コンコース(西)
改札内広場の西側。
有名コーヒーショップや小さめの本屋、土産屋などがある。
営業時間外の為、殆どのお店は閉まっている。
ホームへの登り階段・エスカレーターもある
「初手冷蔵庫がぶっ壊れたんでコンビニとか惣菜でしたよ」
「そのあとレンジと洗濯機いかれて終わったんですけど」
クレーム来る前にレフェリー廃業しよ。
「そう、住み込みは都合よかったんですよね…」
「エアコンは無事です」
「長期バイトとかダルくないすか?面白けりゃいいんで」
仕事を舐め腐っている態度アリアリ。
口ぶりからして、金欲しさとは無縁っぽ~いガキだった。
「エアコンはどうなんすか?エアコンも壊れた?」
「冬に壊れたら死ぬすぎる。ここが住み込みでよかったですね」
「はあ……?」
勝手に勝負が発生して勝手に審判入って勝手に引き分けとはね。
俺じゃなかったら完璧ブチギレでしたね。
なんだっけ、ムカチャッカマウンテン?みたいな?
「ゥワ~不憫……」
「今どうしてんすか、冷蔵庫もイカレた感じすか?」
「毎日コンビニ飯とかすか。毎回あっためて貰うみたいな」
「どっちもどっち~」
勝手にレフェリーやります。引き分けです。
「えー僕も?そんな深い理由ないですけど」
「先月でかい家電がまとめて壊れたんですよね…」
遠い目。
「か~~ガキの癖にうるせぇすね……」
「いい事じゃないすか?お母さん大好きって」
大好き♡まで行くとキショいかも。
でも世間一般的に孝行者って褒め称えられるべきなんで。
「言えた義理じゃないすけど、もっとマシな仕事しろって思うすね」
「牛丼屋とかいいすよ。バタバタして時間早く過ぎるんで」
「マザコンにガキって言われる~」
棒読みVS先生に言ってやろ~のノリもあります。
レフェリーって無限に必要らしいな。
「バイトしたことないからしてみたくて、です」
「じゃあ次、七篠さんの番」
お通しパス。
「お~~……」
「…………」
「……」
ガキだね~の相槌は沈黙に掻き消える。
図星かも。
「近い歳頃の子が来とるんすね」
「七篠さんは……どっち?って感じの名前すね」
「きみも、右に倣えで志望動機を俺に伝えなきゃならんす」
「敗北の味が罰ゲームってことで…」
「22が惜しいなら同い年の可能性あるんですかね、二十歳です」
こっちも勝負してた。負けを認めましょう。
「僕は七篠です。数字の七に長篠の戦いの篠」
「お~~……ガキすね」
「ガキ可愛いすね~」
めためた棒読み。
レフェリーが入り用なら教えてください。
「八木さんすか。紙食ってそうで良い名前」
「何でまた19の子がこんなバイトに?」
「これ、お通しっす」
皆聞くでしょこれ。俺も聞きます。
「惜しいん?じゃあ歳上確定じゃん」
「こっち19だもん」
隣は遠のいているらしい。
つまり、勝ちじゃんね。勝手に勝負を開始すな。
「あと名前はヤギ。数字の八に木登りの木で八木」
ついでに名前もオープンにしておいた。フェア精神ではなく名前知っててもらう方が楽だから。
何故か知らん野郎共のツーショットツーピースをゲットしてしまった……。
「あ~~25は遠退いたっすね」
「きみも罰ゲームすよ、これは」
「辛気臭い顔してる奴に何求めてんすか」
「でも別に重くないすよ、ガキの頃からそうなんで」
適当に聞き流してくれたらいいんで。多分正解。
ここらで唐突にどしたん話聞こかされても、
逆に困るってか、何?ってなるんで。
「いや~~~……」
「正味滅茶苦茶惜しいすね。つまりハズレっす」
「なんで、きみの名前に年齢を先に開示せなならんすよ」
通らないんだな、これが。
「本当に実害出てるんですか」
嫌すぎるな。ツーショにはピースしとこ。
「大黒柱じゃないですか、大変ですねぇ」
「えー、じゃあキリよく25で」
「ほ~ん。重て~」
「写真、ヤバいの写ってたら供養しておいてくださいねぇん」
人の家庭環境を簡単に流す口ぶり。お互い同調みたいな流れじゃないしさ。
それよりも謎ツーショが完遂されたことの方に意識が向いているらしい。嬉しいね~。
「だるいのきた!うーん、」
「………………」
「22!」
長考の後、回答。通れ!
