『プール』
白いタイルと規則正しい大き目の窓で構成されている。
窓は割れ、崩れた天井からプールに雨が降り注いでいる。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
水しか出ないシャワー室も一応ある。
『記録[
俺がそんな感じの対象になってよかったものなのか。
ずっと思っているが、そうなっているらしく。
理解はしているが本当に俺でよかったんだろうか……と
ずっとジメジメしている守られっぱなしの情けない大人(ネガティブ)。
「本当におかげさまで……」
「外見てたら元気になってきたので、目覚めちゃいました!」
やけに笑顔で戻ってきました。
あれからの時間の外。雨の中。
察する方なら察するのでしょう。
死を見てきて生き生きとしている片羽です。
「まあ玲衣くんは、向いてないなあって感じでしたよね」
向いてないなあって感じだけど、やらせてたんですよね。
本人の希望だったから。選べなかったから。
選択肢を見つけられなかったから、ですね。
死んだ方が幸せならタイプ、なのかもしれませんね。
何も考えなくって良くなるから。
「え!」「意外だ。もう少し若い方かと……」
見かけによらないとは言うけれども、そうらしかった。
自分の目には同い年くらいに見えていたから。
『誰かに尽くすなら』
『自分の幸せは自分で満たさないと』
『破綻するんだよね~』
だって、無理じゃん?
尽くすって、注ぐってことなんだから。
穴の開いた柄杓でずっと水を酌むことを、
幸せって思えないと、いつか限界が来るんだ。
『そういう点』
『ぼくって結構幸せだと思うよ』
尽くすのに向いてますからね。気質が。
『幸せは自分で決めるんだから』
『幸せそうにしてくれれば、いいのにね』
そっちの方が、嬉しいんじゃないかなぁ。
わからないけど。
『ヒモに向いてるね……』
ひどい感想である。
『うん。よかった』
「どっちかって言うと玲衣くんは俺を使ってただけっすよ」
「俺を使って良い気になりたかっただけ。みたいな」
「だからその通りにしてました」
「俺はそれだけ」
「俺に幸せを委ねる奴が多過ぎるんですよ」
受け取らないって言ってんのに。
受け取れないって頼んだのになあ。
「男女関係なくOKはしないっす。寧ろ……」「……」
「まあ向こうが勝手に思うだけなら良いかなって……」
「ひとりではなかったみたいっすね」
それだけで救われるものがあるかは知りませんが。
「良かったですね」
『藍のことが大好きで、ついて回って』
『自分でそうしたくて、そうしてるみたいなのに』
『なんか、あんまり幸せそうじゃなかったから』
『一人の終わりじゃなかったなら』
『よかったね~って』
『……大して知らないんだけどね』
襲われただけの仲、だったし。
きっとそういうことだよ。
『藍のことが大好き~って感じだったの』
『ずっとくっついてたから』
『ぼくも死んだから今言ってる』
失礼かもしれません。
『だから、一人じゃなくてよかったね~って』
そういうことにする。
そう選んでくれて、よかったな、って思う。
道中の苦痛を、本当に理解することは出来ないのに。
お友達、出来て、嬉しかったんだもの。
自分勝手なんだよな、こういうの。
上手く言葉に出来ない時、大体くっつきたがるのが常だった。
安心は分からないが、
「そうすね」
そう。か。そういう事にしています。
「本気で男が好きなのかもなと思った事もあります」
「死んだので今言ってますけど」
ぺた、とくっつかれていた。
選ばない事を選び続けたから、
今こうやって生きている。
さっさと死ねばよかったのに、ナイフすら買わずに。
友達ができて、今こうやって水を汲んでるのだ。
実際はそうじゃないらしい。
でも、そういう事になっちゃったらしい。
じゃ、もうそういう事、の方がいいね。
わかんないまま、
わかんない黒箱の、
表面だけを撫でている。
そっか、ってそう思うんだよな。
「そうですね」
実際はそうじゃないんですけど。
そういう事になっちゃったんで、多分そうです。
きっと分かんないですよね。
分かんないからこうなってます。
結局分かんなかったんで。
で、そう思われるのが1番良いんです。