『プール』
白いタイルと規則正しい大き目の窓で構成されている。
窓は割れ、崩れた天井からプールに雨が降り注いでいる。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
水しか出ないシャワー室も一応ある。
『記録[
「男の子のやりそうなゲーム」
ジェンダー差別。かもしれない。
「ゲーム機とか持ち込んでる人いないかな……」
「私はこう、見てるだけでも楽しめるタイプです」
「何か“らしい”感じがしますね」
マリーに関しては化け物カウントしてないので、素直に飲み込めました。
「ハンターランクっすか。懐かしいな」
「俺ヘビィボウガンが好きで……」
「え」「……驚いた。聞いた事が?」
「同じ日本なのか、似た日本なのか……」
少しほっとしたような。
それでいて少し悲しそうな顔をした。
「俺もコスプレと二次元と他人事の認識でいたかったですよ。
こうなってしまったから、こう在るだけなので」
「……積んでるゲームが結構ある事を思い出してしまった。
俺はハンターランクも上げていないのに」
気分を害さなかったならありがたいお話で。
ぺこりと改めてお辞儀をして。
笑いかけられればこくこくと頷いた。お待たせしました。
『水タイプが好き』
水音に乗ってアピールもします。
少しの間、背中を撫でられながら。
体を預けている。
小刻みに体が震えているのは、伝わるかもしれないな。
情けない男のままだ、今も。
「かわいいのを選びます」
「都度かっこよくなってびっくりする」
嫌いではない。
「……急に日常に戻ってきたな」
「帰ったら、……新作遊びたいな」
やりたいことがまた一つ増えた。何かに書いとこうかな。
被害者って加害者を虐められるものなんだなぁ。
正義も正論も暴力だ。滅多打ちにした自覚はあった。
口を噤む様子には、少し目を細めてから苦笑した。
黙っていたいよね。言えないよな。
そういう気持ちはわからなくもない。
「えーと……?」
「ああ、さっき仰ってくれた方とお話できたんですね」
無口なあなたににこりとわらいかけてから、やさしいお嬢さんを見ます。
身を切る真似を止めてくれた方、よく覚えてますとも。
そして方やモンスターの話、何か暴動が起きる気配はなさそうですか。
ゆっくり会話の邪魔にならぬように入っていってシャワーブースの方へ。
「シャワーうるさかったらすみませんねぇ〜」
シャワーーーーーーー!!!
鳥が水浴びするような羽の音がした。
「俺はそんなのコスプレと2次元でしか見た事無いす」
だから余計忌避感がある。
あ、アニメで見てた彼等って現実にいると怖いなあって。
思うの、当然の権利だと思うんですよね。
「……………」「マジか」
「認識を改めるべきかもしれませんね。俺はほのおタイプを選びがちです」
「よーしよし玲衣くん大丈夫ですよー」
何かとっても雑になだめようとしています。
背中とか撫でてやろう。ごしごし。
少なくとも今日は怪我してるんですし。
て事は被害者やってるんでね。
「お気になさらず。……起こり得る事なので」
「俺は気分を害しませんよ」
本当に深い話なら、隅っこでやるべきかもしれないけれども。
話は流れで始まってしまうものですから。
「知ってますよ。俺何があっても最初は草タイプを選ぶ派で」
質問への回答はYesだった。
「ポ〇……」
「そういえば、私は日本人です、ね」
「私はその、見たことはないけど」
「角や耳が生えるヒト、聞いたことはあるんです」
実はね。それもそれで差別的な扱いの話を聞いたことがあるから、
自分が隔てなく接するのとは関係ないが。
『ケガは大丈夫』
『ありがとう』
スケッチブックにピンクのクレヨンで書く。
ついでにお花も描いた。くるくる。
情けをかけられるのは嫌いじゃない。
人間の主人を持ち、仕えている身だ。
どうしたって、何をされたって、基本的には人間が好きなので。
「まーまー気にしないで。変な話ですが人殺しがいるとこなんで」
「嫌だったなーも、怖いなーも、どこにでもありますよ」
お友達がそうなる可能性もね。
あ、これは加害者被害者どっちもです。
人間差別主義の共犯かと思ってずっとびくびくしてたからそんな勇気はありません……。
今日ずっと首を傾げていたのってその辺りが原因だった。
「……玲依くん」
それを前にして、不信や苦渋はあるかもしれないけど。
けれどやはり、気遣わし気な態度は解かなかった。
理解を離れるまでは。分かるから。
「あの、あなたの方も……怪我とか、してない?」
「薬や包帯なら、渡せるから、いつでも言って」
無口な子へ。彼の代わりではない。ないが。
どうしても情けのようになってしまうのには、嫌気がさした。
「日本人」
「……と思ってたんですが。もしかして、皆と違う『日本』なのかも」
「きっとみんなの世界はこうはならないでしょうし」
「日本でなくても、ならないでしょうし……」
こう。
そう言って指したのは自分の角。
『空気を悪くしてごめんなさい』
『気にしないでほしい』
これは全員に見えるように書くんだろう。
何も話してくれないなら、まぁ、別に良かった。
理由を聞いて納得したいのって、自分の勝手だったから。
何を言葉にしても、相手に応える義務はない。
俺も一緒に聞こうと思ったのに……
鈍いんですよね、多分。
痛みもそうだけど感情も。
まあ良いんですけど。不便しないんで。
「そうですか」
本人が良いなら良いでしょう。
「………………」
でもシャワー使いたい人の邪魔になるのは嫌だなぁ……。
こんな事になっても他人の事を考える自分が馬鹿みたいに思えたけれど。
『じゃあ、この話、終わり』
流石に襲ってきた人と二人きりになるほど無謀ではなかった。
あんな睨みをしていたのに重たくない話だと思っていたんですか……?
そんな視線は藍さんに向けた。言えって言ったのそっちなのに……。
こんな場所だから、誰に聞かれても構わなかったけれど。
人が死んだのでお通夜なのはある意味では正しいかもしれませんが……。