『中庭』
雨の降る中庭。
石造りの噴水と、石のレンガによる舗装がなされた中庭。
緑はなく、殺風景。手前の方だけ庇がある。
空は一段と暗く、雨も降り続け止む気配は無い。
扉があいている
『記録[
「…あぁ……あー良いですね。」
「己の命が誰かのために成れるなんて!なんて素敵なこと!!使われていく!使い潰されて巡りめぐるなんて!!!」
笑う。
「……!」
大きな声で呼ばれたなら。
ビクッと身体を引き攣らせて。
「……はーい」
「…………みーちゃん、おうちにかえろっか」
「おかあさんにダメーっておこられちゃう」
バツが悪そうに後ろへ下がって行くのでしょう。
「……?」
「みーちゃん、おそとこわいの〜?」
「みーちゃんはねこさんだもんねぇ。おみずでびちゃびちゃーってするの、やーよねぇ」
そうして猫に近づいて。
ゆっくり優しく抱き抱える。
さっきまで、怖くて暴れた子猫ですもの。
大事にぎゅ〜っとしてあげないと。
「……あー」
察した。そういえば、あの録音も水音で終わってたな。
そして。飛び込んだ人がいたんだろうな。
「……はは、ひっでぇ延命措置」
「…………そんなの、」
人が雨に溶けたら資源になるなんて、まるで雨に溶けて死ねと言われているようなものだ。どうしてそんなことを。
「ビショビショになるのおもろいよ笑 水も滴るギャル笑 シャワーいらずじゃん!笑」
袋を揺らしている。
「本当に迷いなくいっちゃったんだなあ。なんで〜?」「だって面白いじゃん笑」「そっかあ〜なら仕方ないな!」
「雫!!!!この雨、痛い痛いだよ!出たらダメ!」
びっくりした。こんなすんなり、出てくるものなのかと、声を、かけながら。
思わず外へ、出そうになる。
ダメだ。…いっちゃ、だめだ。私は。…まだ、やり残したことが。
「…………」
おかしいな。情なんか、とっくに捨てたと、思って…………
「ん、」「あぁ……お三方。来たんですね」
「死を冒涜されたくないなら外には出ないように」
猫と、医者と、少女。ぺこ、と頭を下げて淡々と。
「は?」
扉が開いている。脱出できるかもしれない
そう思ったが目の前に飛び込んだのは、異様な光景
人が雨によって溶かされて行った
「どういうことだよ…」
「っ、……じゃ、じゃあ…………
この、『資源』は……っ」
嫌だ、なんで、どうして
……っなんで、私たちは、猫たちは……こんな目に
ふと、いつもの二人の声が聞こえて……
「来ちゃ……、ダメ……っ」
しずくさんへ、それだけ伝えたくて
「赤猫さん、っ雫、さ、…」
慌てて、追いかけて、走ってきた。目の前で、溶けて行った、その影。
ああ。………キミは、別れの挨拶すら、させてはくれないんだね。
「わぁ……おそとだぁ〜!」
嬉しそうに窓に張り付いて外を見る。
瞳に映るものは皆、全て優しい嘘に書き換えられて。
「あめのひのおさんぽもたのしそ〜だねぇ」
「……このアナウンス……成程。理解した。
じゃあ、これがひざしクンか。」
先ほど取ったばかりの追加資源を、袋の中で揺らした。
「あぁー……」「なるほど、」「そうなるんだ」
溶けていく人、通信機の声。空間内で完結している。
つまり、資源はそういうことか。溶けていく様はそういうことか。
「なん、なんで、」
次から次へと、誰かが雨へと身投げしていく。
それから目を離せなくて、『何故』と呟くことしかできなかった。
「アルカンっ………………」
名前を呼ぶその声は、
その情景で掻き消されて
「ぇ、ぁっ……」
最後、目線はこちらを向いていたのでしょう。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
おや。先に行った人がいる。
……ああなるんだ。僕も。
本当に?僕は特別な星になれるから、きっと、きっと。
同じじゃないかもしれない。
無駄じゃないかもしれない。
あの時と違って。
振り返って、笑顔で手を振ろう。
「じゃあまたね、皆」
「そこに――」
長台詞、間に合うはずもなく。
弾けて、溶けて、崩れて。
「今から虹が掛かるよ」「虹が……」
雨の下、歩き出す。
身体が溶け出す前に、眩しい虹色が奪われる。
水溜りにマーブル模様を作って、薄まって、消える。
そのうち、身体は白と黒しか残らなくなって。
それも数秒、残っていたか。