「痛ぇこと言う」
「でも、うち貧乏で、俺しか仕事しとらんので」
「一人二人三脚は出来ないんすよ」
謎のツーショットを確定させてやろうね。
報告書と一緒に提出してやろうかな。
はい、チーズ。
「縁起物の縁に入る出るの出るでエニシダです」
「そうすね、……」
「俺幾つに見えます?」
かる~い質問にはダル絡みが平積みされもする。
「マザコンなら家で介護しろし」
お!撮るじゃん!
ノリいいね~とかぼやきつつ、もう一人の男の隣に立った。
そして、ピース。
「親がもう歳ってことは、帽子の人ってアラサー?えー、てか名前何」
かる~い質問にはかる~い質問が上乗せされることもある。
ピースサインを半ば合意と見做してシャッターを切る。
これってちゃんと合意なんですよね。
これって盗撮にならないですよね。
パシャってね。
「俺、超マザコンなんすよ」
「でも、もう、大分歳いっとるんで」
「老人ホームに行かす金稼ぐのが孝行かなって」
「ワ。襲われたらとかそういうの考えたことなかった」
新視点。
「いうてないっしょ」
「ンマ~もしあったらデカい声で叫んでもらっていいですか?置いて逃げるので」
「特別支給って奴?肩透かしなのはまあ残念でしたね~」
掲げられたのを見て、ちょみっとピースをする仕草。
だって撮ってくれそうじゃん。その動作。
「サボっときゃいいって言う割に、言った本人はきっちり労働してんだ」
「バイト代何に使う気なん?」
「見回りする分には肩透かしで助かるんですけどね」
「ヤバいのに襲われるとか嫌ですし」
掠め取られに軽い会釈。
お疲れ様は万人が受け取っていいものとされています。
「ん、」「つかれ~す」
本人不在とあらば中々文句も付けられん筈なんで。
掠め取られたご挨拶にユルめの鸚鵡返し。
「はい、オモチャみて~すけど、カメラすね」
「これで何かしら映ったら稼ぎになると思ったすけど……」
「寧ろ、肩透かしみたいのが多くて」
掌に収まるくらいのちま~いカメラを掲げて見せる。
「お疲れ様でーす」
叫び声&足音の主とは無関係の奴が、独り言に返事。
topic:人へのお疲れ様は奪っていい。
「ん~ね。サボりをチクるとかも誰もやんないだろうし…」
「帽子の人は今何してんです?それカメラ?撮るの?」
「や~っぱ、映んねえな」
「ん、……」
ぱたぱたってかばたばたな気もするけど。
ともあれ何やらたったか通り過ぎてったな。
「ここの勤怠適当だと思うんで、適当にサボっときゃいいのにね」
「うわ、何があったんだ…。お疲れ様です」
叫び声と足音にご愁傷さまのテンションで独り言。
このバイト、無理な人は本当に無理なんだろうな。
「足はや。ビビりじゃん」
遠のく足音の方角に軽く視線をやって見送る。
う~ん、深夜バイトには向き不向きがあると言われているらしいですね。向いてなさそ。
「かわいそ、ウケる」
ぱたぱたと駆ける音が過ぎていった。
何人か他の巡回者とすれ違ったかもしれない。
でも誰かなんて気にする余裕もなく宿舎へと向かっていった。