ホームA
ホームの一つ。
1・2番のりばがある。
「漫画とか映画とかのフィクションがまんま『そう』とは限らないしね」
ああいうのだと不老不死ってのがほぼほぼ。
とはいえリアルじゃどっかしら違うかもしれないし。
「否定はしないんだ…」
「アタシは……どーだろ。ドライ系かも」
慣れちゃってるしな…とは言葉にしない。
「うーん」
「生き続けるのって想像つかないしなぁ」
考える素振り。答えになってないかも。
「そう見えるならそうかも」
「自分が何系! とかって考えたことなかったな〜」
全体的にふわ〜っとした返事を寄越して。
「東谷さんは何系?」って聞き返す。
参考になるかはわからないけど。
視線を逸らしたのには特段触れない。
敢えて触れないのかもしれないし。単純に見逃しただけかも。
「そらね。でもアタシは犯罪はヤだ~」
前科無しの潔白でいたいですし。
「あがくのも結構疲れるもんね」
「…みっちゃんってわりとドライ系?」
「アタシと同じ考えなんかな。生き続ける方が怖いってカンジ?」
死ぬ時は死ぬ、の言葉には一瞬視線を逸らし、そのままスルー。
仮に同意をするにしてもしにくい内容だから。
「それはねー そう」
「どっちもどっちだけどねー」
botかな?みたいな返しをしつつ。
「なるほどね〜」
「まあ終わりがある方が有情かもね」
「はいそうですかしかすることないのもそうだし」
「変に足掻かなくって済みそうっていうか」
「人が死ぬのだっておんなじだよねー」
「死ぬときゃ死ぬんだからさ」
「社会的に死ぬよりいいかなって思わん?」
自分は犯罪の方が忌避度が高いので。
あなたはもしかしたら違うかもしれないけれど。
「アタシ?」
「………」
「アタシは、ずっと生き続ける方がヤかなぁ」
「死ぬのはさ、まぁ。なんというか」
「諦めがつくし」
そうやってみんな居なくなったから。
「それもねー そう」
犯罪するのとどっちがおそろしいかって、人によりそう。
「そうそう」
「触らぬ神に祟りなしってやつかもねー」
「東谷さんはどっちの方が怖い? 死ぬのと」
「でもだってお金欲しいじゃぁん…!」
犯罪に加担はしてないだけマシだとまだ思うのは自分だけだろうか。
「…死ぬこともできなくてずっとそのまま…って、あれじゃんね。本コワとかでありそう」
「とりあえず線路から外に行こうと考えるのはやめておいた方がよさげってカンジかな」
「うーん」
「こんな怪しい仕事に来る時点で正気じゃないって言われたら、そうだなぁって感じだし」
「なんとも言えないねー」
幻覚が見えるってだけが正気の基準ともいえないし。
あくまで目安になる、ってだけかも。
「ねー」
「そこで死ねるならまだいいけど」
「本当に“永遠”って可能性も捨てきれないんだな〜、これが」
「この仕事してる中で『正気』な人ってどれくらいいるんだろーね」
自分は正気だと思いたいけど、自信無くなってきたな。
この仕事を始めてから、ずっと寒い。
「そっか、どっかに着かない可能性もあるか」
「そしたらもう絶望じゃんね」
「おかしくなってない方がおかしい気がしてくるのもそう遠くないかもねー」
そんなペースですよね。
それまでに終わればいいんだろうけど。
「うわ〜いかにも危ない橋って感じ」
「どこかに着けばまだいいけど、どこにも着かないのが一番困りそー」
延々と線路の上を歩き続ける。
引き返しても、そこには線路が永遠に続いているだけ、とか。
「喜ばないかぁ~」
そらそう。
「無事に終わって欲しいよね…」
「日に日におかしくなってる人が増えてるし…」
「行ける所増えるペースめっちゃ速くない?」
「…線路沿いに歩いて行けばここから出られるんじゃって思ったけど。
変なとこに行きそうだからやめといた方がいいよね」
駅そのものが異常だったら怖いな…。
「そうだねぇ、他どこが見れるのやら」
やっぱり楽しそうな声色。
「業務道具、とまではいかなくても、お菓子とかレベルのおまけで売っててもいいよね」
カイロで増える異常はやだなぁ…
「そういや日に日に行けるところ増えてるけどさー」
「これ以上回れるところってなんかあるかな」
「ホームまで来ちゃったらもう思いつかないっていうか」
このペースで増え続けるならもう本当に全容が見えないかも。
「駅そのものが異常だったりするのかもなー」
(笑)、って付きそうな声色。
「間戸くんは別に喜ばないんじゃないかな……」
「まだあと一週間もあるのかって思うけど」
「終わってみれば案外短かったなーってなるんだろうな」
ほな大丈夫か……
次、の約束にはそうだね〜って緩い相槌。
「確かに」「業務道具にカウントしてくれてもいいよなあ」
「なんせ真冬の駅だし……」
カイロで増える異常もなんかアレですけど
「元気しか取り柄ないからね~」
自分の元気を誰かにお裾分けできればいいなって。
「カイロが欲しいのはそう!自販機にあったかい飲み物売ってるのが幸いかなぁ」
せめてものカイロ代わり。
「異常扱いされて喜ぶのは……まどっち…?」
あの人は幽霊を見たい側の人なんですよね。
「ね。思えばもうあと一週間かぁ」
「長いようで短いような」
きちんと食べて飲んでるから多分大丈夫なはず!多分!
