ホームB
ホームの一つ。
3・4番のりばがある。
「そうなんですか、そんなに……」
へえ……そんなに……そっか……
「まーまーすずめさんは会わない方が良いんですから」
「そんな事は考えなくて良いんですよ」
「うん…本当に大きかった…無理だった…
少し休憩したら、今日は帰るよ…」
大丈夫だよ、見たがってるのは知っているので気にしない…
「ホントに良いガードにはなりそうなんだけど。
これで見たりできたら一番いいんだろな…」
「苦手なものが巨大化したら、それはキツイよな」
蜘蛛。ただでさえキモいのに。
「まどい君ガード、あらゆる怪奇が散りそうで便利かも……」
「ありがと…座る…」
小柄な見た目通り、男性が持ち上げる分には問題なく
腰が砕けているのでちょっと歩くのが大変だけども
椅子にちょこん、と座れるだろう
それでもまだプルプル小さく震えていた
相当苦手らしいのは伝わるか
「ああ……」
噂に聞く大きな蜘蛛だ。腰抜かすほどダメだったか。
「とりあえず、ホームの椅子……座ろっか」
地べたで休ませるのも可哀想なので、移動させてあげたい。手で支えられるかな。
「はい、定めてます!」
そもそもの打率が低いんだから、
少しでも確率上げたいですよね。
寄り付かないなら尚更……
「はい、いますよー」
「そこらじゅうの視線も全部幻ですからねー」
良かったと決めつける先送りだけは一緒かもね。
「的確に狙い定めて……」
それでも見つからないというから不思議だ。
恐怖のネジが外れてるから、幽霊も寄り付かないのか?
「ああ、すずめさん」
「大丈夫。少なくとも此処に変なのは居ないよ」
「ぁ…まどいさん…っ…
それにウヅカさんも……」
いつもなら会釈でもするのに
そんな余裕どこにもなくって
顔面蒼白のまま、泣きそうな顔で
「よかったぁ、人がいたぁ…」
へにゃへにゃなのだった
そうした選択は素晴らしかった、と
決めるのは未来のあなたですしね。
恐怖のネジはちょっと
最初から完売してたみたいなんですよね。
これもまた幸福なのか、不幸なのか。
決めるのはきっと今じゃないんです。
「いえ、俺の仕事は全然これからで」
「丑三つ時って幽霊が出やすいのでー」
なんて話していたら、
ばたばたとこれまた知った顔が駆け込んでくるのです。
「あれ、すずめさん」
「お疲れ様ですー」
「それはそうだけど」
オジサンと言われたらヘコむし、アラサーって自称するのも心が追いつかない。
現実の幸福か。苦痛の不幸か。
ただ、それらも全部引っくるめて、大学院の扉を開けたのだ。
「はい。どういたしまして」
上げてみても変わらないまどい君の雰囲気。
恐怖のネジはどこへ行ったやら。
「僕は業務終わったけど、まどい君は?
ホーム下の状況を報告書に書いて終わりかな」
バタバタといつになく忙しなく走ってくる
懐中電灯の灯りがめちゃくちゃに照らして
リボンもズレたまま…顔面は蒼白になっていた
冒険、です。
「そんなに年寄りじゃないでしょう?」
多分、ですけど。
現実に歩めてるなら、その方が幸せなのかな?
けれどその果てに怯えてしまうなら、
それは不幸なんでしょうか。
「どっこいしょー」
「ありがとうございますー」
なんて言いながら、あなたを支えに這い上がる。
痛いとかは全然無くて、
別に何でも大丈夫なんですよ。
少し汚れてしまいましたが、
当然怪我もありませんし。
ずっとラクで早く戻れました。
娑婆の空気だなあ!
危険と分かって向かっていくのが無謀なんだよ。
「そうかも」
「自分探しの旅なんて発想も、青春酸っぱすぎてずっと昔だ」
自分探しなんてしなくても、もうその道を歩んでいるし。
それよりかは、自分の身体が電車にぶつかって止める方が、脳裏をよぎる。
腕を伸ばして、まどい君の細腕を掴み上げましょうか。ちょっと痛くても許してよ。
正しくあなた程にものを知らないから。
しかし危険と分かっていてやらないかって言われると、
うーん。
「えー? そうなんですか?」
「何だか後ろ向きですね」
自分のところで止まって、
そこからまた出発するんだと思ったんですけどね。
「ありがとうございますー」
折角なのでお借りしちゃいましょう。
1人で上がるよりはラクでしょうからね。
ちょっと羨ましい、若者の無謀な好奇心よ。
色々知り過ぎると、先に危険の文字が浮かんでくるからさ。
「そう?
自分を轢いてくる電車の方を思い浮かべたよ」
自分で止まる電車。
今なら『間戸井戸 行き』とでも表示されるのかも。
「ホームに上がってこれる?
手、貸そうか?」
大体どこのホームも小学生一人分くらいの高さがある。いくら大人でもこれを登るのは結構大変だと思うが。
呆れが……
まーまー、目先の興味に勝てない
素直な生き物だと思っていてください。
それにこんな機会は二度と無いでしょうから。
「あ、電車が走るって聞きました」
「自分行きの電車が来るって、何か……
自分探しの旅に出る青春っぽいJPOPの歌詞にありそうですね」
しかし下には特に何も無いし、
そろそろどっこいせと這い上がります。
今に電車が通ったら、
誰がそれに当たるんでしょうね。
楽しそうに返事するものだから、息を吐く。
今のは、半分は安堵と半分は呆れ。
「こんな時間に電車が走ったり、電光掲示板が急に動いて自分行きって表示されたり、かな」
そうだ。と思い出して懐中電灯が明後日の方向を向く。
此処は急に電車が通り過ぎる。退避スペースにいるまどい君より、覗き込んでる自分の方がマズイのでは……?
右往左往。電車が来ないのを確認する。
「怖かったら潜ってないですよー」
灯りに照らされて、
暗闇からまた顔を出した。
ちょっと汚れたかもしれませんね。
こんなものは何でもないんですけど。
「ウヅカさんは今日は何かありましたか?」
こちらは線路に降りて退避スペースに入っただけですが……
状況判断なのでそれ以上もそれ以下も無いかも。
「ああ~〜~っ ちょっと!?」
ホーム側からすれば、一瞬見えなくなった気がして。
覗き込むようにして、その退避スペースに懐中電灯を向ける。
「くっら…… 怖くないのぉ!?」
まどい君ならやるか、が
褒め言葉なのか呆れなのかは不明ですね。
「特に何も変わった事は無いですねー」
「あっ!」
「退避スペースがあります」
モゾ……と中に入ってみたり。
ちょっと埃っぽいですね。
「ええ………」
確かに電車は来ないし、怒る駅員は居ないし、本来入れない場所だけども。
「まあ、まどい君ならやるか」
幽霊ではないな。それは認めた。
「どう? ホーム下の景色は。
変なのとかある?」