね」
これは、ついてきていない。
自由な足取りの人間らしき女が窓の外を見ている。
「偏屈な金持ちのお屋敷……って印象」
「ブラシがあったら掃除でもして気を紛らわせられそう」
「濡れるなって、雨だけの話だっけ……」
「シャワーがなかったら、ここで清めるしかないのかな……」
循環してなかったら、水質はさらに終わるけども。
「……パッとしないとこばっかり、なのかな…?」
感性の問題か…?
「よしよしされてもなぁ」
せっかくされているのに。
集まり始めた人々に軽く会釈をして。
移動する気はないようで、無遠慮に腰を下ろす。
胡座をかいて休憩するつもりだ。
「結構人がいるじゃないですか。
本当に何事なんだろな、コレ」
「泳ぐにはちょっと衛生が気になりますね」
頼りない男に言ってるんだか。
知らん女に言ってるんだか。
「中庭はあれっすか。……パッとしないっすね!」
案外、人らしい人もそれなりに出歩いてるもんだな。
元居た人、今来た人。それらに軽く一礼をしていけば、また。
こつ、こつ。ヒールの音を鳴らし去って行くのだ。
何処も大まかな雰囲気は変わらなさそうだし。
お礼にはお礼を深々と。礼儀には礼儀を返す。
沈黙を選ぶとは言えど、こうして人の会話を聞くのは嫌いではなかった。
視線は別に、耳だけは傾けて。
「…………」
人間ぽいものも、ついてきました。
ここには足を踏み入れていなかったので、物珍しげにきょろり。
「プール、だね……よくある形の」
そしてここからも、中庭は見えるようだった。
コツコツ。ヒールの音を立てながら、白の目立つその地を見渡す。
「…なるほど、プールか」「…雨はダメでも、こっちの水は問題無いのかな」
いやま、泳ぐつもりなんて無いけれど。……此処にも人が居そうだしね。
人々には視線が合えばひらひらと手を振る。
たとえ会話をしなくとも閉鎖空間で顔を突き合わす仲で覚えられるのは悪くないでしょう。
エプロン姿のあなたには影を落として、どうもうとお辞儀をする。
「痛いですかぁ、お気の毒様です。よーしよーし」
「私も驚きましたよ、過ごしやすそうなのが気味が悪くていいですね」
「おやどうも。平気です、痛いだけで」
ゆるりと振り向いた。
窓を背に壁にもたれる。
「ここはキレイでいいですね。
いやー、汚い所でなくて良かった」
元からいた人と、増えた人の姿に裾を乱さず一礼をする。
人には無関心気味なのか、注意深く見られようと気にはしない。
視線を窓の外へと戻した。
白いタイルの上を歩く。窓の向こうでは、雨と噴水だけ。
「……羽まで残してくれるなんて、親切すぎますよねぇ」
肩をすくめて、小さく笑う。
視線の先には歪な角と猫と……。
「う~~ん、大丈夫ですか~。余計な怪我は禁物ですよ」
「……プールなんてあるんですか、ここ」
「出来れば風呂とかの方が良かったですね……」
そんなことを言って、少ししたらまた別の場所で歩いていく。
「おや」「へえ」
「……懐かし」
存外清潔なプールだ。
こんな所に来るのは学生の頃以来か。
「……………………」
窓に歩み寄り、
ゴン、と鈍い音。
「痛」
当然。
素手で割れる力などあるわけが無い。