「そなの?じゃあよかったけど~」
「次また一緒に行く時教えてね」
その時に自分がそこにいるかは運次第だけど。
「イヤだったか〜」
名案だと思ったんだけどな……
「あと一週間の辛抱だね〜」
なんだかんだでもう半分近いのでね。
なんとかなるといいねーって気楽そうに。
人って風邪を拗らせたら死んじゃうんですよ!
「うん? してないしてない」「大丈夫だって言ったじゃん」
「ふつーに巡回して帰ったよ」
あなた抜きでその日は回っちゃいました。
まあまあ、また機会があれば。
新しく来た顔にもお疲れ様ーとそうだよーを返して。
「お、なっきーじゃん!おつっす~」
「アタシはお仕事途中なんだけど寒くてちょっと休憩ってとこ」
ハローと新しく来た顔見知りに手を振ろう。
知ってる人なら遠慮なく傍に向かおう。
人がいると安心しますね。
「異常扱いされるのはヤだな~」
「そっか、みっちゃんは寒くないんだね。いいなぁ~」
「お財布も寒いし気温も寒い!ポカポカになりたいよぉ」
流石にこんなところで死ぬなんてことは…ないだろう、きっと。
「そーいえばこの間アタシが帰った後だいじょぶだった?
まどっちと大喧嘩してないよね?」
「逆に復讐しにくるかもね……」
自分がされたら嫌なことって、人にしない方がいいらしくって……
相手が人じゃないなら大丈夫かな。そうだといいけど。
「みっちゃんだよ〜」
顔を上げて、手を振り返した。
目が合った、って言っても、正体は分からず終いで。
最初からずっと、人が何もないところを見つめてるだけでしたね。
「いいじゃん、そうすれば?」
「今ならなんだ異常か〜で済まされるよ」
「特段寒くはないかなー」
「お金がないって大変だねー。そんなに寒がりなのに……」
節約してる場合じゃなさそうだけどな。
死んだら元も子もないですよ。
「暗闇に懐中電灯チカチカしてるとなんか…パン屋さんでトングカチカチさせてるみたいで面白いね」
威嚇行為に対しそんな言葉を投げた。
「この声は…みっちゃん!」
ハッと気づくと見知った顔に向けて手を振った。
「布団被って出掛けていいならそうしたいよ~」
「ってかみっちゃん寒くないの?」
何か見えてるのかな…と暗闇と見つめ合う彼を不思議そうに見た。
虚空を見つめる猫みたいな…。
「……嫌がらせ」
なるほど。あなたの呟きを聞けば、やはり何かがいたのかも……と頷いた。
「俺もやっとこ。二度と出てくるなよ……!」
懐中電灯で近くの線路をチカチカと威嚇する。
満足すると、見回りに戻っただろう。
「んー? 嫌がらせ」
「何がいたんだろうね。気のせいだったかも」
会話っていうより独り言の応酬みたいかも。
この辺で勘弁してやるか……とチカチカさせるのはやめた。
まだいるのかなあって、暗闇と見つめ合っている。もう何も見えないんですけどね。
見回りを続けていると、線路に向けて懐中電灯をチカチカさせている人がいた。
「何やってんだろ。何か見たんかな……」
そういえば、俺もさっき線路を照らしたら、何かと目があった気がしたんだっけ。
「ま〜た寒そうにしてる」
「もう布団でも被りながら歩いたらいいんじゃない?」
なんたって今日は調子が良いので、独り言だって拾えちゃいます。
明かりは線路に向けたまま。カチカチ。ピカピカ。