『プール』
白いタイルと規則正しい大き目の窓で構成されている。
窓は割れ、崩れた天井からプールに雨が降り注いでいる。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
水しか出ないシャワー室も一応ある。
『記録[
「…………」
赤と緑のクレヨンを手に取って眺めて、しばらく動かずにいた。
赤をそっと、視線から外れた場所へ置く。
「あなたを元気づけようとしてるのに?」
「まあいいでしょう」
派手さも技巧もない。それでも繊細に。
やがて紙の上には、誰が見てもそれと分かる菊が現れた。
あやしには自信があります。
主人を散々あやしていたから――。
『花屋さんも描こう』
『お姉さんもどう? お花描かない?』
今いる人を遠慮なく誘っちゃおうね。
クレヨンも寄せて、どうぞどうぞ。
嗚呼。俺は情けない大人です。
なんだかあやされている気分だ……。
でもスケッチブックには寄っていきます。
静かにちょこん……と近くに座る。
「花なら描けます……」
「私菊には自信あるんですよ」
黄色のクレヨンを早速取って描いてます。
任せてくださいよ、何度も見てきました、お花屋さんぐらい。
『ぼくは昨日補給して元気だから』
『どういたしまして』
背中撫で機にも、なれます。
よ~しよしよし。ほどほどのところでストップしておこうね。
『お花描く? いいよ~』
『いっぱい描いちゃお!』
ピンクやオレンジのクレヨンもあるしね。
いっぱい描けるはず。
スケッチブックを広げて、フリースケッチブックとする。
「あああ……」
気遣われている。
「皆さんも疲れていらっしゃると思うので」「はい」
「ありがとうございます……」
背を撫でられている。浄水装置停止。
「……シャワー浴びます?」
起きますよ、生存本能が。
「たぶん花力が足りないのでしょう、スケッチブック借りれませんか?」
「一緒にお花描いてあげましょう」
『疲れてるお顔してるよ……』
背中をそっと撫でに行こうかな……。
どっちもダメかもしれません。
泣き始めちゃったら個室に送っていくかと算段を立てちゃうかも。
「ぁえ。そうですかね」
「疲れてるんですね……」
でも座って濁った水面を眺めてると変な気を起こしそうで。
それはそれでさめざめとプールの端で泣き始める成人男性が出来上がる。
どっちがいいんだろう。どっちもダメか。
「おいおいおい、話題の飛び方が可笑しいぞ……」
「支離滅裂もいいところじゃないか……」
ここで見てからずっと様子がおかしそうなので少々引き気味。
『色の中にきらきら、夜空みたいだね』
そう思えば黒くなってるのもまぁ……。
いいかなと思う。まだ。
『やさしいお味だね』
ストレス値を感じるね……。
「綺麗に塗りたくる……この水を?」
「もうラメとか買って振りかけますか」
「なんかそういうキラキラした入浴剤売ってる店ありましたよね」
「男一人で入るには勇気ないけど、店の前通るとちょっと嬉しいんですよね。
いつもいい匂いがするから……」
「鮮やかにする一点だと血を注ぎ始める人が居そうで……」
「それはちょっとなあ、って……」
「…………」
「卵蒸しパン食べたいな……」
思考の散逸が酷い。
「そういえば誰かが言ってたな、毒の混入がどうとか……」
「ま、こんな状況下にプールで泳ぐ人間自体稀だろうし、そこまで大事にはならなさそうだ」
>>12575 綿積雫
『よかった。どういたしまして』
『渡したら、その分減っちゃうでしょう』
『素直じゃなかったり、トゲトゲしてる人もいるから』
『そういうのを、ちゃんと言わなかったり、言えない人もいると思う』
『あまり気に病み過ぎないでね、ごめんね』
あなたが表情を緩めてくれるなら、それも嬉しいことだった。
『ぼくも嬉しいよ。聞いてくれてありがとうね』
>>12558
「…………!」
スケッチブックに書かれた文字に、一瞬面食らった。
そうか、僕が救えたのは彼だけじゃなく……。
「……ありがとう。キミの言葉に、僕も、ほんの少しだけ救われた気がするよ」
「皆が皆、こうやって助け合えれば良いんだけどね……」
今度は心の底からの感情で顔を綻ばせて。
もう一度、ありがとうと。そう伝えた。
「あの騒動、10人ぐらいは見ていたじゃないですか」
独り言になろうともなんとなく水面を見つめていいます。
「後何色混ざっても
どうせ黒になるんですよね?絵の具って」
「いっそのこときれいに塗りたくるのもありに思えてきました」
白って綺麗だから歪むんですよ。
「はい。これならまあ、環境を整えつつ」
「誰も傷付けずに暇を潰せるので……」
浄水装置になっています。
ちゃぽ……シャワーー。とぽぽ……。
「………………」
正気度の薄まりを感じています。
大丈夫かな……。
『そっか……』
それをしてて落ち着くなら止めないのだけれど。
心配だから後で背中を撫でに行こう……と考えた。
安楽死という言葉がもう狂うほど頭にへばりついている男はなんとも何があったのかを理解しようとせずに片耳だけ置くでしょう。
恐怖行動をしている友人には視線を向けますが。
「……ある意味一番無駄のない消費行動ですか?」
机投げるとか紙を破るとかよりは平和ですね。
あっ、周囲から怪訝な目で見られているぞ。
俺は大丈夫ですそういう目も慣れてる、大丈夫大丈夫……(続行)
これも少し自棄なのかもしれない。
ここが好きだから、ここに居たので。
「あ、はい。全部とは言わずとも、薄まればいいなって」
「安全性と見た目を考慮して……」
スケッチブックを見れば、そんな返事をした。
これ一旦捨てた方が効率良いのかな。
今気付いたな。まあいいか……。
>>12556 綿積雫
明るい表情にはほっとした顔をした。
きっと気遣いでそうしてくれていると思うから、
ちょっとばかり申し訳なさもあるけれど。
伝えたいことがあったから、
スケッチブックを開いて、文字を描いていく。
『あのね』
『ぼくは、送られた側じゃないけど』
『でも、嬉しかったよ』
『知ってる人が長生きしてくれるのは、嬉しいから』
『やだよ~って思う人もいるけど』
『ありがと~って思う人も、いるの』
『それだけね、伝えたくて……』
来る人にどうも、と会釈。
また汲み始めた。
「シャワー伸びないかな」「ここまで……」
残念ながら伸びることは無い。
濁った水が捨てられ、透明な水がプールに注がれていく。
こうして捨てるのも、昨日の話を聞けば少し申し訳ない。